第8話
二年たち俺は5歳になった。あの隠し工房には今でも頻繁に通っている。ていうか最近では俺の秘密基地みたいになっている。祭壇と魔法陣を取っ払って普通の工房として使っている。それと人前では出来ないような魔法の訓練だ、もちろん魔力は初級程度に抑えないといけないが効率と省エネ化を研究しているうちに中級とまではいかないが初級よりは上の魔法を使えるようになっていた。そして今はまだ手を出せないが転生の秘法を研究していたこの部屋にはありとあらゆる禁術や秘法の知識が集まっている、中には便利そうなモノもあったので会得してみたいが最低でも中級以上に耐えられないと会得するのは無理だろう。
それはともかく隠し倉庫にいた番犬のポチ。元ミミックのポチは意外に寂しがりということが発覚した、一匹で百年くらい過ごしていた反動だろうか?名前を付けたのにさすがに倉庫にずっと放置はかわいそうだと思ったので召魔の契りを結ぶことにした。この召魔の契り、実はポチの渡してくれた本に書いてあったもので、ポチの渡してくれた本は召喚魔法と魔獣の従属化関連をまとめたものだった。最初は初級魔法しか扱えない俺は召喚魔法を諦めていたが召喚魔法にもいろいろあるようで俺にも扱えそうなモノその一つがこの召魔の契りだったというわけだ。
まず、召喚魔法について説明していこう召喚魔法は大まかに二つに分けられている一つは普通の魔法みたいにイメージして魔獣を生み出す、これは消費魔力が上級魔法くらい大きいうえに制限時間が設けられるしかし同じ魔獣を何十体と生み出すこともできるし魔獣が死んでも消えるだけでまた再度すぐに召喚できる。そしてもう一つが俺の選んだ魔獣と契約し呼び出す方法だ。これは魔獣が強いほどまた召喚する魔獣と距離が遠いほど消費魔力が上がってく。しかし魔法としては呼び出すだけなので前述した召喚魔法より消費魔力は少ない、そして召喚する魔獣が死んでしまえばその魔獣はもう召喚することはできない。
だがそれでも中級以上あったので俺はさらにそこにアレンジを加えた、まず魔獣の心臓とも言える魔石を依代にポチの体を魔力に変換する。そしてポチが宿った魔石をとあるマジックアイテムに組み込む、そのマジックアイテムとは魔術師がよく使用するといわれている魔力を保管して必要な時に取り出したりする言わば魔力のタンクだ。ひいお爺ちゃんが作ったであろうそのマジックアイテムは指輪の形をしており貯蔵できる魔力も魔獣一匹なら問題にもならない間違いなく一級品のマジックアイテムだろう。
そのマジックアイテムをポチを宿した魔獣の指輪に改造した、本を読み漁り調べながらだったので拙いところもあるが何とか召喚と帰還の術式を組み込みポチを好きな時に呼び出せ好きな時に帰らせることができるようになった。消費魔力もマジックアイテム発動分だけなのでほとんど魔力を使わない、デメリットといえば身に着けておかないといけないこととマジックアイテムの破壊=ポチの死ということだもちろん召喚したポチが死んでもアウトだ。何はともあれこれでポチの問題は解決した。だがこの技術も禁術や秘術とおんなじレベルなので人前には見せてはいけないと悩んだ俺は土魔法で簡単なネックレスのチェーンをちまちまと作りそこに通すことで隠すことにした。本当はアンクレットやブレスレットが良かったのだが四男の俺の私服は半袖オンリーなのだ・・・泣けてくるぜ。
本当に四男の扱いは家では雑だ。それに影も薄い5歳ともなれば気を配る必要もなくなってくるしな、まぁ俺には都合がいいし父と母さんは俺にやさしい。最近では三男の兄貴とも少し話すようになった。最初の会話のきっかけは食事はいつもパンとスープオンリーだったのだがパンすら俺になかった日があり途方に暮れる俺に三男がこっそりパンを半分くれたのがきっかけだ。我がソロモン家では大人組と子供組に分かれてご飯を食べるので誰も味方が居なかったが俺と同じく影の薄い三男はどうやら俺の味方のようだ。
そんな三男に5歳になってしばらくして、町に出かけないかと誘われた。
「それじゃあ母さん行ってくるね!」
「気を付けてね、危ないことしたら駄目よシロー。」
母さんに三男と遊びに行ってもいいかと聞くと渋々ながらおっけーを貰い心配だから持って行ってと言われ母さんの昔使っていたリュックを貸してもらった。中には銅貨数枚の入った財布と木苺のジャムを挟んだサンドイッチのお弁当が入っている。
「大げさだなぁ」
三男は苦笑していたが何はともあれ。
こうして母さんの了解をもらい初めての町に繰り出すことになった。
「うわぁ・・・スゴイ」
初めて家の外に出てこの異世界の景色を景色を目にする。この領地は盆地らしくぐるっと大きな山々に囲まれ、この小高い丘にある家を起点に放射状に町が展開している。町というか村に近いというのは田んぼや畑の数が多いためだろうそれでもこの家から延びる大きな道は人通りもそれなりでそこに時々荷馬車が通る。意外というかなかなか賑わってそうな街並みだ、特に中央付近は雑多な感じで少し開けた感じの広場になっていて露店なども少しながらある。そしてこの家に近づくほど大きな屋敷が増えていきそれは緩やかな坂の下あたりから街並みが変わっている、歩いている人の服が違うし何より偉そうだ。そうして改めて自分の家を見るとなるほど領主の家だけはある、見た目だけなら家が一番豪華だ。内実はかなり苦しいが。
「ほら、一応これもっとけ」
坂を下りたくらいで急に三男から渡されたのは短剣だった、スティレットというやつだろうか鞘から抜くと細身の刃が確認できた。
「護身用だ。扱い方は分かるか?とりあえずなんかあったら首か関節を狙え。お前くらいの身長なら膝か腰あたりだな。」
「わ、わわわ・・・」
刃物なんて包丁以外持ったことねーよ!なんて突っ込める余裕もなく抜いた短剣を持ってぷるぷると震えるしかできない。
「お、おい!抜き身で持ったままにするな!」
横から短剣を奪われると鞘に戻して俺の腰のベルトに差してくれた。
「いいか、危ないと思った時以外抜くな。」
そうきつめに言われた俺は小さくハイとしか言えなかった。しょうがないだろ、本物の短剣なんて持ったの初めてだったし。一応隠し倉庫にも武器の類はあるが武器の必要性を感じない俺はそのまま放置してる。
「とりあえず冒険者ギルドに行くぞ」
冒険者ギルド・・・?その存在は母さんから聞いていたが今日は中学生くらいの三男の友達でも紹介してもらって町で遊んだりするのかと思ったんだが、冒険者ギルドに何しに行くんだ?
何をしに行くのか聞くといつもそこでお世話になっている冒険者を俺に紹介しいてくれるらしい。なんで急に紹介なんてって謎に思ったがそんなことよりだ。
初めての冒険者ギルド。
異世界の定番中の定番、冒険者。
やばい、めっちゃワクワクするんですけど!
俺のテンションは三男の後ろでふつふつと上昇していたのだった。