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正妃

桂は、宮へと戻った。

臣下達はこれで王が元通りになられると、皆万歳三唱でもするかのように喜び、蒼の穏やかな様子に安堵した。

正式に妃に迎えるため、泰に結納の品を持って行き、蒼は遅ればせながら、手順を踏んで桂を妃として遇した。

蒼には、別に華鈴という妃が居た。

これは鳥の宮の陥落の際、将維が命を助けて連れ戻った前世の炎嘉の最後の皇女で、将維が娶れないため、処刑されるところを蒼が娶って助けた妃だった。

今は蒼の妃という身分ではあるが、敵対した宮の皇女である華鈴は、正妃にすることは神の世では認められていなかった。

そのため、前の正妃である瑤姫が正妃を降りて里へと帰った後も、蒼には正妃は居なかったのだ。

神の世で、正妃と妃では大きな差があった。

それは、維心に教わって蒼も知ったことであったが、正妃とは王が選んだ正式な妃、つまり、妻であるが、妃は、人の世で言う愛人のような立場であり、正妃とは扱い自体が全く違った。

それを知らなかった母の維月も十六夜も、長く維心に正妃にすることを許さなかったし、考えもしなかったが、それが許された時の維心の喜び様は並ではなかった。なぜにそれほどに喜ぶのかといろいろに聞いて、皆それを知るに至ったのであった。

つまり、蒼は、華鈴が居るにも関わらず、神の世では独身扱いだったのだ。

あっちこっちの宮から引きも切らず縁談が来るのも、実は道理であったのだ。

現在、蒼には華鈴と桂の二人の妃が居るにも関わらず、今もそれは変わらなかった。泰も、宮の格の違いから、桂を正妃にとは言い出せず、妃として月の宮へ入ることを許していた。

今や月の宮は、龍の宮と並ぶ大きさを持つ宮として、最高ランクであったのだ。

「桂を正妃にしようと思う。」

宮の会合で、蒼が言った。そこに居並ぶ臣下達と、そして軍神代表の李関と信明、それに人の頃から友である学校長の裕馬が一斉に蒼を見た。皆が顔を見合わせる中、重臣筆頭の翔馬が口を開いた。

「王。人の世からこちらへ来た直後でありましたなら、我も大変に祝福したことでありましょう。しかし、只今は神の世を学んだ身。残念ながら、手放しで賛成することは出来ませぬ。」

裕馬も頷いた。

「オレは政務関係には口出ししない主義なんだが、こればっかりはいいとは言えないな。知ってるだけに…今の月の宮は、格が上がり過ぎたんだよ。それに、前の正妃が龍王の妹だっただろう。だから、次の正妃もそれぐらいの格でなきゃ、誰も納得しないんだよ。」

蒼は視線を落とした。

「…わかってる。だが、オレの正妃なのに、オレが決めていけないなんて事があるのか?維心様は、母さんを身分がどうのと言わずに妃にしたじゃないか。あの頃は月の位置なんてまだなかったのに。」

李関が言った。

「王、それは龍王は、あのお歳までただの一人も妃を娶らずにいらしたため、臣下達が誰でも良いという気持ちになっておったからでございます。それに維心様は、そうと決められたら絶対に譲られない激しいご気性で、反対でもしようものならたちどころに斬られてしまっていた。正妃にされた時には、既に月の力は広く認知されており、龍王の正妃としてふさわしいと誰もが思ったため。ゆえ、あのようになっておるのでありまする。」

翔馬が言った。

「王、妃としてお傍に置かれて、それで良いではありませぬか。絶対に正妃を娶らねばならぬ訳ではないのです。正妃不在で、妃だけ置いておる王もたくさんいらっしゃる。桂様の父上の、泰様もそうでありまする。慶様亡きあと、もう一人の妃もそのままに、正妃は不在のままでいらっしゃいます。皇女とはいえ、身分が違い過ぎるのです。正妃は、お諦めくださいませ。」

蒼はため息を付いた。

反対されるのは分かっていた。最初、ここの宮が出来た時、自分は王とは言っても、そんなに高い身分ではなかった。世間にそう認識されるようになったのは、月の宮の人数が増え、軍が大きくなり、そして領地の安定した統治を認められたからに他ならない。

困っている者を保護し、教育し、生きて行けるように力添えをして、安定されるように努力して来ただけで、格がどうのと考えた訳ではなかった。

しかし、いつの間にか、月の宮は大きな力を持ち、権限を持ち、ここまで来てしまったのだ。

こんな不自由なことは、望んだことではなかった…。

蒼はそう思ったが、臣下達の考えはもっともだった。神の世の理に沿って行くように教えているこの宮で、王がそれに逆らうことがあってはいけないというのが、恐らく皆の考えなのだろう。

蒼は、顔を上げた。

「…わかった。とにかくは諦める。だが、何か方法はないか、皆で考えてくれないか。」

翔馬は、裕馬と顔を見合わせた。裕馬が言った。

「なあ、蒼。無理に正妃にしたら、どうなるか分かるか?」

蒼は、裕馬を見た。

「どうなる?…いや、考えたこともなかった。」

裕馬は頷いた。

「だろうな。あのな、オレは教えてるから、神の世をそれは深く調べて教師達と学んでるから知ってるんだ。人の世から来た神には、こう振り分けて教えてる。世には、龍の宮をSランク、次がAランクとEランクまで振り分けてって、一番少ないのはどこだと思う?」

蒼は眉を寄せた。

「それは、Sランクだろう。」

裕馬は頷いた。

「その通りだ。今あるSランクは、龍の宮を筆頭に、月の宮、鷹の宮、白虎の宮。鳥の宮と虎の宮が無くなったから、今あるのはこの四つだけだ。」

蒼は目を丸くした。

「…しかし、会合にはもっとたくさんメインテーブルに座ってるがな。」

翔馬が割り込んだ。

「それは、Aランクの神も座っておるからでありまする。Aランクの宮は僅か七つ。Bランクが10。Cランクが32。Dランクが50。その他の、何百という宮は全てEランクとなるのです。残念ながら、泰様の宮はこのEランクに入りまする。もちろんこの中でもランク分けがございまして、泰様の宮は上位のほうでありまするが、それでも大きなくくりから見るとEランク。とてもSランクの神と正式に縁付けることは出来ないのでありまする。本来、妃であっても充分に恵まれている位置であると言われ、正妃になど有りえないのでございます。命に関わる婚姻に、桂様についておった乳母達が反対をしなかったのも、そこのところがあったからではないかと推察されまする。あちらからは、大変な玉の輿でありまするので。」

裕馬が頷いて、続けた。

「そこの所が分かったところで、蒼、それでも、Sランクの神がEランクの神を正妃にしたら、どうなると思う?」

蒼は顔をしかめた。

「…それは、別にどうなるとか…正妃にしてしまえば、それで終わりなんじゃないか?それまで反対されるだけで。」

裕馬は頭を振った。

「違う。間をすっ飛ばしてるのを忘れてるんだよ。EランクまでにまだAランクも、BランクもCランクもDランクもあるだろうが。そこの神達が、年頃の娘を抱えていたら、どう思う?」

蒼はハッとした。

「…自分の娘も、Sランクの宮の妃になれると考える?」

「そうだ。」裕馬は満足げに頷いた。「王達は皆、娘の嫁ぎ先に悩んでる。いいところへ行かせたいと願うが、Sランクなんて少ないし、特に鳥の宮がなくなった今、嫁げる宮なんてSランクは全滅状態だ。龍王維心様は絶対に妃を娶られないし、鷹王箔炎様は女嫌い、白虎王志心様は興味なし。月の王蒼は龍王の妹を正妃にしていたような王。皆仕方なく、一応一番可能性のありそうな蒼に打診してみてから、駄目だったらAランクや、己と同じレベルの宮の、王族か、それが駄目なら筆頭や次席の軍神へと嫁がせているような状態なんだ。そこにお前が、Eランクの宮の皇女を正妃になんてしたとなれば、ならばうちの宮はそこより格上なのだから、妃ぐらいにはなれると思って、縁談が一挙に来るぞ。宮の立場もあるから、こちらは断れない。Eランクの正妃が居る限り、それより上位の神の皇女達を拒むことが出来なくなるんだ。」

蒼は息を飲んだ。まさか、そんなことになるなんて…考えてもみなかった。

裕馬は、苦笑した。

「お前って王やってて、学校に通った訳じゃないもんな。だから、所々そういう知識が欠けてるんだよ。分からないことはオレに聞け。オレは今、それで飯食ってる訳なんだからよ。」

蒼は頷いた。本当に知らなかった。ただ…維心様が結構自分の我を通しているから、そんなものかと思っていた。だが、違うのだ。あれはあの力と権力があるからこそ出来ることで、同じSランクの神とはいえ、自分が上手くやれるはずはなかった。

「そうか…どうあっても無理なんだな。」

裕馬は頷いた。

「そう。正妃には出来るが、したら後が大変だということだ。前世の炎嘉様みたいになるぞ?気が付いたら妃が21人の。」

蒼は身震いした。名前も間違えると言っていた…オレにはそんなことは無理だ。

李関が眉を寄せていたが、傍の裕馬にそっと聞いた。

「裕馬、ランクとは何ぞ?」

李関と裕馬もまた長年の友なのだ。裕馬はまた苦笑した。

「格だよ。そうか、お前は生まれながらの神だから分からないよな。人に分かるように説明するために、オレ達が神の世の格付けを、アルファベットで並べ変えて説明しやすくしてるんだ。お前達は当然のように知ってることも、オレ達には理解し難かったりするんでな。涼だって教師なんだから、聞いてみな。」

李関は頷いた。

「人に説明するのは難しいよの。何しろ、言葉が違うゆえ。」

裕馬はもっともらしく頷いた。

「同じ日本語なのにな。」

「英語のほうがまだ理解出来るの。」

李関は言う。裕馬は冗談かと思ったが、どうやら大真面目なようだ。そういえば涼が、英語で話さなきゃ通じなくなる時があるって言ってたっけ…。

そんな裕馬達を横目に見ながら、蒼はまたため息を付いた。

「では、この話は無かったことにする。」

オレは、神の世に生きている。その理なんだから、仕方がない…。

翔馬がぼそっと呟いた。

「…ほんに良かったこと。龍王様のようにどうしてもと押されたらどうしようかと…何しろ、Dランクの神まで全て会わせると、その皇女の数たるや172。いくつは断れたとしても、いったい何人の妃になっていたことやら…。」

蒼は仰天した。

やっぱり神の世は怖いと思った。

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