こいつらのためにできること
予備知識のない魔術士同士の戦闘と知らされていない作戦内容のせいなのか思考が全く追い付かない。
次から次へと驚きの連続だ。
ビルと呼ばれた鉱族が立ち去った後、流砂となっていた地面は固くなりその一帯だけ異様な光景となっていた。
地中に埋まった人物を掘り出したものの生存者は一人もいなかった。恐らく口封じの意味もあったのだろう。
俺もとっさに魔獣に登っていなかったら、ああなっていたのかもしれない。
足が埋まった魔獣は暴れに暴れ、俺もクセニアも吹っ飛ばされた。
落下の衝撃で俺は肩を痛め、クセニアは幸いなことに気絶しただけだ。
暫く暴れた後で力尽きたのか、魔獣は小さくなり何事もなかったかのようにテクテクと登ってきた。
最初からそうしてくれれば怪我しないで済んだんだが仕方ない。
そして軟禁していた縦穴よりも落差はあったので、その気になれば縦穴からも出れたのかもしれない。
こいつは意外と頭が悪そうだ。
青薔薇団員がクセニアを抱きかかえ連れて行こうとすると魔獣は団員に飛び掛かっていった。
唸りながら団員の片腕に噛みつき引っ掻く。
団員が増えてくると例の如く青い霧が発生した。
辺りにピリッとした緊張が走ったが、目覚めたクセニアがダメと消え入りそうな声を絞り出したところ変化をやめた。
クセニアが大丈夫と語り再び気を失う。
納得したのか分からないがクセニアの周りをウロチョロするに留まった。
クセニアを丁重に扱えない状態に嫌気がさしたのか、魔獣は馬並みの大きさになりクセニアを背に乗せるよう屈んだ。
団員達が戸惑い狼狽えていると「早く乗せろ」と言葉を発した。
「亜人がベースか」とインゴさんが独り言ちた時、ユリアンさんは神妙な顔つきになってそっと目を閉じた。
クセニアの目覚めを待って、青薔薇団長とインゴさんの二人による尋問が始まった。
尋問と言っても形式ばったものではなく今後の相談も含めて打ち合わせ的なものだった。
確認事項はどうして方針に背くほど魔獣の事を気にかけたのか、精神状態に違和感はなかったのか等。
要は魔獣によって強制的に下僕とさせられる魅了をかけられたのではないかという懸念だった。
相談事項は魅了云々は置いといても団長の方針に逆らったことは処罰の対象になる。出来るだけ悪いようにはしないので協力してくれと依頼していた。おそらく報告書等の体裁を整えるためだろう。
そして三人の打ち合わせが見える位置で両軍師と魔獣も話し合っていた。
魔獣は丸くなりながらも目はクセニアを注視していた。
ユリアンさんは終始暗い顔で沈鬱な様子で生まれや過ごした環境などを質問をする。
マテオは魔獣の様子を観察。身体的特徴は勿論、受け答えに不自然差がないかなど思考回路を解析しようとした。
まぁ殆ど無視を決め込まれ会話のキャッチボールにはならなかったが。
そうこうするうちにアマビスカが見慣れない人物と一緒にやってきた。
白銀色の瞳をした藍色の髪の女性。お淑やかで地味な印象を受ける。
「王弟クレイブ公の名代として参りましたグレタと申します」
「父の元仕事仲間です。一枚噛んでいるようですよあの人」
団長とインゴが揃って頭を抱えている。
両軍師は直ぐに立ち上がり礼を取る。
グレタさんはアマビスカをげんなりとした様子でちらりと見やり、アマビスカは肩を軽く上げて答えた。
話の流れからクレイブ公はアマビスカの父親という事になる。マジか。
クセニアは良くわかっていないらしい。それでいいと思う。
「構えなくて結構ですよ。公からは青薔薇騎士団長様と話をまとめるように仰せつかりましたので」
つまり真実は置いといて上手く話を片付けろという事か。
お国事情が絡む案件ほど面倒なことはない。早々に逃げ出したいところだが無理だろうなぁ。
軍師二人が項垂れるそれぞれの上司を励ます。
俺は空いた魔獣の向かいに座る。
もう一つの席にはアマビスカがやってきた。
「あーなんだ。一応敬語とか使った方が良いものか?」
「あなたにそんな殊勝なところがあるとは思えませんけど」
「ぶん殴るぞお前」
「そういう所――本当に助かります」
アマビスカは後光が射すほど満面な笑みを浮かべる。
ふざけている様子だけど何となくわかった。本当は嬉しくて照れてるんだって。
こいつはこいつで苦労してたんだな。
クセニアの話を聞いて、こいつなりに考えて、こいつなりのやり方で告白したのかもしれない。
こいつは意外と仲間思いだから。
二人とも若いくせにしっかりしてやがる。
俺はそんなこいつらが好きだ。
こいつらの助けになりたい。
そのために俺が出来ることはなんなんだろうか。




