~第5話~彼はまだ彼女の不安にも気付かない
もうすぐ秋も終わる頃の秋と冬の風が混じって吹き付ける11月の中旬。
私はある男の子に告白された。
『えと…何かな馬場くん?』
『お、俺……』
馬場君という男の子は決意して必死の想いで口を開く。
『も、もし!こ、こんな俺で良かったらつ、付き合ってください!!』
『!?』
とても嬉しかった。
ううん、嬉しいと言うより驚きの方が大きかったかな。
両想い。
そう、私と馬場くんは両想いだった。
馬場くんが私を助けてくれたあの日から、私はずっと馬場くんを見つめていた。
そんな目で追うことしかできなかった私に馬場くんは告白してくれた。
嬉しい。
涙が出そうなほど嬉しい。
今すぐにでも告白の返事をしたい。
〝嬉しい、こんな私で良かったら付き合ってください〟、と。
でも…あの時の私は──。
・・・・・・
チュンチュンチュンチュン♪
屋敷の外で朝を知らせる雀の鳴き声が屋敷中に響き渡る頃、黒髪ロングで可愛いパジャマ姿の藤倉花怜が眼を覚まそうとしていた。
『う、う~~~ん…』
花怜は眼を覚ますと背伸びをしてベッドから起き上がる。
『……また、あの夢…』
もう終わったことなのに、最近はあの夢を見ない日はないほど同じ夢を見る。
『…今さらあの時のことを思い出してもどうにもできないのに…』
馬場くんにはきっともう他に好きな子がいる。
だって聞いちゃったんだものね。
そう。あの夜、私は習い事の帰りだった。
そのときの私は車の窓の外を眺めて、丁度習い事の帰りによく通るある公園の中で馬場くんと三条くんの姿を見かけた。
二人は隅っこにあるアスレチックの所で何か真剣そうに話をしていた。
その二人が気になった私は車を一旦止めさせて、二人を見守って見ることにした。
そんな私の耳に信じられない言葉が馬場くんの口から出てきた。
彼女のことが好き。
私は固まってしまった。
馬場くんには他に好きな子がいる。
私以外の誰か……。
その子って一体誰なんだろうか、と考えてしまう。
そして、そんな私はこんなことも考えていた。
自業自得。
振ったのは私なのに、今更未練がましく後悔している私。
ハァ…と学校じゃ絶対に出さないようなため息をついてから、そろそろ起きようかな、と思っていた。
そんな時、部屋の扉がガチャッ、と開かれて可愛いメイド服を着た二人の女の子が出てくた。
『おっはよー花怜♪朝だよー起きてるー?』
一人は元気一杯の小柄な短髪の女の子。
『お、お姉ちゃん!!お嬢様を下の名前でよんじゃだめっていつもいってるでしょ!!』
もう一人はおとなしそうで身長は最初の子より少し高い長髪の女の子。
この二人は紛れもなく私の屋敷で働く数少ない同年代の使用人で、いつも私を起こしに来てくれる。
『おーい、起きてるかー…て、なんだ花怜もう起きてんじゃん』
『おはよう日菜』
おう♪と日菜は元気よくビシッと敬礼しながら返す。
『もう、お姉ちゃんってば…どうせ何回言っても聞いてくれませんよーだ…』
『ふふ♪別に構わないわよ。むしろそっちの方が気兼ねしなくていいから楽だし』
『で、でも……』
長髪の女の子は困ったような顔をして踞った。
『そういう所は頑固よね…おはよう朝桜ちゃん』
話しても先に進まないので、私は朝桜ちゃんに朝の挨拶をした。
『は、はい♪おはようございますお嬢様♪』
さっきとは違う満面の笑顔で朝桜ちゃんは頷いた。
『それじゃ花怜も起きてる事だし朝食食べにいこっか♪』
クルッと振り向いた日菜は、部屋の扉を開けるとはやくはやく♪、と手で手招きをしながら二人を待っていた。
『もう、お姉ちゃんってば…そんなに焦らなくても朝食は逃げていかないよ』
もう…とため息をつきながらも朝桜ちゃんは日菜の側にスタスタ、と寄り添った。
『ああ言いながらも着いていくのよね朝桜ちゃんって』
クスッと笑いながら花怜は二人を見つめていた。
『花怜~早くしないと朝食冷めちゃうよ~』
『お嬢様~早く行きましょう~♪』
『はいはい、今いくわよ』
ホントにこの姉妹は仲がいいなと改めて花怜は思うのだった。
・・・・・・
『うむ、やっときたか』
『おはようございますお父様』
花怜より早く食事をしていた花怜にお父様と呼ばれる男。
口元は優しそうだが眼は鋭く尖った眼をしている男は花怜を見るとそういえば、と花怜に話を降ってきた。
『花怜、あれから光二くんとはどうなったんだ?』
『……』
お父様が言っている光二くん(・・・・)とは、お父様が決めた私の婚約者のこと……。
『どうした花怜?』
お父様は花怜を心配そうに見つめる。
『…いえ、何でもないです……』
『そうか、それなら良かった』
ふぅ、と胸を撫で下ろすお父様。
そんなお父様に私は…。
『……光二様には良くしていただいていますわ』
ふふ♪と少しぎこちない笑顔でお父様に返事をした。
『そうかそうか、それは何よりだ……ふぅ…』
紅茶を飲みながらひと安心するお父様は紅茶を飲み終えると椅子から立ち上がった。
『さて、そろそろ行こうか』
『もう行かれるのですか?』
立ち上がったお父様に私は、もう少しゆっくりなさっては?、と心配そうに見つめる。
『すまないな花怜。お前ともう少し食事をしたかったんだが、今日中に済ませないといけない書類があってな…上部』
『はい、旦那様。何ようでございましょうか?』
お父様は私の専属執事の上部に声をかけ、肩に手を置いた。
『今日も花怜のことをよろしく頼むぞ』
『はい、十分承知しております。ですので旦那様は心配なさらず、お勤めがんばってくださいませ』
上部はお父様に頭を下げて言い終えると、自分の腕に畳んで下げていたお父様のコートをお父様にかけてあげた。
『それでは、花怜。行ってくる』
『はい、お父様。お勤め頑張ってくださいませ』
お父様は私の見送り言葉を聴くと、屋敷の外へと歩いていくのだった。
・・・・・・
お父様がお勤めに向かっていったあと、私はふぅー、と息をして緊張をほどきながらあることを考えていた。
婚約者。
それもお父様が私が小さい頃に勝手に決めた婚約者。
でも、そのときの私は嫌になどなっていなかった。
何故ならこれが藤倉家の決まり(・・・・・・・)なのだと心の底から思っていたから。
そう、あの日がくるまでは…。
・・・・・・
私は日菜と朝桜ちゃんの三人で食事を始めていた。
『う~~ん♪このスクランブルエッグおいし~~♪』
日菜はとても美味しそうにスクランブルエッグを食べていた。
今日の朝食はスクランブルエッグ、コーンスープ、サラダ、白米またはパンといった極々自然な一般家庭で出てくる朝食で、その理由はお父様が〝日本の三度の飯は只の金を賭けた高級料理では駄目だ〟、とのことでお金はそれほど賭かってはいない。
私としてもお父様の考え方には感謝をしている。
一般学校に通っている私が、もし三度のご飯を高級料理で済ませていたら、きっと学園で浮いてしまう。
元々、〝学園理事長の娘〟とだけでも浮いてしまっているのにこれ以上浮いてしまったら、多分私は友達が確実にいなかったと思う。
それに、お金を賭けた高級料理もいいとは思うけど、やっぱり私はこういったシンプルイザベスト!!って感じのお料理の方が私自身気に入っているから。
『花怜~……モグモグ…早く食わないと学校遅れるぞ~……ゴックン…ふぅ~……』
『お姉ちゃん!!はしたないから食べながらお喋りしないの!!』
『ブゥ~…うるさいな~~朝桜は~~』
『うるさいってなにようるさいって!!』
『だってほんとのことだろ~…そんなに毎日毎日怒ってばっかいると私より早く老けるぞ?』
『!?』
朝桜ちゃんは日菜の言葉に頭にきたのかさっきより強く…殺気のようなオーラを放って日菜に口を開いた。
『……お姉ちゃん…いま…何て言ったの?』
ビクッと、日菜はさっきとは違う朝桜ちゃんのオーラに気付いたのか、いきなり椅子の上で直立に正座をしてたらたらと汗のようなものを流していた。
『……ねえ…お姉ちゃんってば…聞いてるでしょ?…いま…何て言ったの…』
『ひぃ…ご、ごめんなさい私が悪かったです!なので怒らないでくださいませ朝桜様!!』
日菜は直立に正座していた姿勢を崩し、深々と朝桜ちゃんに頭を下げていた。
『…なにいってるのお姉ちゃん?私がいつ怒ったの?』
『…いつって、今現在進行形で怒って…ひぃ!?ごめんなさいごめんなさい怒っていません朝桜様は怒っていません!!』
日菜が朝桜ちゃんに意見しようとしたとき、朝桜ちゃんは朝食のパンを切る為のナイフを持って日菜に聞いていた。
『……もう、二人ともお遊びはそのくらいにしてご飯を食べましょ』
見るに見かねた私は二人に早く食べなさい、と注意を促す。
『はい♪お嬢様♪』
さっき日菜に向けていた顔とはうって変わって笑顔で返事をする朝桜ちゃん。
それを見た日菜は呆れたような顔をしてため息を吐いていた。
『…はぁ…花怜は何で気付かないんだよ…』
日菜は何か言っていたようだけど、そんなのは聞かなかったことにして食事を進めた。
私が食事を始めると、さっきまで遊んでいた?二人は椅子に座り直すと黙々と食事を進めだした。
『お嬢様♪パンはいかがでしょう♪』
そう言うと朝桜ちゃんはパンの入っているバスケットを寄せてくれた。
『いただくわ。ありがとう朝桜ちゃん』
『はい♪どういたしましてお嬢様♪』
ニコッと笑顔で返してくれる朝桜ちゃん。
それを見た日菜は私もと朝桜ちゃんにパンを寄せて、と言う。
だけど朝桜ちゃんはふんっと言って知らん顔した。
『自分でしたら?』
『つめた!?さっきのはホントにゴメンってば。ね?だからお願いだからパンをとってよ!!』
ゴメンっと日菜は朝桜ちゃんに手を合わせながら拝むように謝った。
『……謝るだけじゃ誠意が伝わらない…』
『だ、だったら朝桜の好きなお姉ちゃん特製ロールケーキを作って上げるから!!』
『……』
ピクッと一瞬朝桜ちゃんの耳が動いた。
その反応を日菜は見逃さなかった。
『朝桜の好きなお姉ちゃん特製ロールケーキだよ~♪』
『べ、別にお姉ちゃんの作るロールケーキなんてす、好きなわけ!!……』
『あれ~?この前〝お姉ちゃんの作ってくれるロールケーキは世界一♪〟、とかロールケーキを口に方張りながら嬉しそうにしてたのはどこの誰だったかな~?』
『そ、それは!?』
『別に~?朝桜が要らないんだったらそれはそれで別にいいんだけど~。自分で作って食べても美味しいし~』
『そ、そこまで言うなら仕方ないね!!許してあげなくもないよ!』
『う~ん?今なんて~聞こえなかったからもう一回~』
日菜は勝ち誇った顔をして朝桜ちゃんを見つめていた。
『もう!…何でいつの間にか私が下になってるのよ…』
朝桜ちゃんは悔しそうに日菜を見つめていたが、もう降参と日菜に両手を挙げた。
『もう降参。その代わりちゃんとお姉ちゃんの特製ロールケーキ私に作ってよ』
『ニシシッ♪素直にそう言えばいいんだよ♪』
ニシシッと笑いながら日菜は再び食事を進め始めたのだった。
そんな二人をさっきから見ていた私はクスッと笑いながらこう思った。
〝やっぱり姉妹なんだな~〟、と。
・・・・・・
紅葉種付属学園。
ここは、私のお父様が学園理事長をしている中高一貫の付属学園で、私はそこの高校一年生。
クラスは1-C組で、クラス委員長をやっています。
そんな私が自分の教室の扉を開けると、それに気付いたクラスメイトの女の子が挨拶をしてくれた。
『あ、藤倉さんだ!おはよう♪』
『おはようございます』
私は頭を少し下げてその場で挨拶をした。
その挨拶のキャッチボールを聞いていた他のクラスメイト達も私に気付いて皆が挨拶をしてくれた。
『おっはー♪藤倉さん♪』
『ふ、藤倉さんおはよう!!』
『今日も美しいです藤倉さん~♪』
『我がクラス…いや、学園の花が今日も咲き誇られた!!』
…一部大袈裟な挨拶をしてくる人もいたけれど、私なんかに挨拶をしてくれるこのクラスは私は好きです。
そんなことを考えながら一人を除くクラスメイトに挨拶が終えた私は自分の席に座って、一時限目の準備を始めることにした。
と、その最中に一人のクラスメイトが私の席の前にある席の椅子にまたがって、私の方を向きながら話しかけてきた。
『おっはよ花怜』
『おはよう暁子』
暁子は私が返事をするとニッと笑顔で笑っていた。
巻風暁子。
いつも元気が良くてクラスのムードメーカー的存在。
そんな暁子は、唯一私のことを名字で呼ばずに〝花怜〟と読んでくれる。
なので、私も気兼ねなく〝暁子〟と下の名前で読んでいる。
学園では暁子が一番楽に話せる相手かな。
『ねぇ、花怜』
そんなことを一人で考えていると、暁子が笑いながらこちらに話をふってきた。
『今日さ♪1-A組に転校生が来るんだって♪』
『転校生?』
そう♪、と暁子が笑いながら話を続ける。
『噂では、金髪の帰国子女でメチャクチャ可愛いらしいんだよね』
『…金髪…帰国子女…』
そんな子が何故こんな時期に転校してきたのか。
私は少しその事が気になった。
『そして、ここからが本題なんだけど…聞きたい?』
少しにやりとした笑顔で聞いてくる暁子。
『…別に聞きたいわけじゃないから話さなくてもいいわよ…』
『そ、そんな!?』
私がそう言うと暁子は焦ったように聞いてくる。
『そ、そんなこと言わずに聞いてよ花怜。多分花怜にとって大事な情報だと思うからさ!!』
『私にも?』
『そうそう♪やっと食いついたね♪』
暁子は笑顔のままで話を続ける。
『実はさ、これも噂なんだけど…1-A組の馬場恋士と深い関わりがあるらしいんだよ!』
『え…馬場くんに?』
それを聞いた瞬間、私の中で一つの不安が浮かび上がってきた。
馬場くんに好きな子がいる……。
暁子の話を聞いた私はこの事が頭から離れないでいたのだった。
to.be.continued……
いや~(´▽`;)ゞ
久しぶりの方、または始めての方。
どうもこんにちは!!久しぶりに投稿できて嬉しい勇者王です。ども(〃^ー^〃)ゞ
いや~ホントに久しぶりですよホントに。最後に投稿したのは一月の終わりだったから役二ヶ月デスネ(笑)。
こんなに遅れた理由はただひとつ!!そう、それは活動報告にも書いてあった例のあれですはい。まさか引き継ぎに10周もしなければ全部のボーナス貰えないって…アホか!!。今までそんな周回プレイやったこともないし聞いたこともないよ( TДT)(でも、やるんだけどね(笑))
てな感じで一区切り出来たので投稿することが出来ました♪(〃^ー^〃)。これもこの作品を読んでくれている読者の人のおかげです♪
それではこの作品を読んでくれている読者の皆様次の投稿までさらば!!です。