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御一行道中記

泥棒四作

作者: 駄明神

「ちくしょう! またあいつか四作があ!」


店主が腹を立てている。泥棒四作が食い逃げをしたのだ。


「おや、店主。どうなされたのですかな?」


町で宿を探していた御一行は茶店の店主に話しかけた。


「それがよお 泥棒四作って奴がいてな。そいつはいつも働かずに悪っさばかりしては近所に迷惑をかけてんだ。親がいねえし、金もねえし、働きもしねえ! あるのは意地悪する悪知恵だけなんでいよ」


「それはそれは苦労なされたようですな。どうです? 彼が食べた分は私が払いましょう。すみませんが私にも茶と団子を御願いできますかな?」


「え、ええ。旦那が払ってくれるんなら別にかまいやせんが・・・大丈夫なんですかい?」


店主は苦い顔をして御一行に問いかけるが、涼しいものだった。


「なに・・・お金ならありますのでご心配なく。旅には必要なものですからな」


「ならこちらもいわねえや。ささ、くつろいでくんな!」


店の座敷に座り、出された日本茶を啜る御一行。


しばらくすると店主が団子を持ってきて、ため息交じりに愚痴を吐いた。


「いやね。あの四作って奴なんですが昔っからやんちゃなガキでしてね。いい年こいてもまだイタズラばかりするクソガキなんですよ」


「奴と同い年の奴らはもう立派に家業を手伝ったりしてるっつーのにアイツときたら・・・」


店主は四作という人物を長年見続けてきたせいか、これまでの所業を面面と語りはじめた。どうやら鬱憤が溜まっていたらしく、誰でもいいから吐き出したいのだろう。


「ふむふむ。かなりの悪ガキだったようですな。しかしこの町には役人はいらっしゃらないので?」


「え?」


店主が面を喰らった顔になった。考えたこともないといったような顔だった。


「そんな悪ガキならば役人が捕まえていてもおかしくはないでしょう。なにか理由があるのかもしれませんよ?」


「理由っつったって・・・アイツはいつも悪さばかり」


「だったら確かめて見ませんか? 四作という人間が一体どういう人物なのかを」


御一行はニヤリと笑い、店主にある提案を持ちかけた。


「しょ 正気ですかい!? 旦那!?」


「ああ正気じゃよ。わしは」


対外用の敬語もすっかりなくなりいつもの口調に戻った御一行は、店主の協力の下、作戦を実行に移した。



その夜


「ん? 今日は見張りがいねえみてえだな・・・?」


いつも四作は食料を盗むべく、茶店や菓子店に忍び込む。


しかし今日は何か違う。いつもなら四作を警戒して自警団らが見回りを行っているはずなのだが・・・


「なんでい! もうあきらめよったんか! 根性なしめ!」


実を言うと四作は自警団を欺くのが一つの楽しみでもあった。


「ま、いいか。これで手間が省けたわけだし。早いところ食料盗んでずらからねえと」


しかしそれはあくまでも副産物のようなもので本当の目的は別にあった。


「ええと・・・確かこの辺に・・・あったあった! 無用心な男だなあアイツも」


茶店の構造は既に頭に叩き込んであるために何をどこに隠しているのかは熟知している。


それを知らない店主はとりあえず難しい場所に隠しておけばよいという考えの持ち主なので、逆算すればすぐに分かる。


「へへへ。これだこれ! この”みずあめ”って奴がうまいんだ!」


ジュルリと舌をなめずり、持ち出すものを持ち出して茶店を去った四作。


それを少し離れた草場で御一行と店主、それに店の被害者たちがジッと見ていた。


「アイツ! おれのアメをこうもあっさり!」


「あんにゃろう! こういうことだけは知恵が働きやがる! 今度は俺たちが懲らしめてやる番だ!」


店主たちがいきり立っている。今にも暴動を起こしそうな勢いだ。


しかし御一行は顔色一つ変えずに、店主たちに言った。


「まあいきりなさんな。どうじゃろう? 彼の後をついていってみては?」


「言われなくてもそうするつもりさ! どうせ隠れ家で甘い汁を吸ってるに決まってる!」


「そうだそうだ!」


「よろしい。なら後をつけて見ようじゃないか。ただし気付かれないように静かにの」


御一行の提案通り、わざと店をがら空きにしておきおびき寄せる作戦。単純にして簡単ではあるが鬼一口な作戦だった。誰も考えなかったのは必然だったのかもしれない。


御一行の後ろを静かについていく店主たち、20間ほど先には四作が鼻歌を歌いながら盗品を持ち歩いていた。なんともノンキな男である。


「くそぅ。あの野朗・・・」


ご機嫌なヨウスの四作を見たせいか冷静さが失われつつある店主。しかし御一行はなだめる。


「まあ落ち着きなされ。もう少しで隠れ家につくじゃろう」


まもなく巣窟が見えてきた。森の奥深く明かりをともさなければ見えないであろう巣窟に四作は入っていった。


「あそこが隠れ家だな? アイツめ・・・とっちめてやる!!」


懲らしめるために持ってきた鍬を持って勢い良く巣窟へとなだれ込む店主たち。


御一行は止めるどころか、ニコニコしながら彼らのあとをゆっくりとついていく。



「四作ーーーー! てめえの悪事はここで終りだああああ!」


鍬を持った集団が巣窟に点っていた明かりをめがけて突っ込んでいく。


するとどこからともなく幼い声が聞こえてきた。


「ヨサクおにいちゃんをいじめるな!」


女の児、齢四つほどだろうか? 小さな木の棒を持って彼らの足を叩く。


それに続いて次々と子どもたちが棒を持って飛び出してきたのだ。


「いてえ!? なんだあ!? このガキヤ!?」


いきなりの出来事で混乱している店主たち、企みがうまくいったような顔してゆっくりと歩いてきた御一行。一体どういうことなのだろうか?


「ふむ。やはりこういうことじゃったか」


自分の推測が当っていたようだと御一行が思っていると店主が問いかけてきた。


「なあ旦那・・・これは一体・・・」


そこには子どもたちがいた。最初に出てきた幼女をはじめ、大きくても10歳ぐらいだろうか。


焚き火を囲むように子どもたちが棒を持って睨んできているのだ。


「んん? 騒がしいな? どうしたお前たち?」


奥から四作の声が聞こえてきた。焚き火の明かりで姿が見えると今の現状を見て絶句する。


「・・・・・・・アンタ・・・このあいだのじいさん・・・」


目を見開き、顔がこわばって動かない。


予想外の出来事に口を閉じることもできない状態に四作はあった。


「た・・・たのむ・・・こいつらは悪くないんだ・・・許してくれ・・・ヤるなら俺だけでいいんだ・・・たのむ!」


なんということか。あの四作が頭を下げているのだ。見たこともない姿に店主たちはたじろいでしまう。


「・・・四作・・・説明しろ・・・これあどういうことだ?」


目に涙を溜めた四作が顔を上げて震えた声で説明する。


「こ、こいつらは・・・身寄りがねえんだ。俺もオヤジもこいつらの面倒を見てた。ほっとけなかったんだ。でもオヤジが死んで・・・俺は働き口もねえ・・・。だから・・・こうするしかなかった・・・すまねえ。みんな・・・すまねえ」


ボロボロと涙をこぼして四作が子どもたちに謝る。


「なかないでよ・・・ヨサクおにいちゃん・・・う、うえぇ・・・」


四作につられて子どもたちも泣きそうになっている。店主たちもどうしていいか分からずオロオロしているだけだ。


「どうじゃろう? 店主よ。この児たちに仕事を与えてもうては?」


長く口を閉じていた御一行がようやく口を開いた。


「え・・・? でも・・・」


「安心しなさい。彼らには勇気がある。事実、こうして棒を持って鍬を持っている君たちに立ち向かったではないか。彼らは生きる術を知らないだけなのじゃよ。これから教えてあげなさい」


「く・・・でもこいつらはおれらのメシを・・・」


それでも納得がいかない若い店主が声を上げるが御一行はさえぎるように声を出した。


「コノ児たちを見捨てたのは誰じゃった? 君たちはコノ児たちに何をした?」


「あ・・・」


何かに気付いたのか若店主は口を開いたまま何も言わなくなった。


しばらく沈黙が場を支配し、ようやく店主が小さく声を上げる。


「・・・分かった。俺たちの責任でもあるんだな・・・。俺らもケジメってモノをつけなきゃな」


店主が四作に近寄り提案をしてきた。


「おい四作! お前の盗みの事実が消えることは永遠にねえ! そこは覚えておけ! だがな・・・俺はお前を雇う。盗みの分の金子は無しだぞ? それまではただ働きだ。それでもいいっていうならウチにこい・・・メシは食わせてやる。」


四作は店主に顔近づけて期待した顔で問いかける。


「ほ、ほんとか!? メシを食わせてくれるのか!?」


「ああ。お前にやる気があるならな」


「やる! やらせてくれ! いや、やらせてください! 御願いします!」


「・・・ヨサクおにいちゃん・・・」


子どもたちが心配している。ひょっとして自分たちは捨てられるのではないかという不安になっているのだ。


「安心しろ! お前らガキども俺たちが雇ってやらあ! その代わり盗みの分はタダ働きだけどな!」


子どもたちの表情が徐々に笑顔になり、最終的には皆喜びはしゃいでいた。


「やったあ! もうオラは地面に寝なくてすむぞ!」


「もう寒い思いしなくいいんだ!」


「アタシ"そろばん"やってみたい!」


皆が思い思いに口にしてこれからの未来に希望を抱いている。


皆の心が一つになった瞬間であった。


「うむ。大変良きことかな」


御一行は満足げに呟いた。

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