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土国に向けて

「もう火鳥生成は問題ないね! 後は渦の流れを常に意識しておくこと! おっけー?」

「ご指導ありがとうございましたガブリエラ様」


 火国に滞在すること約一か月。

 当初の予定では半月ほど滞在する間に次の指示が来るはずだったが、そのおかげで修業期間が長くなりシュテルンは火魔法士として名乗ってもおかしくはないレベルにまで達した。

 それを見計らったかのようにクレイブからの使者が来訪した。

 ガブリエラに一言断わり自室に戻る。


「内容は私もクレイブ公から直接お聞きし把握しております。私には過分なお役目ではありますが精一杯努める所存です。宜しくお願いします」


 クレイブの手紙を持ってきたオロフと名乗る人物は表情を変えずに粛々と挨拶を交わす。

 ミディアムウェーブの金髪と緑色の瞳以上に無表情という点でさながら人形のように思える。

 手紙を読み進めるうちにシュテルンの顔に苦悩が浮かぶ。

 手紙には魔獣討伐に赴いた一行の報告がまとめられていた。

 特異魔獣は非常に再生力が強かったが、鉱族主力部隊の力を借りて跡形もなく消滅させることが出来たこと。また鉱族主力部隊不在時に鉱族の村が賊の襲撃に遭い甚大な被害が発生したこと。討伐隊は解散しアマビスカ他数名が鉱族の手助けを行うために鉱族とともに土国へ向かっていること。そしてシュテルンは頃合いを見て土国へ出発し、土国の魔導を学ぶようにと指示が書いてあった。


「時間的にアマビスカ達は既に鉱族のところへ?」

「はい。既に調査を開始している頃かと」

「では出立の準備をお願いします。私は皆様へご挨拶を――」

「シュテルン君! 出発するとは本当かね!」


 扉を勢いよく開けて入ってきたガブリエラに対してオロフは一瞬のうちに身構えるも、その存在を認めて構えを解く。

 シュテルンはそんなオロフを見て自分よりも確実に強いと確信した。


「これからご挨拶に伺おうかと思っていた矢先でしたよ。クレイブ公からそちらにも連絡がありましたか?」

「うん。土国へ向かうから協力してやってくれってね。そして都合の良いことに土国の外交官が来てるんだよ。もちろん会っていくよね?」

「そうですね。この者も同席させて頂いても宜しいですか?」

「もちろんさ! こっちこっち」


 シュテルンをジッと見つめるオロフが気にかかり同席を申し入れた。

 オロフは妹に腕を引かれて歩く兄のようなシュテルンを微笑みながら見届け、そっと目を閉じ後をついていく。


「レイニー君おっまたせ! こっちシュテルン君。これから土国に行くんだってさ」

「お初にお目にかかります。レイオン宰相タチップの子シュテルンと申します。お見知りおきを」

「土国外交官レイニーと申します。もし宜しければ私馴染みの商人と同行してみてはいかがでしょう。護衛も馬車もありますし必要品も揃いますよ」


 斜め後ろに控えるオロフを見ると先ほどと同じようにジッと見つめ返してくる。


「喜ばしいお誘いですが、献上する品を土国の商人様から調達するわけにもいきますまい。お気持ちだけいただきます」

「ではこの割符だけでもお受け取りください。少しばかりお安くなりますので」

「ありがたく頂戴します」

「さぁさぁ立ち話もなんだからお菓子でも食べようよ! ほど良く甘くておいしいよ」


 ガブリエラは呟きながら満面の笑顔で菓子の入った篭を持ってくる。


「シュテルン様、私は出立の準備をしてまいります」

「お願いします」


 受け取った割符をオロフへ渡す。

 オロフは三人に礼を取って退室した。



 オロフがガブリエラ邸を出て待たせておいた馬車に近づくと荷馬車から人が降りてきた。


「陽動だ。これを使って適当に旅用品を購入してから土国を経由しレイオンへ戻れ。襲撃を考慮した編成を行い、有事の際は可能な限り捕縛を優先しろ」

「承知しました。団長への報告は?」

「別に使者を立てる。出発は本日とする。私と御曹司は冒険者を装い土国へ向かう」


 オロフは厳しめな口調とは裏腹に身のこなしは女中のそれとなっている。

 恭しくお辞儀をし落ち着いた歩幅で街へと向かう。

 そのやり取りを眺めるガブリエラ邸内からの視線に二人は気づきながら。

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