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確かな手応え

 目が覚めるとまだ日の出前で辺りはまだ薄暗かった。

 オロフさんを起こさないようにそっと離れて、火国の時から日課にしていたメニューを一通りこなす。

 あの頃とは違い、手こずっていた火鳥生成も簡単に出来るようになった。

 ふと脳裏にガブリエラさんが『渦の流れを常に意識して』と小言を言っている姿が浮かんだ。

 オロフさんが言う『細かい所』がガブリエラさんの言う『渦の流れ』なのかもしれない。

 試しにもっとゆっくりと周囲の魔力を感じながら絞り込むように火鳥生成に取り掛かってみる。

 試しに造形美に拘っていたが何か違う。きっとこういうことじゃない。

 そっと目を閉じ精神を整える。


 周囲に漂う紫色の霧らしき存在にはっきりと気付く。

 火鳥の元だろう。

 霧に意識を向けるとそれは動き出す。

 これが渦の流れって奴かな。

 方々に散らばっている霧を集めてみる。

 単に濃い霧のようになっただけですぐに広がり掻き消えてしまいそうだ。

 渦という言葉通りの意味ならば何かしら反応があるはずだと思い霧全体に意識を集中し掻き混ぜていく。

 複数の霧が小さい旋風のように旋回し徐々に大きくなっていく。

 次第に遠くにある霧を吸い込むようになりちょっとした竜巻のようになった。

 竜巻は意識すれば右へ左へ移動する。

 大きくなるにつれて移動させるのに苦労する。

 そしてついに動かすことが出来なくなる。

 竜巻は留まりながらも霧をどんどん吸い込み大きくなっていく。

 体が熱く感じ汗が出てくる。

 目を開けようとするが身体が動かない。

 息苦しくなり意識が朦朧としてくるのが分かった。


 ―ルンさん! シュテルンさん!


 途切れゆく意識の中でオロフさんの声が聞こえた。

 声の方向に意識をやると視界が開けた。

 そして目の前には超特大の火鳥が、火国で見せてもらった絵巻に出てきた鳳凰のように立派な火鳥がプカプカと浮いていた。

 その眼は造り物のように生気が感じられない。

 だが遥か頭上にあるにも関わらずしっかりと熱量は感じる。


「どうしました! これは何事ですか!」

「火鳥生成の練習をしていたのですがその結果のようですね」

「なに落ち着いてるんですか! これどうするんです!」

「さっきから消そうとしてるんですけど手ごたえ無くて」

「危ない! 落ちてきてます! 逃げますよ!」


 鳳凰もどきは風船が萎んで落ちてくるようにゆっくりと高度を下げていく。

 全速力で走る後ろから時折奇怪な爆発音が響き、熱風と焦げ臭い香りが鼻をつく。


「相克の魔法は出来ますか!」

「やってみます!」


 勢いよく向きを変え、転びそうになる身体を地面に手をつき何とか踏ん張る。

 ある程度の距離を保っているが何回も試している余裕はなさそうだ。

 火国にてガブリエラさんに紹介されたブレナという鮫の魚人に見せてもらった水魔法がある。

 単純に水を生成するだけの魔法だが属性を付加することによって幅広く応用が利く代物だ。

 あの時生成したものが水なのか汗なのか良く分からなかったけど、確かな手応えを得られた今ならもう少しマシなものが出来るかもしれない。というかやらなきゃヤバイ。


 両手で頬を叩き気合を入れる。

 深呼吸してブレナさんが創り出した時の動きをイメージし再現する。

 両手を組み、掌にマナの地場を作成する。

 手から零れるように水が溢れ出す。何とか形にはなった。

 後は溢れる水を留めて大きくし鳳凰もどきにぶつけるだけだ。

 さっきと同じように目を閉じ精神を整える。

 次第に周囲の音も臭いも感じなくなっていく。

 代わりにプクプクと水の中から気泡が湧くような音が聞こえた気がした。

 その数は次第に大きくなり、自分が海底に佇んでいるような気分になった。

 いつしかそれは直ぐ近くでも聞こえるようになり、気泡に呑まれたのか浮遊感すら感じるようになった。

 ゆらゆら漂う眠気を誘う感覚から一転し息苦しさを覚え目を開ける。

 両手から零れていた水は形を変え、辺りを包むほど大きな水球へと変わっていた。

 その中には俺も含まれている。

 まるで水風船の中に入った気分だ。


 普通に呼吸してしまい肺に水が入る。おかげで意識がはっきりした。

 組んでいた両手は湧き出る水圧で押され、そのため水の流れは文字通り手に取るようにわかる。

 ホースの先を摘まむイメージで流れを変え、水の当たった一角が尖っていく。

 その尖りを基準として細長く槍のように整えていく。

 足元からゆっくり上部へと水が上がっていき全身が抜け出す。

 高密度の水で出来た不格好な槍が完成した。

 引き絞った弓矢のように留めておくのもそろそろ限界だ。


「いっけぇっ!」


 制止のイメージを解くと勢いよく槍が吹っ飛んでいく。

 しかし鳳凰もどきに接する間に槍の形は失われ、桶で水をぶちまけた様に変わっていた。

 鳳凰もどきを包み込むように広範囲に水がかかり一瞬で辺りが白くなった。

 その途端すさまじい爆風が発生し吹き飛ばされた。


 ふんわりとしつつもしっかりとした感触に抱きしめられながら。

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