一緒にぶっ壊しましょう
爆発と共に何も見えないままゴロゴロと地面を転がされる。
勢いよく転がっていたせいで眩暈はするし気持ち悪い。
だけどまるで極上の羽毛に包まれてたかのように衝撃は全くなかった。
「うぅ……何だったんだ?」
「シュテルンさん大丈夫です?」
目を開けると俺を押し倒したように覆いかぶさっているオロフさんが心配そうに見つめている。
オロフさんは顔にかかる崩れた髪を耳にかける。
少し呼吸を乱し辛そうにしている表情が実に艶っぽい。
呼吸を止めて一秒以上オロフさんを見つめていたかもしれない。
「ん?」
どうしたのとでも言いたそうに首をかしげるオロフさんの可愛さで我に返る。
同時に小さくもなく大きいでもない魅力的な果実も目に入る。
「だだ、大丈夫です。ありがとうございました」
目のやり場に困り慌てて視線をそらす。少し名残惜しいけど。
オロフさんはゆっくりと俺から離れ周囲を見回す。
時折地面の土を拾っては臭いを嗅ぎ指で擦り合わせる。
「結構派手に弾けましたね」
「鍛冶場で見た焼いた鉄を水に浸した時と同じでしたね。今のは逆ですけど」
「爆発する原理がある訳ですね。興味深い」
不気味な笑みとオーラを醸し出すオロフさんを極力見ないようにし俺も現状を確認する。
まばらに立っていた樹木は焦げたり、枝がへし折れていたり、根っこが剥き出しになるほど傾いていた。
背の低い草は爆発の中心から離れるほど残っており、逆に中心は草は見当たらず、土は変色している。
これを俺がやったのかと思うと結果としてはマイナスだが過程としては大幅なプラスで非常に嬉しくにやけてしまう。
いつの間にかオロフさんがブツブツと独り言を不気味に放ちながら横に立っている。
「火魔法の熱による発火と熔解、水魔法との接触により生じた爆風で鎮火。周囲に火災らしき様子は見受けられないため、熱量は飛散していない模様。となると水魔法との接触により両属性のエネルギーに変化が生じ爆風現象を起こした。属性の融合?!」
急にシュテルンさんが大声を発し俺の肩を揺すってきた。
「シュテルンさん! これは凄いことですよ! 相克による融合魔法が確認できれば五行の概念を覆すことになります! 予想以上の大収穫ですよ!」
「――予想以上?」
俺はオロフさんの腕を掴み目を見つめる。
オロフさんは苦笑いを浮かべながら顔を逸らす。
顔を両手でガシッと掴み目線を合わすも瞳は泳ぐ。
「あなたは、いや――おじさんも含めてあなた達は何を企んでます? そして何をしたのです?」
甘い雰囲気を醸し出しトキメキを覚えてもおかしくない状況下なのだが湧いてくる感情は怒りしかない。
成長を感じられた一瞬が仕組まれたものだとしたら道化もいいとこだ。
怒りを隠さず曝け出していると、オロフさんは親しみを覚える態度から最初に会ったときと同じく無表情に変じた。そしてすぐさま俺の腕を絡めとり、俺は宙を舞った。
「謀はたくさんあります。全てをあなたが知る必要はありませんし教えるつもりもありません。何に怒っているのか察しはつきますが見当違いも甚だしいです」
受け身を取りそこない痛みを堪えている間、オロフさんの周りを無数の水球が漂い始めた。
「そうですね。正式に自己紹介をしましょうか。私の名はオロフ=ブルムダール。蒼月騎士団所属の水魔法士です」
自己紹介の短い間にも空中で水球は一つに集まり巨大化するも、次第に小さく形を変え一本の弓矢のようになりオロフさんの手元に舞い降りた。オロフさんはその弓矢で射るしぐさを取る。何もないはずなのに弓幹も弦も見えた気がした。
「イメージも大切ですが物造りではないんです。オドは単なる起爆剤です。マナを操作し続けるのです。手元にあろうがなかろうが変わりはありません――少し頭を冷やしてください」
オロフさんは空に向かって弓矢を放つ。ピュンと風切り音が聞こえたと同時に頭上から雨が降り出した。
一拍置いて俺の頭上だけ滝のように水が落ちてきた。
「私が行ったことは大きく分けて圧縮、形状変化、維持、固定です。先ほどあなたが一人で行ったことです」
そう言うとオロフさんはゆっくりと俺に近づき屈みこみ、さっきとは打って変わって明るく微笑みかける。
「予想通りあなたはアマビスカ殿下と同じく五行属性の全てを扱えるでしょう。そして私の主目的の一つはあなたに魔法を教えることです。ですが予想外なことに私もあなたから学ぶことも多そうです」
姿勢を正し俺に手を差し伸べる。俺はその手を取り立ち上がる。オロフさんは極上の笑みで語りかける。
「一緒に魔法の概念をぶっ壊しましょう」




