表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔法剣士と四季の王国

作者: 井村六郎

 むかしむかし、ある所に、シーザという名前のとても強い剣士がいました。

 シーザはただの剣士ではなく、魔法も使えます。その剣と魔法の腕から、シーザは様々な国で有名になっています。



 シーザはいろいろな人からお願いされて、怪物を退治したり、悪い人達から王様や貴族を守ったりしていますが、何もない時は、自分の家で薬をせんじて、生計を立てています。たくさんの人を守るために、世界中のいろんな場所に行ったので、薬草や薬に使う材料にとてもくわしいのです。



 そんなある日のことでした。シーザの奥さんが病気になって、寝込んでしまったのです。

 シーザは急いで奥さんの病気に効く薬を作ろうとしましたが、困ったことが起きました。薬の材料である薬草が、少しだけ足りないのです。その薬草は、四季の王国だけにはえている、特別な薬草です。



 四季の王国とは、春、夏、秋、冬の四つの力を持っている四人の女王がやってくる、特別な王国のことです。他の国とは違って、四人の女王の一人が塔に住むことで、その女王の季節が来ます。


「待っていておくれ。すぐに薬草を取って帰ってくるからね」


 シーザはベッドで寝ている奥さんにそう言うと、大急ぎで四季の王国に出掛けました。今の季節は春なので、薬草を取るにはちょうどいい季節です。



 四季の王国に着いたシーザは、とてもびっくりしました。今は春の、真ん中あたりの時期のはずです。それなのに四季の王国は、深い雪と冷たい氷に閉ざされていたのです。


「おかしい。いったい、どうなっているんだ?」


 このままでは、薬草が取れません。四季の王国に何が起きているのか、調べる必要があります。


「すいません。どうしてこの国はまだこんなに寒いのですか?」


 シーザは道ばたを歩いていたおじいさんに聞いてみました。


「この国には四人の女王様が交替でやってきているのは知っているね?」


「はい。もちろん知っています」


「今この国の塔に冬の女王様が住んでいるんだが、どういうわけか春の女王様が来ないんだ」


 おじいさんの話によると、いつまで経っても春の女王が現れず、しかも冬の女王も塔に閉じこもったまま、出てこないのだそうです。

 冬の女王が塔から出ていかなければ、この国に春は来ません。いつまでも冬のままでは、みんな凍えて死んでしまいます。

 王様はこの国の季節を再び巡らせるため、この国を春にした者に望みの褒美を取らせるとおふれを出しました。しかし今までたくさんの人が様々な方法を試してみましたが、成功した者はいません。



 冬の女王はいったいどうしてしまったのでしょうか。理由を確かめるために、まずは冬の女王が閉じこもっているという塔に行ってみようと、シーザは決意します。



 シーザが塔に行こうとした時でした。


「神官様!」

「おお、神官様だ!」

「神官様、どうかお恵みを!」


 すぐ近くの広場がやけに騒がしくなり、シーザは見てみます。

 そこには、白い服を着た神官がいて、広場にいる人達に食べ物や暖かい飲み物を配っていました。

 シーザはおじいさんにたずねます。


「あの神官は?」


「ああ。いつまでも冬が終わらなくてみんなが困っている時に、突然どこからかやってきたんだ。あんなふうに、みんなに食糧を配ってる」


 神官は神様の使いを名乗り、この国の人々を救いに来たと、食糧を配っているそうです。それだけならまだよかったのですが、あの神官は冬の女王はこの国を滅ぼすつもりだとか、ありえないことを国中にふれまわり、自分といっしょにいる人だけは助かるなどと言って、信者を増やしているそうです。


「みんなすっかりあの神官を信用しちまってるが、おれはだまされないぞ。冬の女王様がこの国を滅ぼそうとしてるなんて、ぜったいにありえないことだ。それなのに、貴族まであいつが言ってることをうたがわない。今夜たくさんの貴族をあつめて会食するそうだが、そこにあいつも呼ぶつもりなんだ」


 シーザも、神官については少し怪しいと思っていますが、怪しいだけではどうしようもありません。ひとまず冬の女王がいる塔へ行くことにしました。



 シーザがしばらく歩くと、問題の塔が見えてきました。

 と、よく見ると、塔の入り口である大きな扉の前に、誰かいます。それは、ローブをまとった女性でした。女性はじっと塔を見上げたまま、少しも動きません。

 シーザは魔法を使う剣士なので、すぐに気付きます。この女性は、とても強い魔法の力を持っている。しかも、なぜか女性のまわりだけ、ほんのりと暖かいのです。

 もしかしてと思ったシーザは、まわりに誰もいないことを確認してから、女性に話しかけました。


「もし。あなたは春の女王様ではありませんか?」


 女性は驚いて振り向き、シーザと同じように、まわりに人がいないことを確認してから、答えます。


「はい。私は春の女王です」


「こんなところで何をしておられるのですか。あなたが塔に入らないから、この国はずっと冬のままです」


「……私も、できることなら、早く塔の中に入りたい。でも、それはできないのです」


 春の女王は話し始めました。


「あなたは、突然どこからか現れた神官のことを知っておられますか?」


「はい」


「彼は人間ではありません。神官に化けた悪魔なのです」


「なんですって!?」


 悪魔の目的は、この国を乗っ取ることでした。そのために冬の女王を塔に閉じこめ、長く続く冬に苦しんでいる人々にほどこしを行い、この国の全ての人の心を掴もうとしているのです。冬の女王が国を滅ぼそうとしているとうそをつき、人々の心を冬の女王から離れさせるのも、計画の一つでした。いずれは人々の心を、全ての女王から離れさせるつもりでいるのです。


「冬の女王は、一歩でもこの塔の中から出れば、すぐにこの国の人々を皆殺しにすると脅されています」


 それでも冬の女王は、自分の声だけを飛ばして、春の女王に助けを求めたのでした。

 しかし、春の女王が何かをしても、冬の女王が約束を破ったと、悪魔は国の人々を皆殺しにするでしょう。だから彼女もまた、悪魔に手を出せないでいたのです。



 この国に再び季節を取り戻すには、悪魔を退治しなければなりません。しかし、シーザが神官の正体が悪魔だと言っても、誰も信じないでしょう。この国の人々は、すっかり悪魔の信者になってしまっているのです。

 ふと、シーザはおじいさんが言っていたことを思い出しました。今夜、貴族がたくさんの友達をあつめて会食を行い、あの悪魔もこの会食に招かれるのです。

 シーザは今が最大のチャンスだと思いました。


「もう少しだけ待っていて下さい。私が必ず、人々をたぶらかす悪魔を退治してみせます」


 シーザはひとまず春の女王に別れを告げ、急いで王様のもとへ行きました。今夜行われる会食に参加するための、紹介状を書いてもらうためです。

 シーザのことをよく知っていた王様は、すぐに紹介状を書くと、シーザに渡しました。


「ありがとうございます。このご恩は必ずお返しします」


 シーザは王様にお礼を言うと、宿に泊まって夜を待ちました。



 夜。シーザは貴族の屋敷に行き、紹介状を見せて中に入りました。いよいよ、勝負の時です。

 シーザは屋敷の主である貴族に会いに行き、ポケットから小袋を出して渡しました。


「これは私が外国から取り寄せた、とても珍しい調味料です。私が心から信じる神官様の料理に加えて差し上げて下さい」


 貴族もまた、シーザをよく知る者でした。信用しているシーザからの言葉にすっかり気分をよくした貴族は、コックに小袋を渡し、神官の料理に加えさせました。



 会食が始まります。シーザは料理に手をつけず、神官をじっと見ていました。

 神官が料理を口にして少しすると、神官は突然苦しみ始めました。まわりの人達が、神官を見て悲鳴をあげます。神官がみにくく恐ろしい、悪魔の姿に変わっていたからです。



 シーザが貴族に渡したのは、調味料ではありませんでした。彼が特別に作った、真実の薬という薬です。この薬を飲んだ者は隠し事ができなくなり、どんな質問にも正直に答えます。また、何らかの方法で姿を変えている者が飲んだ場合は、その真の姿を現すのです。

 シーザはたくさんの人々の前で、神官の正体をあばくために、この会食に参加し真実の薬を料理に混ぜて飲ませたのでした。


「冬の女王様を塔に閉じこめたのはお前だな!? この国を自分のものにするためにやったのだな!? 私の質問に答えろ!」


 シーザはイスから立ち上がり、悪魔に剣を突きつけます。


「そうだ! この国をおれさまのものにするためには、人間どもの心を掴む必要があった。だから冬の女王を塔に閉じこめて、悪者に仕立てあげてやったのよ!」


 真実の薬の効果が続いているので、悪魔はシーザの質問にぺらぺらと正直に答えてしまいます。全てを話し終えてから、悪魔はあわてて両手で口をふさぎましたが、もうここにいる人達に、自分の目的を知られたあとです。


「人々の心をもてあそぶ悪魔め!! この私が退治してくれる!!」


 シーザが剣を高くかかげると、剣が燃え上がりました。シーザが魔法で、剣に火をつけたのです。シーザは燃え盛る剣で、悪魔を斬りつけます。まっぷたつになった悪魔に剣から炎が燃えうつり、悪魔はあっという間に消し炭になってしまいました。



 神官の正体が悪魔だったということは、その日のうちに国中に広がりました。

 そして次の日の朝、シーザは王様にお城に招かれました。そこには春の女王と、自由になった冬の女王もいます。


「ほんとうに、ありがとうございます」


「春の女王から聞きました。あなたには何とお礼を言ったらいいか……」


 二人の女王は頭を下げて、シーザにお礼を言いました。


「そなたに褒美を取らせよう。何がのぞみだ?」


 王様はシーザに、おふれのとおり褒美をあげようとします。


「褒美はいりません。その褒美は、どうか冷たく寒い冬をたえぬいた、この国の人々全員に差し上げて下さい」


 しかし、シーザは褒美を受け取りませんでした。彼がこの国に来た目的は、王様から褒美をもらうことではないからです。



 冬の女王はどこかへ飛び去り、春の女王が塔の中へ入りました。すると季節はすっかり春になり、暖かくなって雪がまたたくまにとけていきます。

 そしてとけた雪の中から、シーザがさがしていた薬草が現れました。シーザは薬草をたくさん摘み取ると、大急ぎで自分の家に帰りました。


「長く苦しい思いをさせてすまなかったね。今薬を作るから、もう少しのしんぼうだ」


 シーザは薬を作り、奥さんに飲ませます。すると、奥さんはたちまちよくなって、次の日の朝には立って歩けるくらい元気になりました。



 四季の王国を悪魔の手から救ったシーザは、元気になった奥さんと、いつまでもいつまでも、しあわせにくらしましたとさ。



 めでたしめでたし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 普通に良いと思います [気になる点] 地の文が多すぎる。別に主人公が剣も魔法も強いとか言う必要ないです。最強主人公系のラノベじゃないんですから。奥さんとの話が最初と最後しか出ないので、もっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ