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進む先

 青薔薇騎士団は倒れた弓兵を捕縛にかかる。

 傭兵は一目散に逃げだした兵士を追走する。

 呆然と立ち尽くしたりあたふたする兵士にはわき目もふらない。


「一兵も逃がすな! 生け捕れ! 剣をおさめよ!」


 ミーチャは檄を飛ばす。

 指示を受け動いているものは団員・傭兵問わず魔術適性試験を志願した者達だ。


「パッと見ですが支援組の坊ちゃん兵士ら縁者が多い気がしますね」

「貴族絡みは確定だな。傭兵側の洗い出しも含め陛下にお伺いを立てよう」

「蒼月ですか」


 国王直属の情報収集を主とする蒼月騎士団は存在を認められない架空の騎士団である。

 レイオンのシンボルである()と闇夜に紛れるイメージの()から勝手に呼ばれている。

 団員数すら不明の騎士団だ。


「あとは陽動として残った隊ですね」

「インゴ殿なら問題なく対処は出来よう。生き死には別として」


 二人の視線の先にはインゴに向かっていく傭兵と鉱族の姿があった。



「我らからも裏切りがでようとはな。恥じ入るばかりじゃ」

「暗殺稼業専門の奴らが居ますねぇ。いつの間に潜り込んだのやら。暗器にはご注意を」

「わかった。主は好きにせい」


 戦槌に土が纏わりつき盾へと変化する。

 盾を左手に構え右手を肩慣らしするかのように振り回しながら敵へと向かっていく。

 敵は各々の武器を一斉に構える。

 中心から裂けるように左右に別れ、黒革の鎧と手甲を身に着けた鉱族と思わしき人物が一人進んでくる。


「やはりお主かビル。ワーウルフもウォーバイソンもお主の家畜じゃもんな」

「久しいなインゴ。腕が落ちたか? 殺さずとは生ぬるい」


 気軽い挨拶とは裏腹に、両者は魔力を練り始めている。

 ビルと呼ばれた者の足元が徐々に砂地へと変わっていく。

 その砂からいくつもの人型が生み出された。


「お前と語らう気は毛頭ない。早々に死ね!」

「儂にはあるんじゃ! たっぷりと聞かせてもらうぞ!」


 次から次へと人型はうねるようにインゴへと襲い掛かる。

 インゴはビルに向かいながら襲ってくる人型を殴る度、人型は固まり崩れ落ちる。

 インゴの手足に絡みついた人型は瞬時に固まり力業により砕かれる。

 砂地へ足を踏み込むと流砂のようにインゴを吸い込むが、瞬時に足場を固めビルへ向かって跳躍する。


「まずは一発! 勝手に出て行った分じゃ!」


 ビルの頬に拳が当たろうとした瞬間、ビルは微笑を浮かべ砂に代わった。

 インゴはそのまま体ごと砂に飲み込まれ達磨のようになり、砂地から現れたビルの突きに貫かれた。

 五指からは鋭利な爪が伸びており、爪は砂達磨に食い込んでいる。

 続けて様々な矢玉が砂達磨に突き刺さりハリネズミのようになった。


「これで終わりではあるまい」


 ビルは砂達磨を魔獣に向けて放り投げる。

 それを合図としてか、ビル以外の敵は総出で魔獣を襲い始めた。


「ぺっ! 一杯食わされたわい」


 空中で砂達磨を粉々にして着地したインゴは砂を吐き出しながら戦槌を突き刺し土の鎧を身に纏う。

 ヴァーノンは魔獣の足元で格闘戦を行い、魔獣は飛び交う弾と人を振り払い、クセニアは地上へ向けて炎を放つ。

 魔獣は時々角の先から炎の玉を発生させ辺りに漂わせる。

 クセニアはその炎を利用し攻撃を行ったりもする。

 即席の連携としては上出来だ。


「その爪――あの魔獣は何だ? 主の仕業か?」

「お前もそろそろ気づいただろう。師の意志を継いだまで」

「いい加減にせい! その先には滅びしかあらん!」

「俺は俺の信じるもののために進むのみ」


 ビルの爪とインゴの戦槌が激しくぶつかる。

 だが戦槌は小回りが利かず、爪は徐々に土の鎧を剥がしていく。


「老いたな。キレが悪い」

「抜かせ。主と大して変わらんじゃろうが」


 インゴは次第に押され防戦一方となる。満身創痍、戦槌を杖代わりにして立っているのがやっとのありさまだ。


「つまらん。本気を出すまでもない」


 インゴの助けに入ろうとしたヴァーノンに気づき、ビルは足元の砂地を広げていく。

 かろうじてヴァーノンは魔獣に飛びつきよじ登り、インゴは足場を固めて抗うことが出来たが、敵味方関係なく倒れている者は勿論、満足に動けない者は流砂に呑まれていった。

 魔獣も足を取られ身動きが取れなくなった。


「全くもって脅威とならん。気が変わった。お前は俺の進む先を見届けろ」


 ビルが魔力を練り始めると身体に変化が現れた。

 筋肉は盛り上がり、皮膚は毛で覆われ始めた。

 まるで二本足で立つ狼のように顔も変化するが、狼にはない太い角が頭に生えた。

 ビルは一瞬でインゴの横をすり抜ける。

 一拍置いて血を噴き出しながらインゴは地に伏した。


「我らは我らの道を行く。例えその先が修羅の世界だとしてもだ。我らの誇りは汚させぬ」


 倒れたインゴには目もくれずビルは姿をくらました。

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