失敗
致命傷がないとはいえ見た目では軽傷とも言えないヴァーノンさんに無理をさせるわけにも行かず、そしてそんなヴァーノンさんを護りきれる実力が俺にあるかと言われればそれも怪しい。残党が隠れて隙を窺っている可能性も大いにあるため、オロフさんは先に行けず一緒に歩く事となる。本当に俺は足手まといだ。自分の未熟さに苛立ちどころかムカつきもする。
「クセニアさんは火魔術士ですか?」
「ん? ああ。そうだな。鉱族のなんつったけな、名前は忘れたけどスゲェ火魔術士が大張り切りで弟子にさせようとしてたぞ。本人も最初から弟子入りを望んでたけどな」
「確かミレーヌという方でしたね。大張り切り……まぁそうですね」
正確にはフンスフンスと鼻息混じり(発情)でシェイクハンドブンブン丸だったけど。言わぬが花だ。
「やっぱりお二人とも鉱族の元で修行するおつもりですか?」
「そうだな。さっきの話じゃないけど、コイツのおかげで今も生きてる。乗りかかった船、鉱族とアマビスカと一緒ってのも悪くない。と少しは思う。ただ」
「ただ?」
「それは命を預けられると信頼できた上での話だ。俺は貴族やお偉いさん達には良い印象がなくてな」
「それはそれは」
先生は静かに含み笑いを浮かべている。
アマビスカという貴族の中でも超上流と一緒は良いと言う。そこには既に信頼が存在するということだ。
後は俺や先生の立ち位置次第ということか?
「さっきの戦闘で思い出した。族長のオッサンは岩の鎧で防御を、石礫で遠距離攻撃をしていた。同じくらいのことが俺にも出来ていたらとか思うところはある」
「龍脈でしたか。龍脈と魔術の知識が鉱族の強さに関わるのかも知れませんね」
そんな風に話す先生と視線が交わり、『あなたはどうするの』と聞かれてるような気がした。
「皆さーん! ご無事ですかぁー」
馬に乗り、杖を握った手をブンブンと振るクセニアが近づいてくる。
その声に先生の視線は鋭さを増し、クセニアが近づく頃には静かな怒りを醸し出していた。俺は冷や汗をかき、同様であろうヴァーノンさんも困惑な視線を寄越す。
「襲われてた人はどうしました?」
「無事に王都へ入った頃かと思いますけど」
「何してるんですか! 安全の確保を確認せずに離れるなんて言語道断! 直ぐに戻り合流し所属騎士団員と連携をーー」
叱責が終わるよりも先に王都方面から地響きと砂煙が昇った。
※ ※
マインに手を引かれて急ぐ衛兵達の後を追うように歩く。急に強くなった息苦しさが怖く感じたけど、マインが握ってくれてるおかげで前に進める。
もしかしたら二人に逢えると思うと、三人で遊び回っていた頃を思い出す。
丘を誰が一番早く駆け上がれるかで勝負したり、草の冠を上手に編めるか競ったり、しょうもない事で笑いあったりケンカしたり。
でもいつの間にか三人でいることが難しくなった。
私はまた三人一緒で遊びたいんだ。
「ニア! ねぇってば!」
ハッと我にかえりマインと目があう。
城門の前には人集りが出来ており、衛兵達が立ち去るように誘導している。
「これ以上は無理っぽいね。結局何があったのかもわかんないや」
「ケンカだったのかな。それじゃお菓子屋さんにでもいこっか」
息苦しさもドキドキもなくなり、何事もなかったかのように装いながら回れ右。マインのため息が聞こえたけどあえて無視。
この気持ちは恋とか愛とかそんなもんじゃない。うん。きっとそうだ。
「でー、お菓子屋ってどこにすーー」
マインの声をかき消すどころか、心の底から恐怖心を煽る雄叫びが聞こえ、野次馬たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。走っていく人達を避けて、衛兵たちの視線を追う。
そこには一匹の大きい獣が門の前に陣取り、誰も出国させないとでも言うように威嚇している。
「何あれ! ちょっと洒落にならないよ!」
マインは後退りながらもしっかりと周囲に気を配る。マインなら逃げ遅れた人達を魔法で助けられるかもしれない。
私に出来ることは……
「マインはここをお願い! 私は先に行く!」
「ちょちょっと!」
逃げ腰になっている衛兵たちをかき分けて城門前に駆けつける。
「コニィア様!? なんて間の悪い。今日はご覧の通り通せません。至急お下がりください」
「今日は息抜きじゃないの! 何があったの?」
「不審な輩を尋問中、そこの獣が暴れだしまして。最初はちっこい犬ころだったんです。それが急に大きくなって」
私の名前を聞いたからなのか、大盾を構えた重装兵が私の前を遮り、入れ替わるように下がった顔見知りの門番が手振りを添えて話してくれた。
「姿を変える獣で無害な種類ってどんなのがいる?」
「知る限りではその手の獣は魔獣って言われますよね」
「だよねー」
魔獣と思しき獣は近づく者のみ威嚇し、進んで攻撃を仕掛けることはないように見える。
「暴れ出した時の詳細は?」
「盗賊に襲われたとか言う身分証のない商人らを保護しようとしたところを急にです」
「なるほど。ちょっと通して」
「えっ? ひ、姫さま」
重装兵を押しのけ最前列へと向かう。
城門の内側で列をなして槍を構える兵士は及び腰で、槍を突きつけられた獣は姿勢を低くし前脚で槍を牽制する。
どこか不思議とオモチャで遊ぶ飼い犬のような雰囲気だ。
獣の背後にはかなり傷んだ、所々に矢が刺さっている馬車があった。
「やっぱりこれ大丈夫なやつだ」
獣の眼は怒りと怯えを映しているように感じた。




