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コトワリ

「真……実?」

「そうです」


 コニィアは呆けたまま呟く。

 マインは見知らぬ顔に少しばかり警戒をするが、コニィアとグレタは旧知の仲と見て取り様子を見る。


「あの晩に起こった出来事と偽らざる故人の気持ちをあなたは知る決意がありますか」


 グレタはゆっくりと近づき、マインからポタポタと落ちた形ある様々なものを拾い集めた。


「私も礼装時には苦労します。詰めるより巻いた方が良いですよ」


 グレタは大げさな仕草で髪を掻き分け、特徴的な尖った耳が露わになる。

 マインのハッとした仕草でコニィアは我に帰り、慌ててマインから飛び退いた。


「決意も何も、私は罪を償わなければいけないのだもの。罰は受けなければならないのよ」


 コニィアは動揺を隠すようにパンパンと服を整えながらグレタを見つめる。


「グレタさん、あなたの知っていることを教えて。私はもう逃げない。逃げたくないから」


 マインはそっと近づきコニィアの手を握り、横目で見るコニィアにウィンクを送る。


「わかりました。あの晩、アマビスカの母君であるカロリーネ様に起こった悲劇、それにまつわる悲しみの連鎖についてお話ししましょう」


 グレタは祈るように手を組み瞳を閉じると語り始めた。


「あの晩、屋敷に戻られるカロリーネ様の護衛に着いたのは私の部下でした。王都内で尚且つ王宮は目と鼻の先、大事なんて起こらないと油断していたのでしょう。ろくに武装もしていない中、断定は出来ませんが土国所縁の者にカロリーネ様は襲われました。部下はなんとか合図を発しましたが、私が駆けつけた頃にはカロリーネ様は護身用の短剣で自ら胸を貫いて息も絶え絶えの状態でした」


 コニィアの手に力がこもる。マインは優しく握り返す。コニィアは俯きかけたが持ちこたえる。だがゆっくりとコニィアは沈んでいく。


「カロリーネ様は涙を浮かべながら最後まで愛する人達の事を案じておられました。ご子息アマビスカのこと、夫であるクレイの事、そして姪であるあなたの事も」


 浮上とまではいかないが、沈みが止まる。


「カロリーネは特にあなたのことを案じてました。クレイを信じていたから、アービーが哀しみにくれたとしても立ち直させる事はできるだろうと。でもコニィアはどうなるかと。誰が助けられるかと。私に問いかけ続けました。ーー私はその問いに答えることが出来ませんでした」


 グレタは今まで礼をわきまえ体裁を整えながら話していた口調から一転して感情をあらわにした。


「自分の命が消えかけている中、最も愛する夫と子よりも壊れてしまうかもしれない優しい姪の事を案じているカロリーネに……最も傍に居たカロリーネ(親友)に気休めの言葉すらかけられなかった!」


 握ったコニィアの手はマインの手に爪が食い込み血が滲むほどだ。それでもマインは手を離さない。


「私の魔法じゃ少しの時間を与えるだけだった。たったそれだけしかできなかった。私のオドは枯れ果て、一気にカロリーヌの瞳からは生気が抜け落ちていった。死期を悟ったカロリーヌは最期に笑いながら言ったんだ。『あの子達に一つでも多くの笑顔が、幸せが訪れるように』と」


 コニィアは崩れ落ちるが、マインがしっかりと手を握って膝をつくに留まった。

 コニィアにとってそこに救いはなかった。自分のせいだと閉じこもっている彼女には故人の真意は届いていなかった。


「罰せられるべきはコニィア様じゃない。親友を護れなかった、死なせてしまった未熟な私だ。親友の息子から母親を奪った私だ。大切な仲間から愛する妻を奪った私だ。断じてあなたじゃない」


 しばらく経ってもコニィアは動かない。グレタも何も話さない。ただ一人、マインだけが静かな怒りを発していた。


「二人とも何馬鹿なこと言ってんの?」


 さっきまでとは逆に、力無いコニィアの手を強く握る。


「アービーママが死んじゃったのは悪党のせいでしょ? グレタさんが殺したわけじゃない。アービーママが襲われたのも計画的なものでしょ? ニアの我儘で起こった訳じゃない。確かにグレタさんにニアの様な回復魔法があればアービーママは助かったかもしれない。ニアが我儘言わなければアービーママは皆んなと朝を迎えたかもしれない。でもね、どちらもタラレバなんだよ」


 マインは手を離し、コニィアを背後から抱きしめる。


「アービーママはさ、あの子()って言ったんだよ? 達の中にはニアも含まれているんだよ」


 コニィアがハッと息を呑む。

 マインはグレタを睨む。


「私は純血ではなく穢れた身だが、敢えて同胞として苦言する。あなたは仲間の最期の頼みを無下にするのか。その行いは森の民の祖として胸を張れるのか!」


 グレタは何も語らずマインを見つめる。


「あなたの親友(とも)は自分の代わりに一つでも多くの笑顔と幸せをもたらせるように託して逝ったのではないのか? あなたは亡き親友の精霊に胸を張れるのか?」


 コニィアは抱きしめているマインの手を優しく触れる。それはまるで『もう大丈夫』と語りかけるように。


「我が祖よ。叡智の民と謳われし者の名に恥じぬようを真実の理を今一度示したまえ」


 グレタは両手で己の頬を叩き気合を入れた。


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