表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/84

分かり合う気持ち

「ご飯だよー。お腹いっぱいにあげられなくてごめんね」


 変な人間が穴の上から声をかけてくる。

 降りてくるの遅っ! さっさと離れて! 気持ち悪い!

 極力伝わるように吠えてみる。

 人間の言葉は難しい。


 今日もこの変な人間はご飯を持ってやってきた。

 他の人間たちとは違って今まで痛いこともしてこない。

 ちょっと時々気持ち悪いけど。

 まぁご飯がもらえるから少しくらいなら我慢できる。

 そしてボクをジロジロみる感じはボクを置いていったあの白い人間たちと似ている。

 でもあの白い人間たちは痛いこともするからな。チョット違う。


 あの白い人間たちに置いてけぼりにされ、何日たってもお迎えは来なかった。

 ボク、悪いことしたのかな。

 それとも要らない子になっちゃったから捨てられたのかな。

 どっちにしろ独りはすごく寂しかった。


 お腹もすきご飯を探している時ボクと似た生き物に会った。

 ボクよりも長いツメとキバを持つオオカミさん。

 ボクよりもかっこいいツノを持つウシさん。

 お友達になれたら嬉しいと思ったけど追い返されちゃった。

 ツメもキバもツノも似せて大きくしたけどやっぱりニセモノだと分かっちゃったのかもしれない。

 もっと長いツメとキバになればいいのかな。

 もっとかっこいいツノになればいいのかな。

 それともボクが弱いから仲間に入れてもらえないのかな。

 独りはやっぱり寂しくて、追い返されると分かってても行っちゃうんだ。

 他に行くところもなかったし。


 あの日は寒かった。この変な人間たちにあった日。

 獲物も少なくなって狩りも上手くいかなくなって、しばらくまともに食べていなかった。

 明かりが見えて人間だとわかった時、白い人間かと思った。

 お迎えかもと思ったけど、要らない子だから捨てられたのかもしれないと思ってオオカミさんとウシさんの真似をしたんだ。

 立派な姿になれば必要とされるかもしれないと思って。

 お腹が減っていて余り大きく出来なかったけど。

 けれでもお迎えじゃなくってボクに痛いことをしてきたんだ。

 そして今は定期的にちょっとだけご飯を持ってくる。

 これで謝っているつもりなのかな。


「もっとたくさんあげられたらいいんだけどね。本当にごめん」


 ホント。全然足りない。ないよりはマシだけど。

 今日のこの人間は変な感じしないな。よし。食べるか。

 ――この肉うまぁ~。あぁホントお腹いっぱい食べたい!


「こんなに可愛いのに何で怖がるのだろう。確かに大きくなった時の姿はちょっとアレだけどオメメは変わらずキラキラしてるし。毛は肌触りいいしギュ~ってしたらもう堪らなかったし。お風呂に入って毛繕いして――あっ! 毛に艶が出るようにご飯にも気をつけてついでにお洋服も着せちゃったり?」


 ……

 視線怖っ! 気持ちわるっ! あっちで食べよ。

 ……

 変な声が後ろから聞こえる。やばいのが後ろにいる気がする。怖い。


「さてと。そろそろ行くね。また明日」


 まだ食べ終わってない! 中身は貰うぞ。明日はもっと多めで宜しく!

 籠を真ん中へ置き素早く逃げる。

 変な人間は籠を持って上がっていく。

 時々気持ち悪くて変な人間だけどこいつだけは痛いことしないんだよな。

 また明日も来てくれるのかな。

 ま、いいか。ご飯食べて寝よ。



 眠りについた後、夜明け前に変な人間がやってきた。

 まだ暗いのにもうご飯かと思ったけど、いつもの篭はない。

 何しに来たんだ?

 ちょっ! 近づくな! こっちくんな!


「ごめんね。本当にごめん。私には何も出来ないの」


 変な人間は近づく足を止め後ろに下がり壁に寄りかかる。

 何度も何度も頬を手で洗う。

 毛繕いかと思ったけど泣いていた。

 わけわかんない。


「なんで? この子だって生きてるんだよ? こっちの都合でそんな……」


 変な人間は壁に寄りかかり膝を抱えてしくしく泣きはじめる。

 昔一緒にいたお姉ちゃんも白い人間たちに連れてかれて帰ってきた時も同じように泣いていた。

 この変な人間も痛いことされちゃったのかな。

 泣かれてるとボクまで冷たくなっちゃう。しっかりしてよ!

 励ます意味で前脚を膝に当てる。


「慰めてくれてるの? ありがとう」


 変な人間はいきなりボクを抱きしめる。そのまま背中に触れてくる。

 びっくりして逃げようとしたけど何だかポカポカしてきた。

 このままでいいと思えた。ちょっと寒かったし。

 ボクの顔に流れ落ちる人間の涙が冷たく感じるし、ボクの顔が濡れちゃうのでとりあえず舐めておく。

 止まる気配はないけど濡れっぱなしよりはましだ。

 手の動きはお姉ちゃんと一緒。温かくて優しくて気持ちいい。

 抱きしめられながら触られていたけど、変な人間はさするのをやめてボクを見つめてきた。

 ゆっくりと手をボクの頭に伸ばしてきた。

 怖いけどもうちょっと撫でてもらいたいし我慢する。

 ツノとツノの間をゴシゴシされた。

 悪い気はしない。何だろう。この感じ。


「決めた。私があなたを守る。絶対に殺させない!」


 へ?

 ちょっとなに言ってるかわかんない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ