しっかり者の親バカ兄弟
人という生き物は負の感情に左右されやすいのかもしれない。
殺意、後悔、嫉妬、絶望、怒り、怨み、軽蔑、苦しみ、悲しみ、劣等感、嫌悪、恐怖、不安……そう言った感情らは時に絡み合い複雑な事象を生み出して問題を起こす。
それは恵まれている統治国家レイオンも例外ではない。
最近の一番大きな問題は王都の入り口である城門にて発生した魔獣騒動を端とした。実際は身内のモーアを護ろうとしたクウなのだが、そんな理由を一般人が知る由もない。
『魔獣が城門まで押し迫った』に始まり、『青薔薇騎士団壊滅』に続き、『土国と軍事協定を締結』と発展。
そのうえ噂が噂を生み出して、『他国でも軍備拡大』、『戦争へ発展する可能性』などと物騒になっていった。
そして噂を裏付けるように『見慣れぬ土国の鉱族』が、『土国でも有数の魔術武具』を用いて、王都外れの閑散地に続々と『巨大な施設を短期間で建設』する。明らかに異常事態。注目の的となる。
国を、ひいては王の統治に害が及ぶ僅かな不穏因子を王弟クレイブは容赦しない。そして何事も最大限の自利になるよう画策するこの男にとって、民衆の意識が向いている今の最高状態を放置はしない。涎を垂らす勢いで喜んですらいる。彼が特に気にかけている大切な存在達にとって多大な利益を与える最高の機会だろうと。国に蔓延る負の流言飛語は総じて蒼月騎士団一行によって美味しく調理され、愛すべき子ども達の前へと運ばれることになる。
そんなこんなでクレイブプロデュースによる紅蓮華騎士団の創設発表会は大々的に行われることとなった。国を挙げての一大事業と言っても過言ではないぐらいに。
事の発端となったクウら魔獣士部隊は勿論、三つの構成部隊によるド派手なパフォーマンスで武力をアピール。鉱族の工芸加工技術で知識をお披露目。木国大使のマインも堂々と表舞台に立ったお陰で土国だけではなく木国との友好もアピール出来た。
かくして無事にオープニングセレモニーは大盛況で幕を閉じ、国内には再び平穏な日々が訪れることとなった。
そして次なる問題は紅蓮華騎士団の存在意義というか立ち位置についてだ。
紅蓮華騎士団はコニィアの私設騎士団という位置づけなのだがコニィアは王族である。そのためどうしても世間は国営組織として見るし、親バカというパトロンが存在するため国の行事に参加する傾向がある。財政的には窮地に陥ることはないが、王家の財源は国民の徴税であり表立って贅沢はできない。そのため営利組織としての側面も持ち合わせねばならず、必然的にその武力と技術力は切り売りされることとなる。
紅蓮華騎士団創設一年目は用地費や建設費など準備費用調達で国家予算並みの多大な借金でスタートしたが、二年目にはレイニーの奇想天外な発想によって運営黒字化に成功、三年目には評判や実績から武術及び技術の指南依頼が国内外からあり大幅増収、四年目には借金を完済し晴れて完全なる私設騎士団として正式に発表。四年にも及ぶ膨大な収支目録は自由に閲覧でき、商売を志す者にとって一度は必ず目を通すとまで言われるようになった。
そして五年目。
順風満帆に思えた紅蓮華騎士団にも陰りが見え始める。
コニィアに王女としての使命が下され、次期国王としての歩みが始まるからだ。
二十歳になった三人は再びそれぞれの道を歩み始めなければならなかった。




