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策謀

 日が昇り、クセニアは魔獣に餌をあげ穴から出てくる。

 遠くからその姿を見守るヴァーノンとアマビスカ。

 クセニアは籠を持ったまま自分の天幕に戻ろうとしていた。


「予想は的中だな。後は頼んだ」

「当たってほしくはありませんでしたよ。行ってらっしゃい」


 ヴァーノンは司令部へ、アマビスカはクセニアに近寄る。


「餌やりお疲れクセニア。魔獣は変わらずか?」

「はい。元気よく食べてましたよ。アマビスカさんは何を?」


 クセニアは籠をそっと背中に隠す。


「まぁなんだ。気落ちしていないかと思ってさ」

「お気遣いありがとうございます」


 クセニアは引きつった笑顔で語る。


「前に鉱族の世話になるとか話してたじゃん? その辺詳しく聞きたいと思ってさ。今から時間ある?」

「今はちょっと。やることがあるので」

「そうか。んじゃ、俺が代わりにその篭を戻しておくよ」


 クセニアは視線をそらし俯く。


「どうした? 何かあったか?」


 アマビスカは一歩クセニアに近寄る。

 クセニアは一歩応えるように後ずさる。


「今ならまだ間に合う。俺が言えるのはここまでだ」

「どうしてですか! アマビスカさんは平気なんですか! この子も生きてるんですよ!」


 クセニアは涙を堪えるように唇を噛みアマビスカを睨む。

 真顔のままアマビスカはゆっくりクセニアに歩み寄る。

 刺激しないように出来るだけゆっくりと。


「魔獣が居ないぞ! 警戒態勢!」


 見張りの兵士が魔獣が居なくなっていることに気づき声を荒げる。

 次第に周りが騒がしくなるが、アマビスカとクセニアは言葉を交わさずに向かい合ったまま動かない。

 暫くそうしているとヴァーノンがミーチャとインゴを連れてきた。


「すまないアマビスカ。少し遅かったか」

「ここは儂に任せろい。お主は兵達を鎮めてくれ」


 ヴァーノンはアマビスカに声をかけクセニアの背後へと回る。

 ミーチャはインゴに頷きで応え動揺する兵士達に狼狽えぬよう檄を飛ばしていく。


「嬢ちゃん正気か?」

「娘子、それは玩具ではないのじゃぞ」


 クセニアとの距離を徐々に詰めていく三人に対してクセニアは籠を抱えながら順繰りに杖を構える。


「来ないでぇ!」


 クセニアの叫び声を聞き魔獣は籠から飛び出してきた。

 威嚇するも可愛らしい容姿のせいで怖くはない。


「確かに今の姿だと害はなく思えるんですよね」

「あぁ。止めを刺す役はご免被りたい」

「お主らふざけとらんで何とかなだめろい」


 アマビスカは両手をひらひらさせて魔獣へと近づく。


「良く見るとこの魔獣は狐なんですかね? この辺に狐の魔獣なんていましたっけ?」

「言われてみれば狐に見えなくもないが、如何せん角の印象が強くてな。あと爪もか。身なりを整えたら可愛いんじゃないか?」

「じゃれとる場合か」


 アマビスカとヴァーノンは顔を見合わせ頷き合う。


「俺としては嬢ちゃんの意見に賛成なんですわ」

「こちらから仕掛けない限り大丈夫だと信じてます。確証はないですが」

「やっぱりそうなったか」


 インゴも戦槌を肩にかけて溜息をつく。


「無害なことなど今までの娘子との関係からわかっとるわい。こっからが本番じゃ。注意せい」


 アマビスカとヴァーノンが揃って首をかしげる。

 その足元に複数の弓矢が突き刺さる。


「仲間が洗脳された! 魔獣が逃げ出したぞ! 殺せ!」

「ヴァーノンさんはクセニアを守ってください! 僕が行きます!」


 アマビスカは叫び出した弓兵の姿を確認し走り出す。


「深追いはするな! ミーチャを頼れ!」


 インゴとすれ違いざまに語られた言葉に戸惑いながらも頷き返す。


「何かの謀ですか?」

「炙り出しじゃ。案の定喰いついてきたわい」

「私達も()()でしたか」

「気にするな。四人以外全員じゃ」


 つまりは代表二人と軍師二人が立案者だ。


「都合よく小童が抜けてくれたわい。お主も防御に徹せい。恐らく容赦なく攻めてくるぞ」

「ったく。全部終わったら話してくださいよっと!」


 矢の雨が降り注ぐ。

 クセニアは魔獣を抱きしめる。

 そのクセニアをヴァーノンは抱きしめ庇う。

 インゴは戦槌を地面に突き刺す。

 戦槌を握る右手から徐々に土が身体を覆っていく。


「これが龍脈の力だ。お前も学んでみんか?」

「ははは……重そうなんで考えときます」


 インゴを覆う土の鎧は弓矢を弾く。

 反面ヴァーノンは身体強化で何とか耐える。


「地味に痛いんで攻撃頼んでいいですかっ!」

「まだじゃ。辛抱せい」


 インゴは苦笑し突き放す。

 クセニアの頬を矢がかすめ、赤い筋が出来る。

 魔獣は唸り出し身体から青い霧が立ち上る。


「嘘だろ? 勘弁してくれ」

「大丈夫だから。落ち着いて。ね?」


 魔獣はあっという間に大きくなっていきヴァーノンは吹っ飛ぶ。

 クセニアは肩に乗り首に掴まっている。

 今までの形態とは違い二足で立ち上がり、身体じゅう漆黒の毛皮で覆われている。

 少し細身の身体に似合わず重量感のある角に違和感がある。

 ふさふさの尾はもっと似合わず可愛らしい。


「ワーウルフじゃと! それにあの角はウォーバイソンか! 畜生が!」


 インゴは怒りを込めて叫びながら両拳をぶつけ合い力を込める。


「うおぉぉっ!」


 力強く咆哮すると宙に拳大の石がたくさん発生し射かける弓兵目掛けて吹っ飛んでいく。

 弓兵達による阿鼻叫喚の叫び声とともに矢は治まる。

 インゴは深呼吸し冷静を取り戻す。

 土の鎧は剥がれ落ちた。


「青薔薇さんの旗印だねぇ。こりゃ片が付いたのかい」


 ヴァーノンは緊張が解けて大の字に倒れ込む。

 視線の先には大きくなった魔獣の姿があった。


「まだまだ先は長そうだねぇ」


 ヴァーノンは深くため息をついた。

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