拒絶する気持ち
「ちっこいままじゃと害はなし。大きくなっても身動きできまい。任務達成じゃな」
「全て完了とは断言できないがとりあえずの危機は去った」
「それでいいんですか」
「報告書どうしよう……」
インゴとミーチャが半ば自棄になり任務終了と結論づけた。
頭を抱えるマテオをユリアンは同情の眼で見つめる。
レイオン国上層部と土国とのらしからぬ関係を疑ってしまったマテオは、ありのまま報告することをためらう。
確かに討伐ではなく捕獲となったこと自体は問題ない。
魔獣の研究に役立つことになるし、低等級でもキメラ魔獣は貴重なサンプルだ。
ただ問題は一等級のキメラ魔獣を生体のまま保管し研究する場所がない。
例えば危害が起こりえない死骸であれば引く手数多、処分に苦労はないだろう。
実際は一等級魔獣を制御し、仮に暴走したとしても被害が少ない場所と抑え込める武力があることが求められる。
そしてその見返りとして他とは一線を画す研究が出来るわけだ。
場合によっては国同士の利権争いに発展する。
そうなれば当然青薔薇も巻き込まれる。
最善な方法は何かと考えるマテオの苦悩と裏腹に、キメラ魔獣は地割れの底で放置されていた。
「ご飯だよー。お腹いっぱいにあげられなくてごめんね」
クセニアは肉の入った篭をキメラ魔獣の前に置く。
壁まで下がって見守るようにしゃがみ込む。
キメラ魔獣はクセニアを警戒しながら肉を噛みちぎる。
「もっとたくさんあげられたらいいんだけどね。本当にごめん」
キメラ魔獣は唯一クセニアだけから施しを受ける。
他の者が肉を運ぼうとすると、梯子に足をかけた時点で唸り始める。
肉を放り投げても絶対に口をつけない。
そんなこんなでクセニアがキメラ魔獣の対応を一手に任されていた。
「こんなに可愛いのに何で怖がるのだろう。確かに大きくなった時の姿はちょっとアレだけどオメメは変わらずキラキラしてるし。毛は肌触りいいしギュ~ってしたらもう堪らなかったし。お風呂に入って毛繕いして――あっ! 毛に艶が出るようにご飯にも気をつけてついでにお洋服も着せちゃったり?」
ニタニタとよだれを垂らしそうな表情で見つめるクセニアと目が合いキメラ魔獣は食べるのをやめる。
籠を咥えてクセニアから真反対の壁に移動し隠れるように食べ始めた。
「後姿も可愛いなぁ~おしりのラインも堪らないっ! 尻尾もふさふさで気持ちいいんだろうなぁ~」
気持ち悪く喘ぐクセニアの吐息を聞きキメラ魔獣は身震いする。
「クセニア―そろそろ戻ってこーい」
ヴァーノンが覗き込んで呼びかける。
「さてと。そろそろ行くね。また明日」
現実に呼び戻されたクセニアは立ち上がり服に付いた土を払う。
キメラ魔獣は残った肉を籠から出し、籠を咥え中央に置き遠ざかる。
クセニアはキメラ魔獣が壁に寄ってから籠を拾い梯子を昇って行った。
キメラ魔獣はクセニアの後姿をいつまでも眺めていた。




