16話
あれから僕達は川沿いを進み上を目指した。上に進むにつれて山は険しくなりまた、酸素も薄くなっていく。ある程度頂上に近付いたところで川が途切れ湖に変わる、僕達はそこを山篭りの拠点とした。
師匠からこの山についてざっくりと教えてもらう。この山はタックゥバと言われその意味は古き言葉で最も低いと言う意味だそうだ。名前の通りほかの山に比べると低いこの山は出てくる魔獣も師匠に言わせればそう強くないらしい。確かに今のとこ出会った魔獣は単体ではそう強くない。
そう単体で出会えたならばだ、今のとこ出会った魔獣は全部群れを成している。そのためこの山の魔獣は基本的に三匹以上で行動しているのだ。初日に会ったバトルエイプからコンバットウルフにパンツァースネーク、ファランクスボアなどの魔獣と戦ったが単体で出会った魔獣など居なかった。
そして、逆に単体の魔獣が居たなら注意しろと言われた。なぜならこの山で単体で生息する生物は師匠の知る限り一つしかない。
バーサークオーガ
狂乱の鬼獣と呼ばれるそいつは牛の頭に虎の下半身、尾には毒蛇を持つ人型の魔獣。コイツだけには手を出すなそう言い含められた。その後は野草や茸など山で生きるための知恵を教えてもらった。かくして、まぁ大丈夫だろうと言う師匠の判断の元、山での本格的な修行が始まる。
早朝、日が昇ると同時に起床、木剣を持ちいつものメニューをこなす。その後は昼前まで拳術の修行、それが終わったら師匠の用意した飯を喰らい午後の修行を開始する。時には山の中を移動しながら、時には険しい岩場でというように様々な場所で組手をし、もれなく襲いかかってくる魔獣を撃退する。
控えめに言っても戦いの日々だと言える毎日を送っていると、最初の一月は何回も死にそうな目にあった。
だが、それを乗り越える度に強くなれている。今では、魔獣が襲ってくる時間は休憩タイムみたいなものだ。魔獣よりシャオランの方がよっぽど手強いのだ。そんな訳で今日も襲ってきた魔獣を目の前にどっちが先に多く倒すかゲームをしながら倒していく。
その日の相手はコンバットウルフ20匹を超える程。連携して襲いかかってくるコンバットウルフの戦い方は相手を囲み正面は牽制、攻撃するのは背後の死角や隙ができた時のみと慎重で用心深く狼が狩人と呼ばれるのも納得の戦い方だ。
思い返せばこのコンバットウルフにも殺されかけたものだ。馬鹿正直に正面の相手と牽制しあっている時に後ろから襲われ押し倒された時は本当に死ぬかと思った。あの時はがむしゃらに覆いかぶさってくるコンバットウルフを地のオーラを纏い地功拳の要領で手も足も使ってボロボロになりながらも撃退したんだっけか。
だが、戦い方を知る今では先手必勝。挨拶替わりに風のオーラを纏いくるりと身をひねり前へ飛びながら回転蹴りを浴びせる。風のオーラで強化された回転蹴りは正に鎌鼬の如き速さ。そのまま首を刈るかのようにへし折り、回転の勢いを殺さぬまま暴れ独楽の様にコンバットウルフの円陣の中をクルクルと回る。コンバットウルフへの対策は相手に連携させる暇もなく攻めることだ。
疾風之型・旋風『ツムジカゼ』
風のオーラにより回れば回るほど加速していく独楽は最後には本当にコンバットウルフの首を刈り落としてしまい周りに動く物が無くなったことが分かると円陣の真ん中に戻り風のオーラを解き放つとくるくると勢いを殺していく。惨たらしい赤い円には旋風により舞い上がった落ち葉がハラハラとその死体に降りかかるのみであった。
「コッチは12匹かな?今日も僕の勝ちだね!」
「バカヤローこっちにはボスが居たぞ!」
確かにシャオランの方にはふた周りほど大きい首が捻れてしまっているコンバットウルフがいる。だが、
「残念だけど、この勝負どっちが多く倒すかなんだ」
「ちくしょう!次は負けねーからな!」
そんな余裕の会話をしながら後処理をしている様は傍から見ても慣れていると分かるだろう。この山に来て3ヶ月経たないほどだろうか、僕達はこの山に順応する事が出来ていた。そして、それは師匠にも分かっている事であった。
いつもの様に獲物を自家製の背負い袋に入れ、シャオランと雑談しながら拠点に帰る。拠点に帰ると真っ先に湖に行き、獲物を洗うついでに体に付いた血や汗の汚れを落としさっぱりした後師匠の用意した飯を食う。そうして慣れてしまった山の日常がまた1日終わるはずだったのだが師匠から次の修行に移ると言われる。
「そろそろ山にも慣れた様だしの、魔獣拳の会得に移ろうと思う」
「じいちゃん!それは…!」
「えっ、師匠。何ですかそれは?」
「そうじゃな、まずはシローに説明しとくか」
魔闘拳にも流派という物が存在する。今僕達が使っているのが四相流と呼ばれ四つの型を使いこなす流派。他にも魔闘拳には少ないながらもいくつかの流派に分かれており、魔獣拳もその一つである。
魔獣拳は、魔獣を倒すためには魔獣を知り、己もまた魔獣に成るべしと言う教えの元に生み出された流派で魔獣の力や動きを取り込んだ構えと呼ばれる独自の技は魔闘拳の中でも一線を画すと言われている。
だが、この魔獣拳は魔闘拳の使い手の間では禁忌の技として知られている。
それは魔獣の力に魅せられその力に溺れる余りに人間の枠を外れ魔獣に寄り戻れなくなってしまう危険があるという。そのため魔闘拳の中でも禁じ手とされているのだ。
で、それをホウケン師匠は会得せよと言ったわけだ。シャオランが驚くのも仕方ないね。
「大体魔獣拳については分かりました、僕はやります」
「おいっ!シローホントに分かってんのか!?」
「ええ、危険なことは分かってます。でもここまで来て中途半端には終わりたくないです」
「うむ、その意気やよし。シャオランはどうする?」
「くっ、俺だけやらないわけにはいかないだろ!」
「いや、そこは自分で判断するといい」
あれ?師匠が妙に優しい。
「魔獣拳の会得には、死ぬ可能性が普通にあるからの」
あっけらかんと師匠が言い放つ。師匠がそう言うってことはマジだ。おっとー、ちょっと僕は辞めたくなってきたぞー。しかし、それでもシャオランは…
「だけど、俺はシローには負けたくねえ!」
かくして、かなり雲行きが怪しい魔獣拳の会得に向けた修行が次の日から始まることとなる。




