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嵐の夜

ここ数年の、軍の発達は目覚ましい。

筆頭の李関、次席の信明共に良い感じに成熟し、気はここに来てから最高のレベルにまで到達していた。

明人と嘉韻、慎吾もそれぞれに目覚ましく成長し、成人まで程遠いにも拘らず、気の充実は凄まじかった。

軍がレベルを上げるに連れて、段々に宮もピリピリとしたムードもなくなり、穏やかさは更に磨きが掛かって、皆幸福だった。

そんな様子が、十六夜にも余裕を生み、よく龍の宮にも出掛けるようになった。

そのせいか蒼も、最近は一人で出掛ける事が多かった。十六夜はさして気にしてはいなかったが、どうも数年前から一人で出掛けるようになっていたようだった。

これまで、蒼は宮の構築に一生懸命で、遊ぶことも無かったので、それはそれでいいと十六夜は思っていた。蒼も、一人になりたい時ぐらいはあるだろう。

相変わらず妃は、勧められて迎えた華鈴だけだったが、その華鈴との間に、雪華(せつか)という娘が居た。そして雪華から遅れること11年、去年また娘が生まれた。名は、華那(かな)といった。

華那の誕生は蒼も驚いたようだったが、それでもとても可愛がって、幸せに生活していた。

そんなある日、維月が月の宮へ帰って来ていた夜、珍しく雨が激しく降り、宮にも久しぶりの嵐が吹きすさんだ。十六夜は、そんな空を見上げて言った。

「維心じゃねぇか?お前がここに来てるから、荒れてるんだろう。」

維月は首を振った。

「違うと思うわ。これは自然現象よ。維心様がそこまで荒れてらしたら、その前にここへ来られるはずだもの。」

十六夜は、真剣な顔で空を見上げた。

「…いや、自然現象じゃねぇ。何かがこうしてるんだ。オレ達に近い力だぞ。」

維月は眉を寄せた。

「碧黎様かしら?」

十六夜は首を傾げた。

「わからねぇ。だが、何かが暴走してるように感じる…なんだ?」

途端に、宮の中が騒がしくなった。十六夜と維月は、それを感じて顔を見合わせた。

「何だ?」

二人がそちらへ行こうと足を踏み出した時、部屋の戸が大きく開かれて、雨に濡れて全身びっしょりになった甲冑姿の李関が飛び込んで来た。

「十六夜殿!王が…明人が連れて帰って参ったのですが!」

維月は口を押えた。十六夜は、皆まで聞かず、維月と共に宮の出入り口に走った。


「十六夜!」

明人が、また甲冑姿で全身びしょ濡れになって、蒼を抱えていた。回りには宮の治癒の龍や、臣下達がおろおろと取り巻いている。蒼は明人と同じように雨に濡れたまま、腕には布にくるまれた何かを大事そうに抱えて気を失っていた。

「ああ蒼!蒼…しっかりして!」

維月が慌てて駆け寄る。

「何があった?!」と、遠巻きに見ている侍女達を振り返った。「とにかく着替えだ!蒼を部屋へ運べ!」

「十六夜!」

維月が驚いて叫んだ。十六夜は、何事かと蒼を見る。維月の視線の先は、蒼が抱き締めていた布を見ていた…それは、蒼の腕の中で、もぞもぞと動いていた。

「何を抱いてる?」

十六夜が近寄ってその包みを蒼の腕から取ると、布が肌蹴て落ちた。

「まあ…!」

維月が声を上げる。

それは、まだ生まれたばかりであるだろう赤ん坊だった…そしてその気には、月の気がほんのりとした。

十六夜はただ茫然と、その赤子を抱いて立ちすくんだ。


蒼は、奥の間へ運ばれて着替えさせられ、寝台へ寝かされた。

どうも、力を使い過ぎで気を失っているようだった。今はすごい勢いで気が補充されて行く…。明人が、まだ濡れた甲冑のまま、じっとそれを見つめていた。維月が声を掛けた。

「明人、着替えていらっしゃい。蒼はもう大丈夫よ。気を失っていただけだし、すぐに補充も終わるわ。」

明人は、ためらいがちに頷いた。十六夜が言った。

「そうだ、着替えて来い。お前が知ってることは全部話してくれ。あの赤ん坊だって、いったいなんで蒼が抱いてたのか、教えてもらわなきゃならねぇしよ。」

明人は、十六夜が見ている先を見た。そこには、侍女に抱かれた女の赤ん坊が、気の補充の代わりにミルクを与えられて飲んでいる。明人は、思い切ったように言った。

「…あれは、和奏(わかな)様だ。」明人は、十六夜を見て言った。「王のお子です。」

傍に居た、臣下の翔馬が仰天した顔をした。維月も口を袖で押さえて黙り、十六夜だけが口を開いた。

「だろうな。オレ達の気がするからな。命が繋がってるのは分かる。」十六夜は、和奏と呼ばれたその赤ん坊を見た。「詳しく聞きたい。とにかく、着替えて来い。」

明人は頷いて、踵を返して出て行った。翔馬が、慌てて歩き出した。

「…皇女とあっては、乳母を決めねば。お部屋はどうしたものか。」

そそくさと出て行く翔馬と見送ってから、維月は十六夜を見た。

「十六夜…。」

十六夜は、肩を竦めた。

「ま、蒼だって男だからよ。こんなことがあってもおかしくはねぇ。問題は、なんで妃として宮へ迎えなかったのかって事だ。その女はどうしてるんだ。和奏は生まれたてじゃねぇか。湯気が出てるほどでぇ。」

維月は苦笑した。

「言いたいことは分かるわ。とにかく、蒼はこんな状態で話は聞けないから、明人から詳しいことは聞きましょう。」と、横たわる蒼を見た。「それにしても…蒼がこんな事を起こすなんて、思いもしなかったわ…。」

十六夜は、維月の肩を抱いて歩き出しながら言った。

「だから蒼も男なんだって。オレにこんなことがあったら、お前は出て行っちまうしそれはねぇけどさ。」

維月は歩きながら言った。

「何それ?維心様も同じことを言うのよ。だったら、私が怒らなかったらするってこと?」

十六夜は慌てて否定した。

「ないない!維心はともかく、オレはない!」

「我もないわ!」急に聞き慣れた声が言った。「主、我の居らぬ所で何を維月に吹き込んでおる!もうそういうことは止めよ!」

維月と十六夜はびっくりして維心を見た。

「維心様?!このように夜更けて、わざわざいらしたのですか?」

維月が言うのに、維心は頷いた。

「この雨は我が命じても降り止まぬ厄介なもの。調べてみたら蒼が降らせておるようだったので、事の次第を聞きに急ぎ参ったらこの騒ぎぞ。しかし、今はとても聞ける状況ではないようだの。」

十六夜は頷いて、今出て来た部屋の方を伺った。

「気を暴走させたんだろう。だから気を失ったんでぇ。もう今は落ち着いてるし、雨もやむだろう。」

維心は頷いた。

「…それで、どうしてこのようになったのか、わかったのか。」

十六夜は、また歩き出しながら言った。

「軍神の一人が、蒼を連れて帰って来たんだ。どうも事情を知ってるようだったから、今から話しを聞こうと思ってる。お前も聞くか?」

維心は頷いた。

「そうよの。我もここへしばらく滞在するゆえ、聞かせてもらっておこうぞ。」

十六夜は呆れたように言った。

「なんでぇ。結局維月に会いに来たんじゃねぇか。別に雨なんてどっちでもよかったんじゃねぇのか。」

維心は不機嫌に眉を寄せて十六夜を見た。

「あのな十六夜。妃に会いたいと思うて何が悪いのよ。我のたった一人の妃であるのに。」

十六夜も不機嫌に言った。

「オレにだってたった一人だ。普段から連れてってる癖に、すぐに追っかけてきやがってよ。」

維心は心外な、という顔をした。

「何を言う。今回は一週間も我慢したではないか。維月が居らぬ宮にじっとおるのが、どれほどにつらいか主に分かるか?我には帰る月もないゆえな。」

十六夜は維心を睨んだ。

「嫌味な奴だな~。」と維月を見た。「見ろ、こいつはそのうちに、寂しいからとか言って、お前の居ない間に誰か連れ込むかもしれねぇぞ。」

「有り得ぬ!」維心が断固とした口調で言った。「我は維月を失いとうないゆえ、そんな愚かなことはせぬ!ゆえにここへ来るのだからの!」

二人の言い合いに、維月はうんざりした。こんな時に…。

その言い合いは、十六夜と維月の部屋に着くまで続いたのだった。

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