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発覚

明人は、宴の席で皆と話していて、ふと顔を上げた時、窓の外の庭を、雛が顔を隠してよろよろと歩いて行くのが見えた。放って置こうかと思ったが、どうにも世慣れない雛のことが気になって、小さく舌打ちしてその姿を探して庭へと出た。

暗い中、気を読んで雛を探すと、庭の小さな池の前に、雛は居た。明人はため息を付いて、話し掛けた。

「雛殿?どうしたのだ。このような時間に、庭をうろつくなど。部屋へ戻った方が良い。」

雛は、明人の声に振り返った。明人は驚いた…雛は、震えながら涙を流していたのだ。

「どうした?何かあったのか。」

雛は頷いた。

「我は…将維様と茶会で庭を歩いてお話しして、とてもお優しく、気遣って下さるかたであると、お慕いしておりました。なので、明日帰ってしまわれる前にと思うて、想いを打ち明けたのでございまする。」

明人は察して、気の毒そうな顔になった。将維様とは…嘉韻もそうだが、とても簡単には受け入れては下されぬ。何しろ、龍王の息子の中で、一番龍王に近いと言われておられるかたであるのに。

「将維様は、責務のことばかり考えていられる。なので、そのような浮いたことにはご興味がないのであろう。」

雛は首を振った。

「いいえ。将維様が想っていらっしゃるのは、維月様でいらっしゃいまする。我は、将維様が我と離れた後も、さらにお話ししようと後を追ったのでありまする。そこで…維月様と親しくお過ごしであるのを、見てしもうた。」

明人は仰天した。確かに、あのお二人は、月の命の関係で、血が繋がらないと聞いてはいる。だが、龍王にそんなことが知れたら…きっと、ただでは済まないのではないか。

「それは…雛殿、恐らく気のせいあろう。そんなことを吹聴して回って、龍王の勘気を被ったら大変であるぞ。さあ、もう部屋へ戻るのだ。」

雛は、明人に向き直った。

「でも!あれは気のせいなどではありませぬ!」

明人は表情を険しくした。

「雛殿!」雛はその厳しい声に、ビクッと身を縮めた。明人は表情を緩めた。「もう、戻るのだ。そのような事は忘れる方が良い。将維様は龍の宮の第一皇子。簡単には妃を迎えられることはない。それから、嘉韻であるが、あれも我ら友であるから知っておるが、女嫌いでの。滅多なことでは振り向かぬのだ。二人のことは諦めよ。話しが出来ただけでも、大したことであるのだぞ。宮の女達が、どれほどに羨ましがっておったか。良い思い出にすれば良い。」

雛は、仕方なく言われるままに宮へと戻って行った。明人はそれを見送りながら、困ったものだと思っていた…ただ、王にはご報告しておく方が良いな…。


宴の席に戻った明人は、蒼に話し掛けられた。

「明人、どうした?険しい顔をしておるの。」

明人はハッとして蒼を見た。

「王。いえ、別段変わったことはないのでありまするが…」と、回りを見た。「少しお話できまするでしょうか。」

蒼は驚いた顔をしたが、回りには、それを聞いていた者はいない。蒼は頷いて、立ち上がった。

「明人、こちらへ。」

蒼は皆に聞こえるように言って、歩き出した。明人が申し出たのではなく、蒼が命じたように、回りには見えただろう。明人は王の機転に感心しながらも、それに付いて、王の居間へと入って行った。


蒼は、いつもの席に座って、明人を見た。

「ま、そろそろ戻りたいと思っておったところ。ちょうどよかったわ。」

明人は蒼に頭を下げた。

「はい。気になることがございまして。」明人は、また回りを見た。ここには誰も居ないはずだ。侍女も、呼ばねば来ない。「先程庭で、雛殿を見て、ただ事ではない様子でありましたので、訳を聞いておりました。王、雛殿は、自ら将維様に妃になりたいと申し出た様子でありまする。」

蒼は片眉を上げた。

「…確かに、雛ならやるやもしれぬの。で、なんと申していた。」

聞かなくともわかっていると言った様子だ。明人は言った。

「すげなく断られたと申しておりました。どうも、なぜにそう思ったのかは分かりませぬが、雛殿には将維様がお受けになるという思いがあったようでございます。」

蒼は顔をしかめた。確かに、将維のあの日の様子では、もしかしてと思うかもしれない。でも、あれは将維の演技だった。あくまで、夜母さんと過ごしたいがため、やったこと。いい思い出をと思ったのが、裏目に出てしまったのか。

「…将維も、社交辞令で気を使っておった時があった。ゆえに、そう思うたのかしれぬの。」

明人は、それでもまだ言い足りないことがあるようだ。蒼は、明人が話し出すのを待った。

「王。」明人は、顔を上げた。「実は、さらに追い縋って話そうと、雛殿が将維殿を追って行った先の庭の奥に、維月様がおわしたと。」

蒼は眉を寄せた。まさか…。

明人は、そんな蒼に気付かず続けた。

「将維様が想うていらっしゃるのは、維月様だと申すのです。何でも、親しく過ごしているのを見たと言って。我は気のせいだろうと言って、部屋へと返したのですが…一応、王のお耳にも、入れておいた方が良いかと思いまして。」

蒼は、やっぱり、とため息を付いた。将維は、こと維月のことに関しては我慢がきかない。維心が居る時ならば自重しているが、こうしてここで、監視の目も緩いのを見て取ると、二人きりになるのを待って、そうやって維月に近付いては共に過ごそうとする。今日も、恐らく維月が庭へ出たのを感じて宴の席を出て追ったのであろう。しかし、思いも掛けず雛が追って来て、それを追い返したつもりが、見られていたのだ。

蒼は困った。維心の手前、どうしたものか。いくら許していると言っても、公に許している訳ではない。こんなことが、神世にスクープされてしまったら、立場がなくなってしまう。幸い、明人はわきまえていて、きちんと処理してくれてはいるが、女の口に戸は建てられない…。

「…困ったものよ。」蒼は言った。「主が思っている通り、それは事実よ。しかし、それを維心様が許しておるのもまた事実。ま、維心様が良いと言った時だけであるから、今度のことは将維の独断であるがな。だが、こんなことが他の神に知れることは、本意ではない。明人、雛の様子をまた密かに調べて置いてくれぬか。我も桂からそのような事を聞いたら、そんなはずはないと一笑に附すつもりであるが。」

明人は、驚きながらも頭を下げた。

「は!」

蒼は、頭を抱えた。

「ほんに面倒を起こしてくれるものよ…穏やかである時など、ないではないか。」

明人はそんな王の様子を気の毒に思いながら、そこを辞して出て行った。


そのことは、もちろんのこと将維にも伝えられた。維月と共に庭から帰ってすぐ、十六夜と共に待ち構えていて、蒼は言った。

「将維。気を付けなきゃダメだろうが。雛に見られたぞ。」

維月が口を押えた。将維は眉を寄せる。

「…まだ追って来ておったのか。」

蒼は頷いた。

「明人が知らせて来たのだ。戻って来た雛をなだめて、訳を聞いたらすんなりと喋ったらしい。明人が機転を利かせてくれたからそれ以上のことはなかったが、この先は分からない。神世にこんなことが知れ渡ったら、維心様のお立ち場もある。困った事になるぞ。」

十六夜がため息を付いた。

「やっぱオレが一緒に行けばよかったな。維月が一人で行って来るとか言うから、待ってたんだがよ。将維、お前はもっと我慢強いだろうが。ここで気が大きくなるは分かるが、これからはオレが維月を管理する。もうそうそうこんなことは出来ねぇぞ。」

将維は横を向いた。

「…ただ、一緒に居っただけぞ。体を繋いだ訳ではない。であるのに、そうなるのか。」

蒼はため息を付いた。

「わかってるだろう?そういう世だ。とにかく、しばらくはここへ来ても母さんとは離れてるんだ。仕方がない…見られたんだから、それを揉み消さねばな。」

将維は渋々頷いた。維月は気遣わしげに言った。

「維心様がなんとおっしゃるか…雛殿が皆に言って回る事が無ければ良いのだけれど…。」

そこへ、侍女が入って来て頭を下げた。皆は慌てて黙って、そちらを見た。

「王、龍王様より先触れが参りました。明日朝、こちらへお越しになられるとのこと。」

蒼は驚いた。明日、将維が維月と軍神達を連れて帰ることになっているのに…なぜにわざわざここへ?

「迎えに来るつもりなのか?」

蒼は誰にともなく言った。十六夜は首を振った。

「いや、帰るのがわかってるのに迎えにゃ来ないさ。あいつが動く時は、大概維月が絡んでるんだ。」

皆は顔を見合わせた。嫌な予感がする…しかし、このことが知れたとは思わない。早過ぎるからだ。

蒼は侍女に言った。

「お待ちしておりますと伝えよ。」

侍女は頭を下げて出て行った。


一方、雛は、桂の部屋を訪れていた。明人にああ言われたものの、どうしても納得出来なかったのだ。

桂は話を聞いて、深くひとつ、ため息を付いた。

「雛…我は申したはず。己から申すのは…」

雛は分かっているとばかりに姉に言った。

「お姉様のお考えは聞いておりましたけれど、将維様は明日には帰ってしまわれるからと…、」

桂は小さく手を上げた。それを見て、雛は黙った。桂は言った。

「嗜みのない女は、王の妃になどなれませぬ。雛、考えてもみなさい。将維様はあの龍の宮の皇子。あなたのそのような言葉を聞いて、どれほどに呆れられたことか。その程度のことで済んでよかったのですよ。無礼を働いたと言われても、仕方がないことであるのに。」

雛は反論しようとして、やめた。姉の言うことは、もっともだったからだ。姉は、里の宮でも嗜みが深く美しい皇女と言われ、誰もが褒めそやした。自分とは姉妹であるにも関わらず、姉の美しさと気品は、誰よりもぬきんでていて、雛は全く敵わなかった。姉は体が弱かったこともあって、外へ出て来ることもついぞなかったが、それでもたまに出て来ようものなら、皆がその姿を見たさに宮へ上がったものだった。

そんな姉は、死しても尚、今も父が正妃の座に名を残している慶の娘であるのだ。

「…お姉様は…それほどにお美しくて、思慮深いかたであるから。」

桂は首を振った。

「違うのよ。雛、仕草や考え方が己の身を作ると思いなさい。そうすれば、気も美しく品良くなって、あなたのそのお母様譲りの華やかな美しさであるなら、黙っておっても殿方から乞われると我は思うわ。我らは人でも、一般の神でもないのよ。己の気持ちを語らねばならぬ時もあるわ。でも、普段はもっと嗜み深く。あなたはまだ成人して間もないから…お父様からも、あなたを教育して欲しいとお話しが来ておったのだけれど、当のあなたがそのように我の言いつけを守らないようでは、我には自信がないわ。」

雛は下を向いた。お姉様のようになれと言われても…我には無理なのではないのかしら…。

「お姉様…明人様は気のせいとおっしゃっておりましたが、絶対に将維様は維月様を…」

桂は、まるで嫌なものでも見たように、袖口で口元を押さえて横を向いた。

「なんとしたこと。そのように下卑たことを言うものではありませぬ。もしもそれが真実だとしても、己の胸に収めて参るのが王族の女というもの。それに、あなたがそれを吹聴して回っておって、龍王に知れたらあなたが斬られてしまうかもしれないのよ。そのようなことも、宮では教わらなかったのですか。」

雛は、言葉に詰まった。確かにそう…。私は、なんてことを明人様に話してしまったのかしら。

姉は、力が抜けたように立ち上がった。

「我はもう休みまする。あなたも、もっと考えなさい。そのままであったなら、我は姉として大変に恥ずかしいわ。蒼様がお知りになられたらどれほどに呆れられるものか…努力をしないなら、お父様に申し上げて宮へ帰って貰いまする。」

雛は涙ぐんで姉を見た。桂もとても疲れたようで、ふらふらと奥の間へと歩いて行く。

雛は、失恋の痛手を癒そうと思っていたにも関わらず、余計に自己嫌悪にまで陥って、自分の部屋へ帰って行った。

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