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お茶会

「アービーテリー! 大冒険の時間だよっ!ってくっさっ! お酒くさっ!」


 勢い良く扉を開けて声を張り上げる赤い太陽。緑の精霊は換気を促すように、開け放たれた扉を背にして鼻をつまむ。


「誰かと思ったらニアか。その格好、仮装大会でもあるのか? マインはすげぇ似合ってるぞ。ちょっと空飛んでくれ」


「ひどーいアービー。おめかしした女の子に言うセリフじゃない! やり直しを要求します」


「二人とも頼むから静かにしてくれ」


 こめかみを抑え唸るシュテルン。それまでの沈鬱な状態を少しも見せないアマビスカの言動に乗っかる。


「この臭いの元はテリーか! もう強制連行です。皆さんも外で食べましょう」


「甘菓子とはありがてぇ。いただくぜ」


「んなっ」


 ヴァーノンはひょいっとコニィアの籠からクッキーを摘み喰いする。


「こいつは酒にも合うが、時間的に茶と洒落込むか。クセニアちょっと手伝ってくれ」


 シュテルン程ではないがクセニアもそこそこ酒が残っている。目の前に出されていた水を一息に煽ってから立ち上がり、ヴァーノンと一緒に杯と飲み物を準備する。流石に部外者のヴァーノンに安物とはいえ備品を勝手に持ち出させるわけにはいかない。


「アービーはこれ持って。テリーと先に場所確保ね」


「ニアはどうするのさ」


「私はお客様をご招待してきます。流浪の旅の最中に我が国に立ち寄ってくださった素敵な旅人のお二人を」


 アマビスカはうわぁと声には出さないが顔全体で表現する。誰かの入れ知恵があったようだ。コニィアはルンルンと友達の部屋に行く気軽さで仮眠室へと向かう。


「なぁマイン。夜には呼び出しがありそうだって聞いてたけどもしかしてコレが?」


「んーそうとも言う。けど、敢えて言うなら親睦会かな。ちなみにベッテさんが発案者ね」


「ベッテさんが? 青薔薇参謀直々とは大事だ。まさかとは思うけど親睦会には……」


「グレタさんと一緒に合流予定」


 再び、うわぁと声には出さないが顔全体で嫌悪を示す。


「そんな顔しないの。グレタさんにはすごーくお世話になったんだから」


「グレタ姉に? てかマインはグレタ姉と面識あったの?」


「ついさっきね」


 チョイチョイと遠慮がちにアマビスカを手招きする。アマビスカはマインから籠を渡されるとグイッと顔を近づけさせられた。


「後でグレタ()()()のお話を聞かせてちょうだい。あの方のことをもっと知りたいの」


「お姉様って--あっそうか。アイデンティティーってヤツか」


 マインは訳が分からず首を傾げるが、『ヨロシク』と片目を閉じて、うんうん頷くアマビスカの肩をポンと叩く。そのままヴァーノンとクセニアの手伝いに移る。


「おーいテリー行くぞー」


「どこにだよ! あぁもう! 全く」


 クセニアと同じ仕草で目の前の水を一息に煽りゲップをするとアマビスカと一緒に広くて邪魔にならない場所ーー練兵場へと向かった。



 ※     ※



 練兵場に着くなり、シュテルンは魔法で台座を作り、火起こし用の竈門を作り、万が一の時用に火消し用の水桶を用意した。


「ホント魔法って便利だな。テリーがいれば遠出がかなり楽になる。イチパーティーにイチテリー。金儲けできるんじゃ」


「量産型俺とか誰が得する」


「俺は助かるけどな。物理的にも精神的にも」


「どんだけ俺が好きなんだよ。照れるぜ」


 そんな戯れ合う二人を遠巻きに見つめるクセニアとマイン。クセニアは鼻息荒く、マインは腕を組みブツブツと考察し始める。

 別方向に腐り始めた二人を追い越し、ヴァーノンは台座に食器と飲み物を置く。


「気になってたんだがシュテルンの水は飲めるのか? 飲み水に困らないことは冒険者に限らず旅をする連中にとって魅力的ではある。俺なら美少女バージョンで一つ買おう」


「あいにく僕に女装趣味はありませんよ」


「そう言えば昔、ニアと三人で給仕遊びした時にメイド服着せられてたよな。すげぇ可愛かったの覚えてる。今でもまだイケるんじゃないか?」


「おい。いい加減にしろよ? な?」


 シュテルンは火鳥と水槍と石礫を生成し、今にも全ぶっ放しそうな雰囲気を醸し出す。もちろん遊びでだ。


「三人の昔話、私も聞きたーい」


「あ、私もすごく興味あります!」


 マインは単純に親友の幼少期エピソードを聴きたい一心で、クセニアは新たな養分を仕入れたい一心でだ。


「いきなり昔語りを求められてもなぁ。テリー何かあるか?」


「ポニーに乗って誰が一番早いか競った時はニアが急に大声出して全員落馬した事とか?」


「あったなぁ! 俺あの時脱臼して二日か三日ぐらい剣の稽古出来なかったぞ」


「俺は足の小指折れた。誰にも言えなかったけど」


「嘘だろ……まぁ宰相に知られたら確かに面倒な事になってただろうなぁ」


「当時も今も苦労してんだぜ? 分かってるのかホントに」


「俺に言うな。ニアに言え」


「言えるか!」


 悟りを開きそうなクセニアの横で、マインが『聞いてた内容とちょっと違う』と呟く。


「お待たせ! 説得に時間がかかったけど、お客様の登場です」


 居ないところで色々と文句を言われていたコニィアがレイニーとモーナ(クゥの襟巻き付き)を連れて来た。


「初めましてレイニーさん、モーナさん。青薔薇騎士団所属のアマビスカと申します」


「アマビスカ殿()()に御目通り叶うとは光栄の至り。恐悦至極にございます」


 アマビスカの表情が一瞬曇るが、モーナに視線を送り語りかける。


「モーナさんはお医者様でいらっしゃるとか。何用でレイオンに?」


「それは……」


 モーナは答えに困り視線を泳がせる。コニィアがすかさずフォローに入る。


「まぁ先ずは乾杯といこうじゃないですか! みんなぁー飲み物の準備はいいですかぁ!」


 それぞれの手に不揃いのグラスが行き渡る。


「それでは。ここにお集まりの皆様にとって新しい門出を祝いたいと思います。アービー率いる魔術士部隊『黒曜(オブシディアン)』、テリー率いる魔法士部隊『瑠璃(ラピスラズリ)』、そして私が隊長となる『柘榴(ガーネット)』。三つの部隊からなる騎士団『紅蓮華騎士団』の輝かしい未来に乾杯!」


「「「「「「えええぇぇぇ!!」」」」」


 コニィアの宣言にマインとクゥ以外の全員が絶叫した。



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