紅蓮華騎士団
「とまぁそう言うわけ。おーけー?」
「これは命令。決定事項。拒否権なし」
グレタさんが軽快に説明をし終え、青薔薇騎士団参謀のベッテさんが気怠そうにダメ押しした。琥珀色の髪と金色の目は怠そうな雰囲気と相まって日没中の風景を連想させる。
容姿に見惚れているとベッテさんと目が合ってドギマギする。
吸い込まれそうな瞳と雰囲気に何とか抗い、グレタさんの話を反芻する。
紅蓮華騎士団。
王女コニィア専属の近衛騎士団として結成。
ニアを守る為に存在するが、国内における有事の際は第一線として活動する。
指揮系統の最上位はグレタさんとベッテさん。
構成部隊は魔術士、魔法士、魔獣士の三部隊。
ここまでは理解できる。
魔術士部隊はアービとヴァーノンさん。その他鉱族からの希望者。戦闘員だけでなく魔術武具生産部隊も組み込まれる。
魔法士部隊は俺とマイン。その他鉱族からの希望者。ぶっちゃけ魔術士関連以外の全員だ。
この辺もまぁ良い。良くはないけど考えはつく。
だが問題は魔獣士部隊。ニアとクセニア、そして『亡命者』のモーナ。この面子で「従魔法」なるモノを研究するらしい。
意図せず魔獣を従わせる事に成功したクセニアとクウとの関係を『従魔法』として位置づけ、論理的な思考のもとに解き明かす事が命題。良くもまぁ上手く仕立てたものだ。
この急拵えの三部隊を全面的に支援するのが非公式の蒼月騎士団。まぁグレタさんが居るから必然的にそうなる。グレタさんは瑠璃を、ベッテさんは黒曜を指揮する。柘榴チームは三人と一匹、ある意味ニアの遊び相手だ。
この方針のもと、ベッテさん、アービー、クセニアは青薔薇を退団。ニアもマインも所属する研究機関の整理を開始。ヴァーノンさんも強制退職となった。
運営資金は国庫からだが、鉱族の魔導技術と知識によって充分な収入が見込める。
そして鉱族をよく知っている同郷の『亡命者』であるレイニーの出番となった。
構成員の大多数が土国縁のものという騎士団もどうかと思うが、レイオン国そもそもが人種のるつぼなのだから気にするだけ損。らしいっちゃらしい。
大抵の場合、国も絡めた思惑に巻き込まれた場合、個人の尊厳なんてないに等しく、決まって苦渋を舐めることとなる。
それでも今回の件は各個人にとって悪い事だらけではない。もちろん俺にもだ。
ヴァーノンさんは先の戦闘で飛び道具がないことを悔やんだそうで、インゴ族長に龍脈弟子入りを決意した。
クセニアも鉱族の火魔術士に弟子入りを希望した。グレタさんもクセニアが未熟だと感じた部分も学べるよう考慮すると話した時、彼女は嬉しい反面、何で知っているのかと疑問をあらわにした。簡単な事だ。それが蒼月騎士団なのだから。
旅人二人の経緯もよくわからないままだし、鉱族と土国との因縁も不明瞭。レイオン国内のあれやこれやも、何一つ具体的な解決策はありゃしない。
それでも俺たちは今できる事を精一杯やっていくしかない。小さな一歩をコツコツと。
俺の最初の一歩は筋金入りの引きこもりを暗闇の中から引っ張り出すことから始めようと思う。
きっと自分で手枷足枷だけでなく、首にも心にも重りをつけている変態になっちゃったから。
あの時の、俺を救った強い心を取り戻してやれるのは、この世界で俺しかいないはずだから。
昔も今も、今回のはニアのせいとは言えないかもしれないが、軽はずみで怖いもの知らずの行動に一緒に振り回されてくれるかけがえのない仲間を。
今後、ニアの暴走を止める立場にある仲間として、身分の違いはあれど本当に大切な友を。
俺は絶対に取り戻す。
あの日の借りを返すんだ。




