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キミラノタメニデキルコト

 間もなく日が暮れるというのに火国を出ようとする冒険者らしき二人組を不審に思う門番。

 一人が門番に声をかけられるよりも先に首にかけた銀のプレートを見せる。

 プレートを持っている冒険者はエリート中のエリート。

 途端に門番の警戒の色は薄れ、旅の無事を祈る敬礼をとる。

 二人組はそのまま素通りし何事もなく出国した。

 道の舗装が途切れた所で馬に乗り全速力で駆け出す。

 沢を見つけた二人、シュテルンとオロフは野営の準備に取り掛かる。


「黙ってついてきてくださりありがとうございます」

「あれほど意味ありげな視線を何度も受けたら流石に気づきます」

「そうかもですね」


 オロフさんのクスクスと笑う表情は今までの厳格で冷たい印象を崩し親しみを増した。


「クレイブ公からの言伝です。土国内部で不穏な動きがある。レイオン貴族の関わりが懸念されるため、アマビスカらと共に対処せよ。判断は任す。とのことです」

「他国と繋がれる貴族なんて数少ないですし、何より宰相としての立場なんて最たるものじゃないですか。自分が首謀者一味だったらどうするんです?」

「同じことを私も申し上げました。その返答聞きます?」


 いたずらっぽくもあるが真剣な眼差しでもある視線を受け固唾を飲む。

 オロフさんはわざとらしく咳をし発声練習も行い男声に似せて話す。


「この手紙がシュテルンに届く頃には首謀者達は次の手を打ってくるだろう。もしかしたら土国側から接触があるかもしれん。その場合シュテルンは取り込まれる前なのでこちら側だ。また仮にシュテルンが既にあちら側だとしてもシュテルンを泳がせながら監視すればいいだけの事。どちらにせよシュテルンを駒とし、こちらの都合に合わせた動きをすれば良い。そしてこの程度で手こずるなら他人どころか自分の身すら守れるとは思えん」

「ホントおじさんらしい考え方だな――オロフ様、拝命致します。今後ともご助力ください」

「オロフで結構ですよシュテルン様。職歴ですが()()()()()はスカウト寄りのアタッカーです」

「どうかシュテルンと呼び捨ててください。色々と事情がありそうですね」

「今後とも良き関係をお願いします」


 オロフさんは触れてほしくないのか会話を無理やり終了させた。


「シュテルンさんは幼馴染お二人に対してどのようにお考えですか?」

「どのようにとは?」

「公はコニィア王女とアマビスカ殿下を護れる騎士にしたいようです。見聞を広めるために諸外国を回らせていると仰ってました」

「確かに公の使者として各国に赴きました。火国では魔法、土国では魔術武具、金国では魔法武具、木国では精霊の加護、後程伺う水国では魔法道具について学ばせていただく予定です」

「知識を得て何をするのです?」

「それは――」


 言われてみれば確かに知ってどうするか考えていなかった。

 コニィアもアマビスカも大切な友だ。

 命令されなくとも力になるつもりでいた。

 だけど漠然と宰相である父のように国のために尽くすことが二人のためになると思っていた。

 でもそれは本当に二人のためになるのか?

 知識を生かして本当の意味で二人の手助けをする方法。

 俺は二人に対して何がしたいんだ?

 俺に何が出来るんだ?

 わからない。


「公はお優しい方です。貴方には時間をかけて貴方の意思で両殿下にお仕えして頂きたいと思っておられるはずです。ですが時間はあまりありません。だから私を貴方のもとに使わしたのだと思っております」


 オロフさんは物思いにふけてしまった俺を優しい口調で気遣ってくれた。


「時代の流れは勢いを増していきます。両殿下はその流れに巻き込まれていくことでしょう。そして貴方もきっと。ですが貴方にはたくさんの選択肢があります。そしてその分最適な対応手段も多くなります。手段を考えるためには知識が必要であり、そのために見聞を広める機会を与えているのだとお考え下さい」

「オロフさん――」

「出過ぎた真似を致しました。お許しください」

「いえ。宜しければ私が得るべき知識を一緒に考えて頂けると嬉しいです。私にはまだまだ経験が足りませんので」


 オロフさんは笑って頷いてくれた。

 俺は空を見上げ、今感じている、込み上げてくるこの気持ちを忘れないよう心に決めた。

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