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歩み寄る気持ち

「んぁ~かわいぃ~」


 キメラ魔獣をとろけきった顔で悶えながら見つめるクセニアに若干ひきつく見張りの青薔薇騎士団員達。

 ベースキャンプから少しだけ離れた一角にキメラ魔獣は厳重な監視の元で放置されている。

 討伐対象となっている特異魔獣の可能性もあるが、見た目と被害状況を鑑みると他に存在する可能性が高いとミーチャ達は判断した。

 そのうえ軍師二人はキメラ魔獣が固有種として誕生した可能性があると指摘したため、すぐに処分できず様子見とした。

 当のキメラ魔獣は戦闘から数時間たった今でも気絶しているが、いつ目覚めてもおかしくはない。

 見張りの団員に服の襟首を掴まれながらも前傾体勢になる勢いで、クセニアの眼はキメラ魔獣を舐めまわすように愛でる。


「お嬢ちゃんあんまり近づくなよ。起きられちゃかなわん」

「もうちょっとだけ! もう少しで前足の肉球がぁ!」

「だから落ち着けって――あっ」


 団員の手が離れ、クセニアが体勢を崩し勢いよく転がる。

 転がりついた先で目を開けるとキメラ魔獣の視線とぶつかった。

 一瞬時が止まったのち、キメラ魔獣は飛び退き狼のような唸り声をあげた。


「団長へ報告を急げ!」

「包囲陣形!」

「構えっ!」


 レイオンを代表する騎士団だけあってあっという間にキメラ魔獣を槍兵が取り囲む。

 そして槍兵の間からは弓兵が狙いを定める。

 その後ろには軽装の騎馬兵が控え、包囲を潜り抜け取り逃がした際の追跡に備える。

 己に対しての敵意を感じたキメラ魔獣は低く唸りながら四肢に力を入れる。

 四肢から黒い霧が発生し躰を渦巻く。


「待って! 怖がっているだけです!」

「邪魔をするな! 下がれ!」


 描き分け入ろうとするクセニアに、部隊長格の兵士が声を荒げる。

 その声に応えるようにキメラ魔獣は天高く咆哮し始めた。

 黒い霧はキメラ魔獣の躰を包み込み、みるみる禍々しく膨らんでいく。

 その様子に威圧された団員達が散り散りに逃げ惑う。


「総員散開! 防御に徹しろ!」


 部隊長は周りの団員達が霧散していく状況をあたふたと見回し逃げながら叫ぶ。

 引き際の判断も早い。

 クセニアは後退りしながらもキメラ魔獣を見つめる。

 膨らむにつれ遠ざかっていく眼をいつまでも。

 膨張が止まり足元に居るクセニアには目もくれず、キメラ魔獣は四肢の力を開放するかのように吠えた。

 足元に居たクセニアには影響がなかったが、逃げ出した団員達は軒並み吹き飛ばされた。

 キメラ魔獣がクセニアを睨みつける。


「昨日はごめん。怒ってるよね」


 キメラ魔獣は低く唸っている。


「私達もいきなりでびっくりしたんだ。今もびっくりしてるけど。昨日よりも大きくなったね」


 キメラ魔獣は変わらずクセニアを睨みつける。が、ふと視線をそらし遠くを見る。

 ミーチャとヴァーノンがそれぞれ馬に乗り走ってくる。

 少し遅れてアマビスカが荷馬車でインゴら数人を乗せて走ってくる。


「やはり以前確認した一等級魔獣です!」

「昨日よりも全然でけぇ!」

「うそだろ!」


 一等級魔獣を確認した斥候とヴァーノンの発言に驚きを隠せないミーチャ。


「この姿で対峙していたら流石に逃げることを優先しますよ……」


 アマビスカの独り言にインゴは反応するも声をかけない。

 アマビスカは金属性の手袋をつけ剣に魔力を込める。その手は少しだけ震えている。

 荷馬車からインゴが降り、戦槌を肩にかけアマビスカの様子を注視する。他の鉱族兵士は方々へ駆け出す。


「なるほど。無謀に戦っていたわけではないのじゃな。やれやれ」


 インゴはため息と苦笑混じりにアマビスかを見つめる。


「まぁよく見ておれ。鉱族魔兵団の戦、その眼に焼き付けよ!」


 インゴはキメラ魔獣に向け走り出す。

 それが合図となったのか、鉱族は攻撃を開始する。

 始めに地面から生えた蔦がキメラ魔獣を拘束するが、身じろぎと共に千切れていく。

 続けざまに炎と氷の矢が立て続けにキメラ魔獣に当たっていく。


「やめてぇ! だめぇ!」

「娘子離れや!」


 キメラ魔獣の足元で庇うように両手を広げるクセニアを気にせずに攻撃は続く。

 インゴはクセニアが立っている横の地面を戦槌で叩き、クセニアを抱きかかえるように飛び去って行く。

 一拍置いて叩いた所から円形状に地面が割れ、キメラ魔獣は脚をすくわれ地面に飲み込まれる。

 すかさず剣や槍を構えた鉱族が一斉に飛び掛かり直接切りかかりはじめた。

 クセニアは叫びながら暴れ、偶然インゴの顎に肘鉄を決める。

 クセニアを抑える力が緩んだ隙を逃さず拘束を剥がしたクセニアはキメラ魔獣に飛びつく。

 気を削がれた鉱族は一旦攻撃をやめるが警戒を緩めない。


「この子が何をしたの! この子はただ怖がっているだけなの! 一人で寂しいだけなの!」

魅了(チャーム)でもかけられたか? やっかいじゃの」

「来ないで!」


 インゴは顎をさすりながらクセニアに近づく。

 キメラ魔獣は抵抗する体力がないのか、視線は宙を泳ぐ。


「いい加減にせんと痛い目を見るぞ娘子」


 インゴは引き離そうとクセニアの腕を掴む。

 子どものように駄々をこねるクセニアに手こずっていると、昨夜と同じく急に魔獣の身体から黒い霧が立ち上がり徐々に小さくなっていく。

 体勢を崩したクセニアはキメラ魔獣と共に地割れへ飲み込まれた。

 インゴは飛び込みクセニアを何とか抱きしめ、落下する勢いを削ぐため戦槌の柄を壁へ突き刺す。


「ごめんなさい。インゴさん」

「お? 落ち着いたか」


 宙ぶらりん状態で少し冷静になったクセニアは辺りを見回す。

 地割れはそんなに深くはなく底が見える。

 ぐったりと横たわるキメラ魔獣の姿も視認できる。


「期せずして天然の檻が出来上がったわい」

「私達も囚われましたけどね」

「がははっ! この程度の高さなれば何とでもなるわい」

「底に降りても構わないですか?」


 インゴは無言のまま片手で器用にクセニアの体制を整え戦槌を掴ませる。

 クセニアと入れ替わるように、インゴは飛び降りた。

 注意深くキメラ魔獣の様子を伺う。


「問題ないようじゃな」


 クセニアも飛び降り一目散にキメラ魔獣を抱きしめた。

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