エピローグ sideレンカ&サーシャ
目が覚めて最初に認識したのは、消毒液の特徴的な匂いだった……曖昧で蒙昧な記憶を掘り起こし、過去と現在の状況を確認する……
まず、ついさっきまで(おそらく)別の世界に行っていた。そしてヨグソトースさんにこちら側に送ってもらった。そして…………
「沙耶さん…………」
サーシャさん……いや、沙耶さんは今どこにいるのだろうか……? それと萌衣も
ベッドの横の机に手紙が置いてあったので、中身を確認する…………
源霞蓮様
前略、ニャルラトホテプは幻夢郷経由であなたを異世界に送っていたようなのですがその間のひと月以上を眠った状態にしておくわけにはいかなかったので少しだけ時間を巻き戻して送り返しておきました。妹さんは後程送ります。
ヨグソトース
そう、無駄に達筆な字で書かれていた。というかいつの間にか僕が婿養子に……
…………それはさておき、念のために日にちを確認すると、事故に遭った日から3日間程しか経っていなかった……3日間起きなかったのでも正直少し長い気もするが、1ヶ月以上眠っていたという状況よりは良いだろう。
「そういえば、ナースコールで呼んだ方がいいのかな……?」
なんらかの小細工がない限り、事故で大怪我をして3日間眠り続けていた状態なのだ。しかも、直接報告しようにもどういう状態かをいまいち把握出来ていないので、動いても大丈夫なのか分からない。
そんな感じに悩んでいた時に部屋の扉がノックされ、ヨグソトースが入ってきた……もちろん、返事をした覚えはないが。
「…………聞きたいことはない? ………………沙耶の居場所も言えるけど……」
「……じゃあまず最初に……ここ数日、僕の周囲で何か起こってたら教えてください」
「……ちょっと待って………………確か、『今日』の昨日、あなたの妹が異世界を探しにシャ」
「ちょっと待って、萌衣の話はもういいから」
というか萌衣は何をやっているの……推薦取り消されても知らないぞ? ウチの学校、倍率結構高いし……
「あなたの両親は…………サルガッソの海域で深海探索をしてたハズ…………姑息な真似……サルガッソの海域で深海探索をしながら」
「サルガッソー海……? 確か昔、多くの船が沈んだ所だっけ……?」
「うん……そう…………最近では極北の某所でもネタにされてる」
「…………ふーん(無関心)」
「ちなみに、沙耶の居場所は」
「この流れでその話題ですか!? この適当な流れで言いますか!?」
僕は切り替えが早い方とはいえ、こんな流れじゃ満足できない。
「……じゃあワンクッションおいてから…………?」
「はい、そうしましょうか……」
とはいえ、いったい何の話をするのやら……
「…………まず……ニャルラトホテプがあなたで……それ以前に幻夢郷経由で異世界にいって遊んだ動機だけど…………」
……長かったから要約すると、好きな人に面向かって結婚しないと言われたから、という某迷探偵バーローでありそうな動機だった。死神メガネも睡眠探偵も月島さんもいないけど。
「……僕達にとっては良い迷惑な気がするんですけど……」
「…………大丈夫……あなたにとってニャルラトホテプは命の恩人だから……さり気なく……」
「…………僕にとっては、自分のせいで人が死にかけたから勝手にゲームを持ちかけて勝手に命かけられたんですけど……」
「…………神話で語られてる頃のニャルラトホテプからは成長したから……」
「……………………」
すぐ近くで見ていたヨグソトースさんが成長したというのなら、成長したのだろう。多分少しだけ……
「……じゃあ……改めて……」
「…………まれ……あ…………」
さすが病院……廊下の痴話喧嘩も漏れ聞こえてくる程度しか聞こえない……いや、聞こえてる時点で十分アレだけど。あと病院で騒ぐな
「よかれと思ってお見舞いに来ました!」
病院で騒いでいた2人組(多分そうだと思う)がノーノックで入ってきた……というか片方はニャルラトホテプだった。ちなみに一方は……多分男の人だ。多分……
「病院は静かにしろニャルラトホテプ……あ、はじめましてかな……? 僕はニャルラトホテプの……まあいいや、僕はクティーラの眷属兼……相方のア」
「ちょっと待って……なんでボクとの関係をごまかしたのかな……?」
「…………説明が難しいくらい複雑だからな……真ゲスと妹鮫位に」
「えっ……酷くない?」
「…………割と合ってる……」
「どんな関係ですか……?」
凄く置いていかれているんですけど……僕。クトゥルフ神話的に例えるなら、探求者ですらないただの一般人がニャルラトホテプとノーデンスの戦いに巻き込まれるようなものだ。……アナザーじゃ無くても死ぬ。
「友達以上、かな……? それも少し違うか」
「ちょっと待って下さい、意味が分からないんですけど……」
「まあ……分からないだろうな……今の僕達の会話は普通の人の理解をはるかに超えたところにあったからな……主にニャルラトホテプのせいで」
「いずれ分かるよ、いずれね……フフフ」
「あ、ニャルラトホテプ……ここに来た用事を忘れたのか?」
「…………デートだったかな?」
「お前をデッド状態にしてやろうか? 今の僕なら多分出来るからな? 一応少しだけ邪神だし」
そう言っているこの人……ア……アリトさん? の笑顔は実際黒かった。言い方をかえると、暗黒微笑だった。
「…………あ、思い出した! …………誰のお見舞いだったっけ?」
どこかに少し痛い程度ですむような飛び道具はないかな? 久々にイラッときたんだけど……
というかそれはア……アンクさん? も同じだったらしく……というか無言の手刀を放った。まあ、ヨグソトースさんが止めたけど
「……やめて……アバンス……」
「…………仕方ないから今回は許してやる……次はない」
「…………っふぅ……まあとにかく……ゴメンね、霞蓮君……ついかっとなってでしゅ……デスゲームに参加させちゃって……」
……噛んででしゅになったのにはツッコんじゃダメだ、ツッコんじゃダメだ、ツッコんじゃ……
「でも、君は単純だったよね~、ボクの言うことを全部信じちゃったんだからね~……事故って云々は割と本当の話だけど、他はほとんど口からの出任せだったからね~……まあ、君にはサーシャ……いや、沙耶がいるから問題ないかな……? きっと君を庇ってくれるよ」
「……え、ちょ、ニャルラトホテプさん、あなたふざけたこと言うのは……」
「やめて……霞蓮っちゃん…………!」
「なあ、なんで週刊誌で半年も持たなかった打ち切り漫画のネタ知ってるんだよ……」
「……えっ、何の話ですか? というかそもそもなんであなたは知ってるんですか?」
『半年も持たなかった』ということは多分単行本換算2、3冊で打ち切りのはずなのに、なんで具体的に知ってるのだろう……?
「分からないだろうな…………あれは今から5ヶ月前…………たまたま友達に借りて読んだから知ってた」
「あっはい……(察し)」
……一瞬、ニャルラトホテプさんが月獣の眼光をした気がしたんだけど、気のせいであってほしい。
「ちょっと喉が乾いたから飲み物を買ってくるよ」
凄くわざとらしい棒読みでそんな事を言いながら、ニャルラトホテプさんは病室を出て行った……何かを仕込まれる覚悟はしておいたほうが良さそうだ。
「いやぁー良かったよーウェディングドレス着て来て――自称”クティーラの花婿”のアバンス君が相方もなしにいるじゃないですか」
いつの間にかウェディングドレスに着替えたニャルラトホテプさんが、抱えた飲み物をベッドに放り投げ、速攻ア……アバンスさんの腕をとりながら言った。というかアバンスさん、クティーラ(誰? )の花婿だったんだ……クトゥルー関係の邪神かな? ……まあいいや、刹那で……じゃないけど忘れちゃったよ
(のうおぬし! ふざけたこと言うのは……)
脳内に直接声が響く……多分噂のクティーラさん(むしろちゃんかな? どう聞いても幼女の声にしか聞こえないし)だろう。
「おいニャルラトホテプ、ふざけたこと言ってんじゃ……」
(直接脳内に……?)
「(やめろ(やめて)……アバンス(クティーラ)ちゃん! ……(じゃろうが!)」
(……なんなんですか? 邪神の間で流行ってるんですか? それ……)
「なあニャルラトホテプ、知ってるか? ――――結婚前にウェディングドレスを着たら婚期逃すらしいぞ……?」
「ウグググッ…………婚期……ピンチ……うっ頭がッ……!」
自分の意思でウェディングドレスを着た結果、ニャルラトホテプさんはアバンスさんの心無い一言によって戦闘不能になった……ナムアミダブツ!
(む、そこにアバンスがおるのか……)
(あ、はい、居ますけど……何か伝えたい事でもありますか?)
(……いや、わらわが直接伝える…………口を借りるぞ)
(え? いったい何を……)
(なに、すぐ終わる)
凄く不安だったのだが、断ったら酷い目に遭いそうだったから渋々クティーラちゃんに任せた。というか委ねた
そして、時間にして数秒間、意識が朧気になっていた…………あれ?アバンスさん、顔真っ赤なんですけど……クティーラちゃん何言ったんですか?
「…………帰る」
「あ、ニャルラトホテプさんはどうしましょうか」
「起きるまでほっとけ……」
そう言い残して、アバンスさんは行ってしまった……いったいクティーラちゃんは何を言ったんだろうか?
「…………クティーラはすごく独占欲が強いから仕方がない……ましてや、ニャルラトホテプのやらかした事の後始末に、ついて行くのを許したのは凄く珍しいから……」
「アバンスさんも大変ですね……」
少しの間しか話をしていないけど、クティーラちゃんが厄介な性格だというのははっきりと分かった。……出来れば少し離れた位置にいたいタイプだ。
「あ、そういえば、サーシャさ……沙耶さんの居場所は」
「……沙耶の居場所……それは……」
アメリカ……マサチューセッツ州、アーカムのとある屋敷に私、源 沙耶はいた……とある人物に呼び出されたためだ。
……いや、厳密にはとある邪神に、だろうか……?
私を呼んだ主は私があのニャルラトホテプとのゲームに勝ち、ヨグソトースにより幻夢郷から戻ってきたと知るや否や、すぐさま連絡をよこしたのだ。急いでいるのだろうと思い、行きたい場所があるのだが、断腸の思いで後回しにしてすぐさま戻ってきた結果、予想よりも早く来てしまったため、ソファーに座って奴を待っている……まあ、奴はもう準備は終わっているのだろうが。
それにしても腹が立つ……私は一秒でも早くレンカ……いや、霞蓮に会いたいのだ……なのに奴はいつも通りなら日本のアニメを見つつ、日本の小説を読みつつ、日本のゲームをやっている……あからさまな駄目人間だ……というかモロにニートと呼ばれる人種だ。あんな奴のせいで霞蓮に会うのが遅れていると思うと非常に腹立たしい……
正直、書き置きを残して帰ろうかと思った時に、やっと奴はこちらの部屋に出てきた
「ごめんねー、日本のアニメがあまりにもおもしろかったからついつい夢中になっちゃってたよ」
まるで好奇心旺盛な子供のような声で、奴はそう言いながら部屋に入ってきた。
顔をほとんど覆い隠す仮面をしているため、本当に少年なのか少年の声をだしているだけなのかは分からない。……何故仮面を付けているのかを聞いたところ、『ボクは無貌だからね』との事だった。
……言葉が足りないため、あくまでも推測なのだが、おそらくアニメの影響である。案の定であるが。
「早くしろ、行かなくてはいけないところがある」
「まあまあ焦らないで、なにか良いことでもあったのかい?」
「黙れ」
「うわぁ大人気ないくらいに鬼おこだぁ……あんまり怒ってるとボクが紋章の力で感情を魔力に変換しちゃうよ?」
「……結果の報告は必要か?」
「いや、別にいいよ……『他ならぬボク自身』の事だからね……いや、『別のボク』かな……?」「そうか…………」
早くしろ早くしろ早くしろ早くしろ早くしろ早くしろ早くしろ早くしろ早くしろ早くしろ……! 遅い! 回りくどい! 鬱陶しい! 率直に言えばウザくて目障りだ! こいつの全てが!
「ああ、次の仕事だけど、すぐになるけどいいかな?(マジキチスマイル)」
「断る」
「冷たいなー……君の母さんなら無言で仕事にいってたのにさー? あくまでもアフターケアみたいな仕事だからきっと簡単だよ?」
「…………アフターケア?」
「そう、アフターケアだよ……」
「……話を聞こう」
ひょっとしたら……こいつの提案は……
「日本のニャルラトホテプに魅入られちゃった2人目の方の少年に会いに行ってほしいんだよ……あ、ついでに新しい邪神の観察も」
「念のため聞くが……」
「『桐野 霞蓮』君、だったかな……?」
「…………なあ、この任務が終わったら寿退社してもいいか?」
「別にいいよ、今すぐでも」
「いや、私は最後までやり遂げる……」
待っていろレンカ……私を……満足させてくれ…………
「一応資料は…………珍しいね……君がそんな風ににやけるなんて……」
「……はっ!」
にやけていた……? 私が? ……責任をとってもらうしかないか……?
「まあいいや、ようやく君にも母親に従う目的が見つかったんだね……」
「……!! どこまでしっている?」
「いや、大したことないよ、ボクの情報網なんて……人の愚痴を聞いてたらこの程度の情報なんてポロッと落としちゃうんだよ……ま、珍しいからつい覚えちゃったんだよ……まさか、夫を邪神に寝取られたからその邪神を探す、なんて……復讐でもするのかな?」
「……復讐のつもりはない」
「いや、ボクからしたら相手を探す理由なんて復讐以外に考えられないからね……で、本当の理由は?」
「…………母を捨てた理由を聞く……ただそれだけだ……」
「ふぅん…………やっぱり、上っ面でできてる言葉だけの愛なんて下らない……ねぇサーシャ、君もそう思うよね?」
「………………」
無言、どちらとも答えない……否、どちらとも答えられない……
「……サーシャ、リーダーとして言うんだけど、ボクとしては君を失うことが残念なんだよ……愛とやらのせいで君を失ってしまうことが、ね……」
「……私は覚悟を決めている……どんなことがあろうとも、そばであいつを守り続ける覚悟をな……」
「……上辺だけじゃない……真実の愛、か…………」
私の瞳に何をみたのか、奴は呟き、そして私にこう言った。
「……ねえサーシャ、ボクも日本に」
「クール便と速達のどちらか選ばせてやろう。日本の宅配便は便利だからな……おそらくは一週間もあればこちらに戻ってこれる」
「え、酷くない? 上司を宅配便で送り返すの?」
「そもそも、何故貴様が付いてくる必要があるのだ?」
「え? 現地に買い物しに行っちゃ駄目なの?」
「…………行くなら個人的に行け……私の邪魔をするな……」
いつもの事ながら一体何を言っているのだ、こいつは……個人的に行けとは言ったが、そんな事はこいつの秘書が許さないだろう。こいつが動くレベルの『何か』が日本に出れば話は別だが……まあ、そんな事が起こってしまえばこちらの業界は大混乱に陥りかねないので、要は日本に来るなという話だ。サボって遊びに来た場合も重鎮が行方不明になっているわけで程度は違えど混乱するのはほぼ確定的なのだが。
「まあいいや……あ、サーシャ、もうそろそろ空港に行った方がいいんじゃないかな? 席はとっておいたけど遅れちゃったら元も子もないからね」
時計を見れば、目の前の奴の言うとおり、今から空港まで急いでもギリギリの時間だった
「……ご忠告、ありがとうございます……『ニャルラトホテプ殿』」
「いやいや礼には及ばないよ……上司として当たり前の事だからね」
というかなぜにこのニャルラトホテプは人の側に付いているのだ……?
「……ああ、気が向いたらでいいけどお土産を送ってよ」
「気が向いたらな」
おそらく送らないが。面倒だからな……
東京から現地に移動するまでの間、私は奴から受け取った資料を読み込んでいた……
「…………あいつめ、平行でやらせるつもりか……しかも私が学生として潜入……」
もう色々と無茶しかないのだが、今更断ったところでもう遅い。とっくに私は日本に来てしまったのだ……諦めて任務を遂行するほかない。
……そんな事を考えているうちに、空港が近づいてきたようだ…………
待っていろレンカ……もうすぐ会える……
「…………ここか……」
私はレンカがいるという病院のある一室を訪れていた……ちなみに病院の場所と部屋の番号は資料に載っていた。……日本の情報管理、そしてセキュリティーは大丈夫なのだろうか? まあ、日本の情報に関するセキュリティーがザルなのではなく、むしろこちら側……財団W(命名者は言うまでもあるまい。アニメか何かの影響だろう。)の情報網が緻密すぎるからであろう。……そう考えたい。
……数瞬躊躇した後に、扉に対しノックをする……そして返事を待つ…………返事がない、就寝中のようだ……
「……よし、中で待つか……」
レンカもビックリするだろう、起きた直後に私が横にいたとしたら……
……まさか、私の方がビックリさせられるとは思っていなかった…………
「なななな、なんで……サーシャが……ボボボボクはわわわ悪いニャルラトホテプじゃななな」
……何故、日本のニャルラトホテプがレンカのベッドの中にいるのだ……! そこは私の特と……もとい、レンカの場所だぞ……!
「……レンカはどこだ?」
「さささ散歩にいきましたたたた」
「……そうか…………何故、私に怯える必要がある?」
「……うっかりレンカ王……いや、霞蓮君を」
「あの件か…………許してくださいと?」
「…………(無言の肯定)」
「…………断る」
「…………!?(無言の恐慌)」
「…………レンカはどこにいる?」
「おおお屋上に」
「そうか…………」
もうすぐだ……もうすぐ会える……レンカに……!
「…………良かれと思ってケーキを買ってこようかな……?」
ニャルラトホテプの言うとおり、レンカは屋上にいた……どこか遠くを見つめていた……
「………………」
私が屋上に来たのにも気付かない様子で、遠くを見つめている……どこかにいる誰かに思いを馳せているのだろうか……? そのどこかの誰かはここにいる私なのだろうが。
……ふと、レンカにイタズラしたくなってきた……あまり広くはない屋上で、私に気付かないのだ……私の事を考えているにしても気付かないのは鈍すぎる……
……後ろからゆっくり近づいて脅かしてやろうか……
「……………………」
すぐ後ろ……射程圏内まで近付いたのに気付かないとは……まあいい、あとで存分に可愛がってやるとしよう……レンカと密着するまであと二歩半、一気に決める……
「………………!?」
私に抱きしめられてやっと気付くとは……あとでシメて看病……いや落ち着け私……どこに彼氏をシメる女がいるのだ……落ち着け……!
「な……なんでサーシャさんがもう……?」
「分からないだろうな…………原点まで遡れば、あれは今から」
「そういう説明はいいですから! なんでもうここにいるんですか!? アメリカにいたんじゃないですか……!」
「誰に聞いたかは分からないが、それなら知っているだろう? 私がアメリカにいた理由を……」
「対邪神の組織にいるからですよね? 確か名前は……」
「ウィルマーズファウンデーション……アメリカを拠点として世界中で邪神の調査、及び邪神の退治等を行っている組織だ……」
「……でも、なんで」
「……お前のアフターケアが次の仕事だ」
「…………え?」
厳密にはもう一つ仕事があったような気がしなくもないが、そんなものは刹那で忘れた。
どこかのお子様邪神に『やめろ! サーシャっちゃん』とツッコまれた気がしなくもなかったが、間違いなく気のせいだ。まさかあの1/7ニャルラトホテプでも、アメリカのマサチューセッツ州でアニメを見ながらこちらの様子を窺うということは、あいつならやりかねないが、おそらくやらないだろう。
「……ええっと……その……つまり」
「ああ……ずっと一緒だ……」
「そう……ですか……って……え? ずっとですか?」
「…………嫌か?」
「嫌じゃありませんよ! 嫌じゃありませんけど…………僕のカウンセリングが終わった後、仕事はどうなるんですか?」
「寿退社だ」
「………………そんな理由の退社が通る組織で大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ、ずっとウィルマーズファウンデーションを支えてきた奴がトップだからこれからもおそらく問題ない」
「……………………」
「こちら側ではマシな奴ほど弱いからな……常識が無い奴ほど邪神耐性が強いと言っても過言では…………」
レンカの目が少し冷たい……視線だけで『つまりサーシャさんには常識が足りていないから強いんですよね』と言っているようだ……
「…………まあ、少し抜けてるところも……その……素敵なんですけどね」
「レンカ…………」
「…………少し弱くしてくれませんか……? ちょっと痛いです……」
ついついレンカを抱きしめる力が強くなってしまったようだ……
「……でも……その…………サーシャさんと一緒にいられるから……このままでも……」
「レンカ…………!」
「……あの……ちょ……サーシャさん……! 強いです! 怪我が完全に治ってないので強くするのはやめ…………っ!」
少し気絶していたらしく、気が付いたら沙耶さんに抱き抱えられていた……
……し あ わ せ ……もとい、幸せです……
「すまんな、レンカ……あ、霞蓮か……」
「大丈夫ですよ、沙耶さん……元々言えば僕が頼んだことですから……」
久しぶりに会ったサーシャさんのハグは……実際強烈だった。骨折こそなさそうだけど、僕の体はボロボロだった……いまにも壊れてしまいそうだった。
「………………なあ……霞蓮…………不器用で……すまんな……」
「いえ、その……不器用なところも含めて沙耶さんですし、それに…………そういう所もその……素敵、です」
「………………………………霞蓮……」
気が付けば昼から夕方になっていた……
「……ずっとこうしていたいですね……」
「そう……だな…………だが……まあ、時間が許す限り、ずっといような、レンカ…………」
「……はい…………」
そう……ずっと一緒に……少し離れることはあっても、僕らの心はずっと繋がっている……きっと、これからずっと
一応これで完結に……エピローグ継ぎ足す可能性も無きにしも非ずです…