第9話
広場の端っこにある冒険者ギルドは一目でわかるくらい大きかった、この町では珍しい三階建てで少し離れた外からでも中ががやがやと賑わってるのがわかる。目の前まで来ると開きっぱなしの大きな入口やそこに出入りしている様々な人たちのガタイの良さやその顔つきがよく分かる。自然と俺の鼓動も早くなってしまう。
「中では俺から離れるなよ、あとあまりキョロキョロもするな。」
自然な足取りでギルドに入る三男の後ろをちょこちょこと俺が追っていく。入口ですれ違う人たちが珍しそうにチラチラと見てくるがちょっかいを出そうなんて人たちは居なかった。そのまま何事もなく掲示板やカウンターを過ぎてさらに奥に進むと集会所みたいな雰囲気の酒場に出る。酒場は長方形の大きなテーブルが八つに食事や酒を出す少し長めのカウンターがあるだけの簡素な空間だ。そして三男のお世話になっているという冒険者はどうやら一番奥のテーブルで酒を飲んでいるようだった。
「おお、待ってたぞアレス。んで後ろのが例の坊やか?」
「すいません、てか今日も飲んでるんですか・・・。まぁ、いいです。こいつが前に話した俺の弟のシローです」
その冒険者の風貌は深めのフードで口元しか見えないので分からないがその代わり真っ赤なリップを塗ったセクシーな唇が印象に残る線の細い女性だった。その割に声は低く何とも言えない迫力がある。ちなみにアレスとは三男のあだ名だろう本当はアレックスって名前だし。とりあえずあいさつしとこう。
「初めまして、シローです」
「くっくっく、しっかりした坊やだ。私は冒険者のジーナだ。しっかし、兄貴とは大違いだよ。コイツなんか最初はね・・・」
「すいません、その話は勘弁してください!ほら、酒!酒飲んどきましょう!すいませーんエール一つ!」
三男が珍しく慌てている。家では絶対に見られない光景だろう。なんせ俺の次に、いやもしかすると家では一番影が薄いかもしれないのに。
「こいつは、すまないね。さて、シロー。アレスから話は聞いているかい?」
「えっ?いえ、何も聞いてません」
「・・・アレス?」
口元は笑ってるままだが雰囲気から怒っているのがわかる。うん、きっとこの人は怒るとものすごく怖いタイプだ、
「すいません、家の中じゃ話しにくかったんで・・・」
「まぁ、それなら仕方ないか。なら今、話しておきな。」
「・・・はい」
おおう、なんだかよくわからん。話が見えてこないぞ?アレスが居住まいを直して俺になぜこうなったかを説明してくれる。
「シロー、家ではあまり話す機会がなかったが俺は結構お前の事を気にかけてたんだ。ソロモン家で三男の俺の生活を知っている分四男のお前の生活がどういうものになるか分かるんだ。だからお前には一人で生活できる力を身に着けてほしいと思う。俺の時は、2年前10歳になってからすぐに冒険者の登録をした。ソロモン家では6歳になると6年間貴族としての教育が本格的に始まる。それは三男であってもだ。4年間教育を受けた俺にはそれなりの剣術とソロモン家に恥じない魔法が使えると思ってた。自分の力を信じて疑わなかった俺は冒険者登録をしてすぐ一人でスライムの洞窟に行った。スライム一匹くらいならなんてことはなかった、なんせ剣でも魔法でも一撃くらいで仕留めれたからな。完全に浮かれていた俺は一人でどんどん奥に入っていった。ダンジョンてのは奥に行くほど魔物が強くなるんだがその時の俺は知らなかった。段々とスライムが俺の攻撃を耐えたり躱してくるようになってな、そうすると一人で対処が出来なくなってきて最終的にスライムに囲まれちまってな。そんな絶体絶命の時にこのジーナさんが通りかかって助けてくれたんだ。この人はこう見えて面倒見がいいから絶対お前の助けになると思う。それにお前が将来仕事に就きたいと思ったときに冒険者の時に作った信頼や経験は無駄にならない。・・・本当は俺が面倒みてやりたかったんだけどな、俺来月にはこの町を出ていくんだ。」
大人しくふんふんと相槌を打ちながら話を聞いていたが最後にとんでもない発言が出てきた。えっ、まだ12歳で独り立ちすんの?早くないか?俺があまりの衝撃にぽっかーんとしているとジーナさんが肩を組んできた。
「まぁ、そういうことさ。ちなみに、これはアレスからの依頼でもあるからちゃんと面倒は見るから安心しなシロー。」
「まぁ、町を出るまで一か月あるから基礎的なことは俺が教える。・・・ってシローなんか反応薄いな、もしかして嫌だったか?」
「・・・いや、じゃないけど。急だったからびっくりしちゃって。・・・どういう反応していいかわかんなかった。でもすっごくうれしいよアレス兄ちゃん!」
「ああ、そういうことか。シローに喜んでもらえてよかったよ、たぶんこれが俺のしてやれる最後の手助けだからな」
その言葉通り、三男アレックスは一か月後にこの町を出て行った。
もう少し仲良くしておけばよかったなと思うのと同時に寂しさが込み上げてくる。本当に話すようになって一年たつか経たないくらいだけど俺にとって貴重ないい兄貴だった。
「また、どこかで会おう。」
最後にそう約束して短剣と下町にある借り倉庫を俺に譲ってくれた。
まだ、10歳になってない俺は冒険者登録を出来ないがジーナは知識なら今からでも身に着けられると言って6歳になるまでの約一年間ジーナにいろいろと教えてもらった。
そうして知ったのだが三男アレックスの冒険者としての腕だ。
最初こそは大失敗をしたがスペックはかなり高かった三男は失敗の経験をバネにさらに努力を重ね、剣術は初級を修め魔法は中級を修めている。これは実力としてはS~Fまである冒険者ランクで言うところのCかDに相当する。ランクがDあれば冒険者として食っていけると言われているなかさらに、三男はジーナからシーフの手ほどきを受けているため斥候、索敵、罠解除、戦闘をこなせたそれに中級魔法を使いこなせるつまりは、ソロでCランクくらいの腕前があったことになる。
(意外とすごい人だったんだ、俺も頑張らないとな。)
こうして三男はソロモン家を去り冒険者のメッカ迷宮都市ラビスに旅立った。
一方俺は6歳になりソロモン家の教育が始まろうとしていた。