転生者
ここはどこにでもあるような魔王がいて、勇者がいて、魔法なんかが存在する世界だ。
エルフがいたり、獣人がいたり、そしてもちろん人間がいて…etc。
まさに良くも悪くも安直ともいえるような「ファンタジー」の世界である。
そしてそんな世界ではやはり国があり、争いがあり、一概に平和とは言えない状態である。
互いの存在を牽制しあい、奪い、奪われ、愚かなことである。
ある国では暴君が国を支配し、ある国では愚王が権力を振りかざしていたり。
まぁそれを否定する気もないし、術もないだろう。
だいぶ雑な説明にはなったが、ここはそんな世界である。
ここで俺について少し説明しておこう。
上記のような世界の中で、隔絶された、あまり不自由はなく、争いどころか、人さえ少ない、平和という文字をへばりつけたようなダリアという名前の村で俺はサグという名前で生まれた。
村の住人は30人ほどのドがつくほどの田舎である。
自分で言っては何だが、俺は普通ではない。
生まれは普通。育ちも普通。
ただ一つだけ圧倒的に俺が普通とはかけ離れた存在である要素がある。
単刀直入に言うと、俺が転生者であるということだ。
転生者というと自分の前の世界から何かのきっかけで、異世界に生まれ変わるというパターンが多いだろう。
そういった本などの娯楽が充実した世界を経験したことがあるため、だいぶ的を射た意見であるはずだ。
しかし俺は転生を1度ではなく、99万9999回している。
あまりの規格外な数字に驚くだろうが、一般的?な転生と俺の転生には決定的な違いがある。
それは俺が「偶然に」100万回目の転生の際に以前の転生を知覚したということだ。
そのため、俺は転生を重ねるごとに、知識や経験などを重ねたわけではなく、100万回目に全ての知識、経験、能力までも共有することになった。
一度の人生で得られるものは多いとも、少ないと言えるだろう。
しかし俺は99万9999回も様々な境遇や環境で人生を過ごした。
ある時は、勇者の末裔として生まれ、世界を救ったことがあった。剣技や魔法を扱い、魔王を倒した。
輝かしい人生であったと思うが、残念ながらその時の俺の死因は、国の戦力としてこき使われた後に、あまりの力を恐れた味方に裏切られて殺されたことだ。
愚直に他人を信用し、力を振りかざした結果である。
その時には力の扱う経験と知識、そしてなにより人の愚かさを身をもって知った。
またある時は、賢者となり、魔法について研究することに一生を費やし、魔法を極めた。
攻撃魔法から回復魔法まで、幅広く携わり、数多の知識を得た。
ほかにも商人や武人、王にもなったこともある。
しかし、奴隷や孤児の時もあり、良い経験をするだけではなかった。
だがそれすらも経験となり、転生の度にストックされていった。
とはいえ、魔法がなく、気を扱って攻撃をする世界など、100万回目の世界では無いものなどを得ている。
実際のところ俺の実力は未知数だが、相当な力を持っていることに違いないだろう。
一言でいえばチートだ。
俺がこの世界で偶然にも得たこの状態だが、その「偶然」が訪れたのは俺が13歳の時である。
そして俺の人生の歯車は回りだすどころか、乱れ、狂い、歯車ごとはじけ飛んだのであった。