第3話
立つことに成功しさらに努力を重ねること1カ月もうぷるぷると立つだけの俺ではない。完璧には程遠いが家の中を徘徊できるくらいには歩けるようになった。言葉のほうもあどけなさは残るけど違和感ないくらいには喋れるように頑張った。むしろ、年相応の話し方をするのに精神的ダメージがあった、なんせ中身は33歳だ。自分で「まんまー」とか言ってたことを後から考えると寒気がする。でも不思議なことに母や父、使用人など家の人と話してるときは肉体に引っ張られるのか幼い喋り方をするのにあまり違和感がない。この肉体に引っ張られるの感覚がなんとも不思議でやはり俺はもう四郎ではなくシローなのだと感じさせられる。この問題を俺はあまり深く考えないことにする。シローも四郎も自分に違いないそう考えておこう。
そして俺はこの1カ月行動範囲が増えたことと家の人と話せるようになったことでこの家のことを本格的に調べ始めた。普通立ち寄ってはいけないところも子供であることを利用して見つかったとしても怪しまれることはなかった。そして俺はこの家の書庫、工房、執務室の場所を把握しあるものに目を付けた。目当てのものはマジックアイテムと本だ。やはり異世界に来たからは魔法を使いたい。
だが、魔法を使えるのかそもそも本を読めるのか。この疑問を解決したのは異世界転生者によくある能力だ。どうやら俺には『言語』と『鑑定』の能力がある。この二つはっきり言ってチートだ。『言語』は言葉や文字の理解だけでなく伝えようとしてることがなんとなくわかるし自分の伝えたいことも相手に伝わる。鑑定はそのモノの本質が分かってしまう。マジックアイテムであればそれの能力と使い方、状態が分かり人に対して使用すればその人の強さとある程度の能力、そして性格が分かる。これもう完全に勝ち組だよねと思うがこの能力が無かった時のことを考えると俺はもう早々に人生を諦めていたかもしれない。
そしてもう一つ言っておきたいことがある。この世界の人たちは大なり小なり大体の人が魔法を使えそれは生活の基盤となっていると言ってもいい。この魔法をどれくらい使えるかを決めるのが魔力の存在なんだがどうやら俺にも魔力はある。しかもかなりあると言ってもいいと思う。もともとこのソロモン家は宮廷魔術師のひいお爺ちゃんが興した家だ。つまりソロモンの血統は脈々と受け継がれ家族の全員が魔法の才能がそれなりにある、まさにひいお爺ちゃん万歳。
これらのことから俺の魔法に対する未来は非常に明るい。そして今日、いよいよ俺は行動に移すことにした。本当はもっと早くから読むことはできたのだがどう考えても生後1年にも満たない子供が学術書や魔術所を読むのはおかしい。もしも家族に本を読んでいるところを見られでもしたら不気味な子供扱い、下手したら追い出されるかもしれない。とにかくそんな危険を冒すわけにはいかない。だからこそ今日なのだ。昨日月に一度の行商とともに父、祖父、一番目と二番目の兄貴が所用で王都に一カ月ほど出かけた。母は部屋から出ることはないし三番目の兄貴は家に居ることは少ない。使用人たちもあまり二階には来ない。まぁ、使用人くらいなら見られても追い出されるような結果にはならないと思う。とにかく今日から一カ月ほどは魔法を学ぶのに最高の条件が揃ってる。
こうして俺は、誰の目にとまることもなく二階に来れた。まず執務室に立ち寄ってみたが残念というか当たり前なのだが鍵が掛けられていた。だがまだ俺には書庫がある。ということで書庫に入ってみたが凄い。かなりの蔵書数だ。書庫はお爺ちゃんの住む大部屋の反対側にあるのだが、なるほどこれだけの本ならば大部屋を書庫にするのもわかる。とりあえず片っ端から目的の本を探してみる。
「…見つけた。」
俺が見つけたのは『魔法入門-分かりやすい魔力の扱い方-』と『初級魔法全書』他にもたくさんの魔導書があったが初心者用だと思えるのはこの二冊だけだった。逆にこれだけ大きな書庫に二冊しかないのを考えるとやはりソロモン家の魔法の知識レベルは相当高いのだろう。まだまだ日は高いこれなら今日中にこの二冊を読み終えることもできるだろう。ともかく俺は手始めにこの二冊を読み進めた。
「ふむふむ、分かる分かるぞー!」
入門書は魔法と魔力の知識のない俺にもなんとなく理解できた。いや、これは『言語』の能力によるところが大きいだろう。魔法はイメージと魔力でできている。そして、もちろん呪文もあるのだがこれはイメージと魔力を補強するための技術で熟練の魔法使いは呪文を詠唱破棄して扱うことができ。伝説の魔法使いは無詠唱で魔法を放つことができたそうだ。
・・・あれ?俺これもしかして無詠唱できちゃうんじゃね?
日本でさまざまなマンガ、アニメ、映画を見てきた俺にイメージという点で死角はない。さらに魔力についてもソロモン家の血統は優秀だ。いや、まて人生そんなに甘くない。あまり期待しすぎるとできなかった時のショックが大きいからなここは落ち着いていこう。とか思いながらもやはり期待で胸は躍るしとうとう憧れの魔法を使えるかもしれない。わっくわくしながら『初級魔法全書』を開く。
よし!読める!さーてさてさて、初めて使う魔法は何がいいだろうか。もう片っ端から使っていきたい気持ちを抑えとりあえずこの書庫で本を読んでる今でも使える魔法を探す。何がいいだろう、火なんて論外だし水もダメ土なら捨てればイケるか?いやだめだ。後は風、光闇、念動?こんなのもあるのか。うーんとパラパラとめくるが悩む。
「よし、やっぱりこれにしよう。」
『そよ風よ吹け、ブリーズ』
ふわぁ、と埃と本の匂いがする書庫を爽やかな風が吹き小さな埃が舞い上がる。窓から差し込む夕日がそれをキラキラと照らしている。締め切った書庫に風が吹くことはない。つまり今起きたこのそよ風はまぎれもなく俺が魔法で起こしたのだ。
「お、おおお。ま、魔法使ったのか俺!俺すげえマジすげえ!」
感動で肌は粟立つし手もブルブル震えてしまう。気づいたら涙まで流していた。
それほどまでに俺はこの瞬間を待ち望んでいたんだろう。
33年間夢見た世界で俺は今魔法を使うことができた。
それは俺の絶対に叶うわけがない夢が叶ったということだ。
(神様マジでありがとう。本当に感謝しています。)
思わず居るかどうかもわからない神様に祈ってしまう。心から感謝の気持ちが溢れてくるのだ。
そして俺は、調子に乗った。
「ひゃっはあー!次は上級行っちまうぜー!中級なんて神に愛された俺には必要ねー!」
さっき魔法を使って分かったが俺には呪文なんて必要ない。もう少し練習すれば簡単に無詠唱まで至ってしまうだろう。魔力だって初級魔法を使った場合魔力が底をつくのは普通の人で5回、優秀な人でその倍程度なんて書かれていたが全く消費した気はしなかったし何発でもイケそうだった。つまり魔法において俺は恐らく伝説級の使い手だってことだ!多分!そうと決まれば早速風の上級魔法を探す。
「おお!いいのがあった!天候を操る魔法『クラウドコントロール』か」
書庫の窓をバン!と勢いよく開け大空に向かってそのを魔法を放つ。
―――イメージは曇り無き空。
『雲を散らせ、クラウドコントロール』
発動するために自分の体から魔力がザァッと引いていく。あ、これやば・・・
ヤバいと思った次の瞬間には頭の中でぶつんとイメージした映像が消され視界もまた暗転したのだった。