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城門にて

 案の定、城門に着くなり荷物改めと身元確認が行われる。俺に非がなくとも逃走中の身であるため素直に申し出るわけにもいかない。ここにはもしかしたらさっきの仲間がいるかもしれないし。


「申し訳ありません。盗賊に襲われてご覧の有様でして。身分を示す物が何一つございません」


 他の門番が応援を頼んだのか、続々と兵士が集まって来る。集まった兵士をかき分けて、装飾の施された鎧を着た騎士らしき人物が歩みよってきた。


「あの〜これはどういう……」

「すまんな。規則なんだ。別に君をどうこうするつもりはない」

「はぁ」


 兵士の一人が駆け寄り、騎士に耳打ちする。


「準備が出来たようだ。申し訳ないが我々についてきてもらいたい。荷物もこちらで預からせてもらう」


 背後の兵士達が一斉に動いて馬車を確保。

 捕縛されるわけではなさそうだが、威圧感は半端ない。二人組の兵士がモーナを誘導し歩かせようとしたところで異変は起こった。


 モーナの胸に抱かれていた犬なのか狐なのかよく分からない生き物が飛び降り唸り始める。

 次第にその体躯は大きくなっていき、頭からは牛のような角が、脚には見ただけで痛くなるほど鋭利な爪が黒く光っていた。この世に生まれ変わって十八年、初めて獣の形態変化を目の当たりにした。

 大半はそういう生き物を魔獣とカテゴリーする。魔獣と知り合いというモーナはもの凄くヤバイ奴なんじゃないだろうか……


「全員城門まで退避! 青薔薇を呼べ!」


 騎士の怒号を掻き消すように魔獣の咆哮が重なる。大きくなったせいで近くにあった馬車が横転する。俺はこれ幸いと横転した馬車に隠れるが、モーナは魔獣の股下で腰が抜けたのか座り込んでいる。

 一拍置いて砂埃が登ると同時に人々の雄叫びもあがる。逃げ惑っているのか、こっちまで地響きが届く。そんなこっちでは逆に兵士達は怯えながらも武器を手に取り構え始める。

 魔獣はモーナを護るように左前脚を屈め、右前脚で槍を退けようと振り払う。

 どちらも積極的に攻撃を仕掛ける気はないようで次々と戸惑いが広がっていく。

 膠着状態もつかの間、兵士達が次々と去っていく。


「レイオン国第一王女コニィア゠オル゠レイオンです。度重なる無礼をお許しください」


 十八年間、美男美女には見慣れた筈なのに一瞬で心が奪われた。これがきっと異世界物恒例『メインヒロインの登場』なのだろう。きっとそうに違いない。

 騎士も下がり、代わりに大盾兵に護られた赤い美少女が現れる。


「私どもの行き過ぎた行いゆえに不要な争いが生じてしまいました。重ねてお詫び申し上げます」


 優雅に膝を折り礼を尽くす美王女コニィア。王女に合わせて兵士達も武器を収め敬礼する。

 魔獣も落ち着いたのか警戒を解き、馬程の大きさまで縮み、モーナの前で立ち塞ぐ。

 一色触発の危機は脱した!今がチャンス!


「土国外交官レイニーと申します。王女殿下に拝謁賜り恐悦至極。ここに居ますは私の使用人でモーナと申すもーーへ?」


 魔獣に襟首を咬まれ思いっきり投げ飛ばされる。


「いってー! 何しやがんだこのーー調子に乗ってすいませんでした!」


 ギロッと睨まれ即座に土下座。喰われるかと思うぐらい眼が怖かった。


「く……あはっ。あはは!」


 モーナが堪えきれずに笑い始めた。魔獣はモーナの笑い涙を舐め取る。お礼にモーナは首を抱きしめ撫でる。そんな微笑ましい様子に様々な負の感情は霧散した。



 ※     ※



 クセニアらと合流し、毒気が抜けて通常の小型仕様になったクウと戯れ合うモーナ。

 嫉妬を覚えるはずのシチュエーションに気づかない程、クセニアは自分の失態にひどく落ち込みヴァーノンに慰められる。

 コニィアは邪魔者(衛兵)を残らず下げらせ、城門を封鎖。人々の目を気にせず情報を集めだす。

 レイニーは事の次第を告げ、オロフとシュテルンは不可抗力とはいえ()()()()()を詫びる。


「で、モーナちゃんは衣食住と引き換えにレイニーに仕事を斡旋されると。鬼畜だねアンタ」

「俺どんなイメージ?! 違うよ?! 真っ当な医療だよ?!」

「こんな小さい子にお医者さんゴッコとか最低だよ」

「解釈! 間違っちゃいないけど方向違い!」


 スズカの傷具合を確かめていたマインがレイニーに軽口を叩く。


「にしても前世の記憶持ちとはねぇ。久しぶりに見た」

「やっぱり珍しいの?」

「どうかなぁ。自称する輩も含めると多いんじゃないかな。なんちゃらの生まれ変わりとかいう奴」

「あー」


 コニィアが冷たい視線でレイニーを見る。

 レイニーは天を仰ぎ『ノォー!』叫んでいる。


鬼畜(レイニー)が本物だったら勝手に成果を上げてくるでしょう。ニア、ちょっとここ酷いから手当宜しく」

「はぁーい」


 マインに呼ばれてコニィアはスズカの後脚治療に入る。クウと遊んでいたモーナがそれに気づき近づいてくる。


「こっちは私が治すね」


 モーナがスズカの首についた傷に触れ何度もさする。次第に傷は見えなくなったが不自然にテカリを放つ。ニアはモーナ腕を掴み、嫌がり必死に隠そうとする手をこじ開ける。


「あなたも……なの?」


 モーナは取り乱し、叫び声を上げながら涙を流す。クウが反応して険悪な雰囲気になるも、クセニアがモーナに飛びつき、無言で抱きしめ頭と背中を優しく撫でる。クウはコニィアを一瞥してモーナの肩に乗り頬擦りする。


「やっちまったな王女さん」

「やっちまいましたよ。完全に私が悪かったです。猛省」

「触れてほしくないとこに土足で入ってこじ開けたもんな。フォローしようがねぇ。気づいたかもしれねぇがクウも多分同じだぜ」

「やっぱり……」

「アイツも話せる。二人とも魔獣じゃなくて亜人だぜ」

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