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全ては単純なこと

 土国へ向かう旅は新鮮だった。

 旅というよりは冒険あるいは修業といった方が良いかもしれない。

 今までの旅は物資も旅程もある程度決められていて淡々とこなしていただけだった。

 今回俺達は着の身着のまま最低限の装備で出発し、食料もその都度調達、その場にあるものを使って装備の補修も行う。

 正直なところ自生している植物も動物も食べることが出来るものかすら分からない。

 狩りも野営もオロフさんのやる事についていくだけで精一杯だ。


 俺は野生動物の狩りならまだしも、魔物相手の戦闘なんてやった試しがない。

 俺にとっては少し狂暴になった野生動物みたいな低ランク魔獣も少数なら何とかなるが多数なら立派な脅威となる。

 ましてや中ランクの大型魔獣になると自分の身を守ることしか出来ない。

 そんなお荷物を抱えながらもオロフさんは実戦形式で技術を叩きこんでくれた。

 土国に入った何度目かの戦闘でやっと自力で仕留められたウォーバイソンの肉は、月夜の中でより一層の輝きを放っている気がした。


「全ては単純なことなんです。仕上がりの良し悪しを考えなければ」


 オロフさんはこんがり焼き上がったウォーバイソンの肉を取り分けてくれながら話を続ける。


「例えばこの肉です。食べるという点で言えば生でもそのまま齧り付けばいいわけです。その場合は毛や鱗で口を傷つけるかもしれません。場合によっては寄生虫や毒に当たります。だから解体し火で焼きます。では戦闘の場合に置き換えてみてください」

「相手を倒すために障害を取り除いた上で攻撃をする」

「その通り。当たり前ですよね。極端ですが調理と戦闘も考え方は同じです。職人も冒険者も知識と技術を得ることで味や攻撃力に違いが出てくるものです。私は料理人としては未熟ですが味はともかく問題なく食べれるはず。多少違いますが包丁も剣も切り刻む技術は同じでも食に対する知識の差で味に変化が生じます。ですが成果を考えなければその差は些細なものになります。ですから戦闘に関して言えば攻防の知識と技術を多く得て絡み合わせて行けばいいわけです。最初は細かく考えず大枠から考え、反射的に対応できるようになってから細かく考えればいいだけですよ」

「仰りたいことは良く分かりますが簡単に割り切れませんって」

「ですから徹底して基礎の構築を行うことが大事なのです。単純でしょう?」


 悪戯な笑顔を向けられつられて笑う。

 この人だからこそ基本の徹底という簡単かつ単純なようで難しく思える理論を軽く語るんだと思う。

 まだ付き合いが浅い関係だけど、常に改善点を模索する姿は尊敬に値し、そうなるまでには努力を怠ることはなかったのだろうと思える。

 それに比べると今までの俺は何だったんだろうか。

 俺の表情が暗くなってしまったせいか、オロフさんは不意に口調を変えて語り出した。


「現在アマビスカ殿下は鉱族のもとで魔術士としての経験を積んでおられます。類稀な才能を開花させているようですよ。王女も魔導研究において一線を画す存在となっておられますし、それに伴う外交政治手腕も相当なものです。魔術、知識と続きここで魔法を扱う存在が現れたらどんなに素敵なことでしょうか」


 出発前に伝え聞いたアマビスカとコニィアの成果が俺の疎外感を日に日に強めてくるが、

 オロフさんの大げさな演技と悪戯っぽい笑顔に心が軽くなる。

 二人のように特別な才能(もの)が俺にもあるとは思えない。

 それでも俺にしか出来ないことがきっとあるはず。

 アマビスカにだけコニィアを護らせるわけにはいかない。

 コニィアを護りアマビスカの手助けをすることが幼い頃からの決意(誓い)だし、今もそれは変わらない。

 あの時アマビスカが父に語った言葉で俺がどれだけ救われたか誰にも分からないだろう。

 何気ない言葉でも俺にとっては暗闇から引き上げられたようなものだ。

 俺にはあいつに返しきれない借りがある。

 こんなところで燻っているわけにはいかないんだ。


「オロフさん、今夜は後衛での立ち回りについてご教授くださいませんか?」

「わかりました。では冒険者パーティーでの一般的な後衛職ですが――」


 篝火のストックがなくなるまで結構長い間オロフさんと話し込んでいた気がする。


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