冒険の成果
コニィア達が採掘場で失敬した魔晶石が発端となり様々な技術が発展していく。
その魔晶石を宰相が調査した結果、今まで確認されたどんな魔晶石よりも高密度だったことが判明する。このこと自体は喜ばしいことなのだが、これが落ちていたという場所が問題となる。採掘場の手前つまり入口付近で採れる魔晶石という物は消耗品にさえ加工できない粗悪品のはずなのだ。高密度の魔晶石という物は最深部でゆっくりと長い年月をかけて形成されるものだからだ。
ではなぜ採掘場の入り口付近で見つかったのか。この時点で考えられることは二つ。一つ目は採掘の不手際で高密度の魔晶石が回収されなかったというケアレスミス。二つ目は何者かが盗用するために最深部から持ち出し、一時的に隠していた物をコニィア達が見つけたという可能性。クレイブが危惧していた事は二つ目で、魔晶石の盗用が常習的に行われていた場合は国家に対する大罪を意味する。魔晶石の管理はその希少性から国が行うものだからだ。
宰相は念入りかつ秘密裏に調査した。もし犯罪行為が行われていた場合、大罪人らを処罰するだけではなく流通ルートや何に使われているかなどを芋づる式に明らかにせねばならない。しかし調べても調べても作業の不手際や不正行為は確認できなかった。目途が立たず時間だけが過ぎる中、一転して採掘場から報せが届く。採掘場の入り口付近で魔晶石が大量に確認できたと。
宰相はコニィア達三人を連れ立って問題の採掘場へと赴き確認をとる。判明した事実はコニィアが触れた壁一帯が魔晶石になっており、徐々に浸食が進んでいるという事。使い物にならない魔晶石であってもコニィアが触れることにより魔晶石自体が自然界の魔力を吸い取り蓄積を始めるという事。この事は後に魔晶石の活性化と呼ばれることになる。そして石にほんの少しでも結晶化している部分があれば、そこから活性化は始まり、ゆっくりと密度を高め、最終的には体積に応じて魔力を溜めるという事だ。
魔晶石の活性化を研究するにつれ、魔法や魔力についての知識が飛躍的に発展した。今までは種族固有の特殊な現象という認識でなかった魔力と魔法だが、これらが明確に体系化されるようになった。
魔力とは自然界に存在する魔力、生物自身に備わっている魔力に分かれ、マナを用いる場合は魔法、オドを用いる場合は魔術と区別される。主に魔法は使い魔と呼ばれる精霊や霊獣を使役することにより結果を残し、魔術は紋章術と呼ばれる命令式を組み込んだ媒体などを利用し結果を残す。よって魔法も魔術も理にそって結果を残すと解釈される。これよりのち魔を導く手段、魔導と称することになる。
魔導の発展という名目で、きっかけとなったコニィアについても検査が行われる。そしてコニィアには他者を癒すことが出来る能力が備わっていることが分かった。物・人問わず、オドを感知できさえすればその対象の活動を活性化することが出来る。対象のオドの量と質に左右されるが。
この間、季節は五回巡り巡る。
レイオンでは前例に類がないコニィアの能力について探求すべく、公爵家筆頭クレイブの声掛けにより五行連合各国の大使が一堂に集まる。各国独自の魔導の中に似たような能力があるかもしれないという一縷の望みをかけて。
「水国では魔力を補強する飲み薬があります。体内から魔力を吸収し疲労を回復させるものです。しいて言えばそれぐらいですかね」
「我々土国では大地の龍脈から気を取り入れ力に変える。王女も何者かから無意識に力を借り入れ変換しているのではないか?」
水国大使の人魚族ビルギットが言えば、土国大使の長鼻族ロニーが答える。
「王女は火国の血を濃く受け継いでるように見受けられる。なれば我が金国の民と同様に魔力を体内に留めやすいのかもしれぬ。そなた等が運動するために呼吸をすると同様に我らは空を駆けるため魔力を使う。火国では事情が違うかもしれぬが似たようなものであろう?」
「確かに姫君は焔王様の御加護を受けられ発現なされております。されど祖先のように肉体を維持するために霊力を用いるわけではなく、霊界との交信の為に霊力を用います。王家の秘術であるため詳細はわかりかねますが」
金国大使の龍人族ルンディンが問えば、火国大使の鬼人族オーベリーが返答する。
澄んだ海を彷彿とさせる水色の髪と深い水底を連想させる瑠璃色の瞳が特徴的な人魚族。
長鼻族の特徴的な長い鼻は知的な印象を与え、年季を感じさせる口髭は小さい身体と相まって威厳を与える。
帆のような翼と光沢を放つ甲の鱗以外はレイオンの民と変わらない龍人族。
鬼人族の鋼のような筋肉は軽い矢であれば貫くことは不可能だろう。
そんな四種族の話し合いにはそっちのけで、うわぁと感嘆の声を漏らしそうに口を開きながらコニィアを見つめる木国大使の長耳族マイン。幼い風貌と緑がかった髪は若葉を連想させる。
「マイン殿の見解は如何でしょうか?」
唯一発言をしないマインに対してクレイブは問い掛ける。我に返ったマインは慌てて返事をする。
「木国では大地と精霊の力を借りて木々の成長を促すことも出来ます。火国が認識している霊界という存在が我々でいう精霊界であるとするならば類似したものであるのかもしれません」
マインの発言で各国大使の表情が変わる。その雰囲気に呑まれたのかマインは下を向きモジモジし始める。
「なるほど。我々が独自に解釈している理論の根本は一つの存在なのかもしれぬな」
ルンディンが各国大使の考えを代弁する。長い年月を生きてきた大使たちは、種族や個体レベルでの特殊な能力という既成概念のもとに意見を述べていた。しかし五人の中で一番若いマインは、目まぐるしく変わっていく魔導の概念を受入れ独自の解釈を行った。各国を代表する知恵者達はこの事実を即座に認める。そして短命種族であるクレイブも同様、既成概念には捉われず変化に対応できる。
「皆様方のご意見、非常に参考になりました。今後も皆様方の御助力を賜りたく存じます上で一つ提案がございます。皆様方が宜しければ、魔導について知識あるものを五国各々選定し共同研究を致しませぬか?」
クレイブの発言に大使らは難色を顕にする。怯まずにクレイブは話を進める。
「もちろん各国の秘術を提供しろとは申しません。先ほどのマイン殿とルンディン殿の発言にもありましたが、魔導という存在は各国の解釈が違うだけで、本来は一つの大いなる存在なのかもしれません。仮にそうであるならば各国が独自に研究を行うよりも連合として共同研究を行った方が効率が良いと考えた次第です。また我々レイオンは国民の生活を豊かにするため魔導を利用する研究を独自に行います。もちろんその研究成果を提供すること、やぶさかではありません。魔導の発展は未知数です。各国の英知を持ちより連合の更なる発展を模索しようではありませぬか」
その後もクライブの熱弁は長く続く。そしてどの国からも反対意見は上がらず、『年若く魔導の素質を持つ者』という漠然とした選定基準を設け、その者らを中心とした研究機関を発足するに至る。必然的に、意図せず火付け役となったマインとコニィアはその機関に所属することとなる。