第1話
俺、天草四郎は退屈していた。毎日をテキトーに生きてきてもう今日で33になる。完全にダメな大人ってやつだ、てか大人になりきれていれるのかさえ怪しい。一応、仕事はイラストレーターをしているがそれもフリーでなんとも地に足がついていない。それもこれもくだらない夢を昔からずっと見続けたせいだと思う。
そう、四郎は昔からあるものに憧れ空想する。それは、幻想ファンタジーの世界。子供のころにやったゲーム、ハマった漫画、有名な映画・アニメ、売れている小説どれもそれなりに楽しめたが自分の見る夢の世界にはどれも足りない超えない満足できない。そんな飢えを少しでも満たすために四郎は夢の世界を複写するように絵を描き続け、イラストレーターになったのだ。
夢の世界にさえ行けたらそんなくだらない夢を抱いて生きてしまったのが四郎という男だった。
「あー畜生。行きてぇな、異世界。」
そんな叶うこともない夢を口にしながら安酒をあおり、今日もまた憧れの夢の世界へと旅立とうとしていた。
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「おぎゃぁぁぁ」
うるさい鳴き声に四郎は目を覚ます。
あー。なんだようるせえな。
「ほぎゃぁぁぁ」
いや、おかしい。なんでこんな耳元で
「おぎゃぁぁぁ」
赤ん坊の泣き声が。
少し冷静になり周りを見ればランプに照らされた清潔そうな木造の部屋。自分を包む暖かい毛布に、愛おしそうに自分を抱き上げる母親だろう人。心なしか顔色は悪い。そんな母を心配そうにする父親らしき人。がっしりとした体つきに少し老けている印象を持つ顔。そして、そんな二人の周りを産婆さんだろうか忙しくしている人や喜んで拍手している人たちがいる。
ああ、俺はこの世界に生まれ直したんだ。
気づけば泣いていた。誰でもない四郎が。
それは異世界に来た嬉しさか、興奮か。または未知に対する恐怖か。とにかく喜ぼうこの新しい人生を。
「生まれて来てくれてありがとう。これからよろしくね、シロー」
こうして四郎は迎えられたのだった。この未知の世界に。