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第一話

勇者設定?…ああ、そんなのもありましたね(遠い目)

「……サーシャさん、僕が名ばかりの王様になったのっていつでしたっけ?」

「おおよそひと月前だな」

 なんだかんだで王になって1ヶ月……確認したいことがあり、サーシャに対して問いかける。

「…………僕が最後に仕事をしたのっていつでしたっけ?」

「それもおよそひと月前だ」

 そう、名ばかりの王様になって1ヶ月、ほぼ何もしていないのだ。したことと言えば、サーシャとの剣術の特訓(一方的に叩かれるのを特訓と言えるのならだが)ぐらいだ。

「もう1ついいですか? …………僕って体の良い議会の傀儡じゃないですか?」

 アブドゥルが独裁政治をやっていたせいで、僕が王様になるまで実質的に閉鎖状態だった議会は今議決ラッシュなのだ。具体的には新しく王様になった僕の処遇とか僕の処遇とか軍備とか

 そのせいで本来僕が承認するだけの仕事すら議会の中で完結しているらしい。そんな事をサーシャから聞いた。

「し、仕方があるまい……お前がそれでも良いと言ったのだ……それに」

「……それに?」

「軍の長とはいえ、所詮軍人の私の権力などたかが知れている……私の言葉など奴らは聞く耳を持たん」

「……大変なんですね……サーシャさんも……」

「お前の方が大変だろうに……ええっと」

「この前レンカにするって言ったじゃないですか、サーシャさん」

「ああ、レンカだったか……」

 元の名前を名乗っても良かったのだが、サーシャに『流石に他の国の名前を名乗るのは厄介なことになりかねん』と言わろたので、ハグ1回と引き換えにナルラに考えてもらった次第だ。名前考えるの苦手だし

 というか一応は勇者として送ったのに王様になってても「良かったわね」の一言で終わらせるのはどうなのだろうか?

 まあ、僕も半分忘れてたわけだけど。

「……そういえば、驚くほどに外で事件起こってませんよね? 僕に報告がこないだけかも知れませんけど」

「一応事件は起こってはいるが、お前に報告がいってないという認識であっているようだな」

「…………重大な事件は起こっていませんよね?」

「いくつかは重大な事件といってもいいかもしれないな」

「…………泣いてもいいですか?」

「安心しろ、解決していないものは1つしかない」

「あるじゃないですか」

 もうなんか涙が出てきた……いくらサーシャの推薦(ごり押しとも言う)で王様になったからってこの扱いはあんまりじゃ……

「一応旧近衛兵長、つまり今の軍の長の私には連絡が来ていたのだが……聞きたいのか?」

「ああはい一応……」

「話せば長くなりそうだが……」


 長めだったので要約すると、少し離れた森で行商人が巨大で毛むくじゃらの何かに襲われたらしい。幸い、行商人にほとんど怪我はなかったものの、荷物のほとんどが喰われたらしい。「なるほど……僕に報告しなかったのは議会から圧力をかけられていたからですか?」

「いや、てっきり私の部下の誰かがお前に教えたかと思っていた」

「そんなハズないじゃないですか……僕とあの人たちが話せるのは基本的に特訓の時だけですし、そもそもその時だってほとんど話しかけてきませんよ?」

「私が睨んでいるからな……安心しろ、鍛錬の最中でなければお前と会う事を許可している。もっとも、私がいる状況でお前に会うほど胆力がある輩は数えるほどしかいないがな……精鋭中の精鋭、《紅蓮の黒狼隊》の隊員だけだ」

「なんですか、そのアマゾネス集団は……」

「アマゾネスとは失礼だな……皆正々堂々と戦う私直属の部下だ」

「直属の部下なんですか……じゃあ納得です」

 毎日のようにこの人にしごかれていれば威圧感にも耐えられるようにもなるだろう。

「だがあいつらは今は出かけているハズだからな……今日はきっと誰も」

「た、大変ですぅっ! ひゃぁっ! 隊長! 大変です! 皆が……」

「落ち着けシャトー……一流の伝令が焦るな」

「はっ……はいっ…………すぅ……はぁ…………落ち着きました」

 この子も紅蓮の黒狼隊だったんだ……戦闘員じゃなくて後方支援みたいだけど

「それで、何があったのだ?」

「そっ、それがっ! 休憩中に襲撃され、壊走してしまいましたっ!」

「黒狼隊が壊走……? 副隊長のリアナは無事なのか!」

「はいっ、ただいま調べに行って参りますっ!」

 そう言ってシャトーは走って行ってしまった。恐ろしいほどの速度で走って……

「どうやら私達の出番のようだな」

「ああはい、サーシャさんの出番みたいですね」

「……………………」

「……はい、行きますよ、ええ……」

 睨まれてしまったら行くしかないじゃないか……断ったら後が怖いし


 サーシャの後ろを付いていくと、治療中の黒狼隊の集まっている広間に着いた。

「さ……サーシャ隊長……! 拙者たちの力が及ばず何の結果も残せませんでした……許してください!」

 横からながら、「許してやるよぉ!」と機知外めいた言い方で返そうかとわずかながら思ったが、結果的にどうなるかを途中まで考えた結果言わないことにした。言ったら実際サムライめいた処刑をされかねないからだ。

「リアナ、武人なら言葉ではなく己の剣で名誉挽回しろ……それと一つ聞くが……敵はお前の何倍ほどの大きさだった?」

「はっ! 拙者のおよそ5倍程はありました!」

 多分リアナさんは僕よりも少し大きいからだいたい160センチ弱としても8メートルほどになる……デカい、実際デカい

 あれ? それじゃあ壊走も仕方がなかったんじゃ……だって8メートル級だよ?光来の超人ウルトラ・ジャイアントの敵ほどじゃないけど巨大って言えるサイズだよ?

「8メートルか……いや、8メートルぐらいならあの剣があれば……」

「サーシャさん、どうしたんですか?」

「行くぞレンカ、私の部下達の敵を取るぞ」

「……あっはい」

 ここで断るという選択肢があったのかもしれないけど……まあ、間違いなく引っ張られてでも連れて行かれるのは読めていたわけで……辛いです



「最初の目的地に着いたぞレンカ」

「この湖畔で休憩するんですか?」

「いや、お前にはこの湖にあると言い伝えられている聖剣を引き抜いて持ってきてもらいたい」

「で、具体的にはどこにあるんですか?」

「分からん」

「……えっ?酷くないですか……?」

 そんな砂漠の中から一粒の砂を探し出せみたいな苦行、サーシャが僕にさせるわけが……僕にさせるわけが……よし、現実から逃げるのはここまでにしよう。

「…………探してきます」

「どうしても見つからなかったら戻ってこい、私も手伝ってやろう」

「……分かりました」

 流石に今回ぐらいは自力で探さないといけないと思う。多分聖剣を手に入れた、モンスターを討伐したという結果が重要であって、過程はどうでもいいのだとは思うのだが、いつもサーシャには頼ってばかりなので今回ぐらいは自分でやりたいというのが僕の気持ちだ。言うまでもなく、ナルラの手も借りない。


 場所が分かるはずもないので、虱潰しに探すために湖畔を歩いていて、ふと思う。

「もし、湖の中にあるとしたら……どうやって取ればいいんだろ……?」

 浅い場所にあるのなら普通に濡れてでも歩いていけばいいのだろうが、見た感じこの湖は結構な深さがありそうだ。

 ……僕としては浅い場所か湖畔に出ることを祈る事しか出来そうにない。

「ちょいとそこのお兄さん! ……お兄さんだよね? ちょっとこっちにきてくんない?」

 湖の方から僕を呼ぶ声がした……というか「お兄さんだよね?」って地味に傷つくんだけど

 声の主の方へ振り返ってみると、あからさまに精霊めいた姿をした精霊だった。体の大きさこそ少女のそれよりも少し小さい程度なのだが、耳は少し尖っている(一部ではエルフ耳と呼ぶらしい)し、そもそも背中の羽根やら、いかにも精霊な服装のせいであからさまな程に精霊である。あからさまに精霊なのだ。

 あと実際平坦であった。壁やらまな板と形容されるくらいには平坦であった。

「あいえええ、なんで、精霊なんで」

「そんなに驚いて欲しそうな顔してたかな……ボク?」

「なんだか分からないけど、驚いた方がいい気がして」

「…………ハァ、まあいいや、とりあえず拾った剣……じゃない、ボクが頑張ってつくった剣を買ってくれないかな?」

「買ってほしかったらそもそもボロ出さない方がいいよ……」

 あとそもそも剣がボロボロだからボロがどうとかいう問題じゃないと思う。ボロだけに

「お兄さん、滑ったギャグをフォローしてあげるから剣買って」

「ひょっとして……心を読まれてるのかな?」

「そうだよ~だから心を読まれたくなかったら剣を買ってよお兄さん!」

 2言目にはもう剣を買えって、いったいなんなんだろうかこの子は……まあ、仕方がないし買っちゃおう。サーシャからお小遣いもらってるし

「あ、値段は1000シルバーね」

「はいはい、1000Sね…………ギリギリあった」

 ちなみに1000Sはだいたい日本円にして10000円ぐらいだ。元の世界とこちらの世界では物の価値もかなり違うので、単純な比較は出来ないのだが、あまり価値の差が変わらないものを記述にしたところ、このような比率だった。

(……な……いた……)

「…………なんか……声みたいなのが聞こえない?」

「デレデレデレデレデレデレデレデレデデレデンみたいな音? ボクには聞こえなかったけど……何か大きな奴が草木かき分けて進撃する音ぐらいしか」

「……大きいって……どのくらい?」

「だいたいボクの6倍弱ってところかな? それかお兄さんの5倍強ぐらい」

 つまり約8メートル……該当ワード ひょっとして……さっき話に出てたあいつ

「…………無理だよ」

「お兄さん! どんなピンチも諦めちゃ駄目! 諦めたら癖になるよ!」

「……なんで僕は逃げられないの……?」

「あ、お兄さんの勇姿はちゃんと見届けるからね」

「一方的に相手が勝つのに勇姿もなにもないと思うんだけど……」

「お兄さん、相手が強かったんじゃなくて己が弱いから敗北するって誰かが言ってたよ!」

(……なにか…………しい……)

 まただ……この剣の影響かは知らないけど、何かの声が聞こえる……しかも段々明瞭になってきている

「クオォォォォォォ!」

 まだそんなに近くはないハズなのに耳が痛くなりそうな……どころか実際耳が痛くなる程の大音量だった。

「……お兄さん、骨だけは拾ってあげるから」

「逃げるの!? 僕1人じゃ間違いなく勝てないよ!」

「逃げるんか」

「むしろ逃げてるのは君だよね!」

「逃げるんや」

「確かにそうだけどさ!」

 まあ、そんなやりとりをしてる内にも奴は迫ってきていたワケであって

「グルルルル……」

「あ、意外と大きい」

 全長約8メートル(立ったときの身長もそのくらいだろう)の熊……イメージとしてはだいたいそんな感じだった。実際巨大であった。歩いている時に蹴られたら即死しそうな程に大きかった。

 ましてやあの巨体から繰り出されるキックをまともに受けた場合、無事に原型を保っていられるのだろうか? まあ、即死は免れられないだろう。

「グルル……(誰だ、お前はこの森の住民ではないな)」

 何故か人のような声が聞こえるが、おそらくこの熊(?)の声なのだろう。熊の声に連動して聞こえているし。

「僕は」

「グワァァァア!(言い訳は聞かぬ、この森、神の住まう森に土足で踏み入ったうぬが愚行を呪うが良い!)」

「ちょっと待って! 多分この森は昔から人が通ってたハズなのになんで最近になって」

「グルルルル!(偉大なる森の主様が甦られるからだ!)」

「森の主様が甦られるから? つまり、自分の判断で」

「グルル! (そうだ! 平穏を好む主様に人の子を近づけるわけには行くまい!)」

「はぁ、自分の判断ですか……」

「我がよかれと思って判断した事だ! 我が主様以外に否定されようとも、きっと我が主様は」

「あいにくながらわらわは平穏を好むが、ぬしの考えるような造られた平穏は好まぬのじゃ」

 森の奥から1人の少女が歩いてきて、熊の前で歩みを止めた。

「つまりフィオナ、ぬしはもうクビじゃ」

「…………え?」

「もう一度言うべきかの? ぬしはもう森林の守護者の任を解かれたのじゃ」

「…………あ? ……あ?」

「つまり、ぬしはもうここにいる必要は無いという事じゃ。丁度ぬしよりも良さそうな輩を見つけたところじゃからのう」

「ヂグジォォォォォォ! こんなんじゃ満足出来ねぇぇぇぇぇ!」

 そんな言葉を言い残して、クマ……フィオナは野生へと帰っていった……元々野生だったかは知らないけど

「…………わらわはこの森に住まう英知の神、タトアじゃ」

「あ、僕は」

「最近そこの国の王になったレンカであろう?」

「僕の事を知ってるんですか?」

 目覚めると言っていたから、てっきり眠っていたんだと思ったんだけど……違うんだろうか?

「わらわの半身は目覚めておったのじゃ」

「……え?」

 心を読まれたような……一段飛ばしで答えられたような……

「ぬしの事を知っておった理由じゃが、わらわの半身がぬしの情報を聞いておったからじゃ。もっとも、噂程度に過ぎんがのう」

「……半身、ですか?」

「33―4?」

「それは阪神です……というか阪神関係ないですよね? 話の流れに」

 何故知っているかは僕には分からない。ひょっとしたらその半身が僕らの世界にもいるのかもしれないし。

「ところで半身って」

「分からぬじゃろうな……あれは今から500年前、わらわはある一族と契約を行ったのじゃ……まあ殆どを端折るが、一族にわらわの英知を授ける代わりに、一族のおなごをわらわの依り代として使うという契約じゃ。その契約によってわらわが眠っている間にその一族に英知を授け続け、わらわはおなごの体を借りて外の世界の知識を得ておったわけじゃ」

「長いので三行分ぐらいにまとめてもらえますか?」

「昔ある一族と契約

 出 破壊と創造をもたらす英知

 求外の世界の知識」

「……だいたい分かりました」

 分かりやすいかはさておき、実際大まかなところは理解出来たので、一応良かったことにする。……一応、クマをどこか遠くに島流ししたから今回の任務は両方達成したことに……両方?

「あッー! 忘れてたァッー!」

「うるさいのう、驚いてわらわのけもみみがピョコッと飛び出るところじゃったぞよ」

「あのすいません! 聖剣ってどこに」

「それじゃ」

「ああ、これだったんですか…………えええええ!?」

 ナンデ! 聖剣、ナンデ! 妖精に拾われてその後王様に格安で売られるなんてこんなの絶対におかしいよ!

「ちょっと貸してみよ」

「あっはい」

「…………銘はエクス……今は錆びておるが、研けばよい剣じゃ……研げばの話じゃがな」

「はぁ……」

 逆に研いでも駄目な聖剣なんてあるのだろうか?

「今頃ぬしの付き添いがぬしを探しておるところじゃろう、行くが良い」

「……ありがとうございました」

「ふむ、礼はよい。ただ、それでも礼がしたいというのなら供物を持って参れ、好きなだけ知識を授けてやろう」(訳 食べ物よこせ)

 ……食べ物よこせという欲望が聞こえた気がするけど、聞かなかった事にしよう。タトアは(少なくとも見た目は)女の子だし


「無事だったか、レンカ」

「はい、一応この森の怪物の駆除もしておきました」

 駆除というか、島流しにあったようなものだし、僕じゃなくてタトアがやったが。

「…………そうか、やはりレンカをクーデターの主軸にしたのは間違っていなかったようだ」

「あと、聖剣も見つかりましたよ」

「……もしや、森の守り神たるタトア様に認めていただいたのか?」

「一応ですけど……」

 事のあらましを説明したほうがいいかもしれない……


「なるほど、聖剣は妖精が持っていたのか……そしてお前はその聖剣をタトア様に見せた、と……」

「あ、タトアさんが研げば良い剣だと言っていました」

「研げば良い剣……タトア様は私の時にも同じ事を言っていたような……」

「…………サーシャさん?」

「いや、なんでもない…………もう用は済んだ、帰るか」

「あ……はい、一応研がないといけないみたいですし」

関係ないですけど、隠れミッ○ーみたいに少しだけクトゥルフ要素混ぜてみました

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