~第4話~彼はまだ実行委員になっても気付かない
『『………………』』
長い沈黙。
その中で俺は、三人の女の子と机をくっつけて弁当を食べていた。
『『………………』』
うん、これは誰が見たって食べづらいよね。
俺は勿論当事者だからめっちゃ食べづらい、っていう理由もあるけど、もう1つ食べづらい理由があるんだなこれが。
それは…さっきから三人が三人とも、お互いをチラチラ見ては逸らしの繰り返し。
これを戦争に当てはめるならば、冷戦状態。
う~んこれはどうしたものか…。
俺が真剣に悩んでいると、椎名雅ことみや姉が俺に喋りかけてきた。
『ねぇ、恋士君?』
『なに、みや姉』
『その、ね…えと…〝あーん〟して……』
『は?』
みや姉の顔がみるみるうちに紅くなっていく。
みや姉いきなりどうしたんだ?
〝あーん〟して?
それは、世の男達が憧れるという、伝説の呪文じゃないか。
そんな伝説の呪文をみや姉が今、唱えてしまった…しかもこの俺、馬場恋士に。
『な!、ちょ、ちょっと雅さん!!なにを言っているんですか!!』
『そ、そうですよ!!私だって恋士さんに〝あーん〟したいのに……』
さっきまで冷戦状態だった二人もみや姉を見て、抗議した。
『だって、ねぇ…いつも恋士君にしてあげているから』
ね、とみや姉は俺に笑顔─オーラが恐い─を向けてくる。
『どうなのレイジ!!』
『どうなんですか恋士さん!!』
二人は俺に向かって叫びながら聞いてくる。
『い、いやそんなことみや姉にされたことな────』
と、そこまでいいかけた時にみや姉を見ると…少し瞳を潤ませていた。
『恋士君……』
『う……!?』
あんな泣かそうな顔で見つめられたら俺は……。
『…………ないこともない…』
俺がそういうとみや姉はさっきの泣きそうな顔はどこえやらというようにニコッと笑顔になった。
俺はアホだ。みや姉の泣きそうな顔を見たとたん、否定することができなくなってしまった。
今に思えばいつもそうだよな。
こういう、みや姉の泣きそうな顔を見たら、なにかしてやりたくなるし、守ってやりたくなる。
みや姉は俺の前で、いつもお姉ちゃんぶっているが、すぐに俺に泣きそうな顔を見せてくる。
本人は全くそれに気づいていないみたいだけど…。
まあ、そういう顔を見せているのは俺とみや姉の親友の〝香澄〟さんだけみたいなので、なんか自分としても嬉しい。
だってそうだろう?俺を合わせて二人しかいないんだ。他の奴に自慢したくなってしまう……内緒だけど…。
『ないこともないっていったいどっちよ!!』
『そうです!!はっきりしてください!!』
『……え~と、二人とも落ち着いて───』
キーン♪コーン♪カーン♪コーン♪
俺が二人をなだめようとしたやさきに昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
『あ~あ、もう恋士君とのお昼ご飯終わっちゃったな~…』
みや姉は残念そうに弁当を片付ける。
『あ!そういえば私次の授業選択授業だった!!』
みや姉に続いて三咲ちゃんも弁当を片付けだす。
『恋士君、残念だけどまた、放課後ね♪』
『うん、て、え?今日は生徒会ないの?』
『そうだよ♪聖夜祭の準備の生徒会でしなくちゃいけない仕事はあらかた終わらせたから♪』
みや姉は胸を張りながら、説明してくれる。
『…あ!それで思い出した!!』
みや姉が思い出したように口を開く。
『恋士君のクラスってまだ聖夜祭でする出し物の申請出してないよね?』
『げ!!』
『やっぱり……恋士君!』
『は、はい!』
俺は椅子から立ってみや姉に姿勢よく向き直った。
『……ここのクラスの聖夜祭実行委員は誰?』
『それは…俺と堺さんだけど…』
『え?…ホントなの堺さん?』
一瞬戸惑ったみや姉が堺さんに聞く。
『そ、そうです!!私とレイジはこのクラスの聖夜祭実行委員です!!』
私とレイジは、の所を妙に強く強調した堺さんはみや姉より少し実った胸を張って勝ち誇っていた。
なぜ勝ち誇っているのかわからないけど、みや姉はそれを聞いて羨ましそうにしていた。
『…恋士君と放課後ずっと二人っきり……そ、そんなのダメ!!絶対ダメ!!ふ、不純異性交遊なんだから!!』
『何をいってるんですか雅さん?』
『な、何って不純異性交遊───────』
『これは、〝聖夜祭実行委員〟として当たり前じゃないんですか?』
『う…そ、それは…で、でも、でも恋士君と二人っきりは絶対ダメです!!』
『わ、私も恋士さんと二人っきりになりたいですよ!!』
みや姉が駄々をこね始めた…なぜ三咲ちゃんものっかるのかわからん。
俺は、全然話が終わる様子がないので三人にさっきから忘れていることを言ってあげた。
『……ねぇ、三人とも…』
『なに、恋士君?』
『なにかしらレイジ?』
『なんですか恋士さん?』
『……その、堺さんは大丈夫だけど……みや姉と三咲ちゃんは、次の授業大丈夫なの?』
『『あ……』』
二人はさっきチャイムが鳴ったことに気付いて片付けをしていたのに、その事を忘れてしまっていた事に気付いた。
『そうだった!早く行かないとまた香澄に怒られちゃう!!』
『わ、私も早く行かないと選択授業の先生に怒られちゃいますー!!』
二人ともおお慌てて、教室を出る。
『じゃあ、恋士君今日も晩御飯作りに行くから、じゃあねー♪』
『そ、それじゃあ私も次の授業に行ってきまーす♪』
『じゃあ、またねー♪』
俺は、みや姉と三咲ちゃんの背中をみて、教室のドア越しに手を降った。
そして、タイミング良く次の俺達の授業の先生が入ってきたのだった。
・・・・・・
『それじゃあ今から聖夜祭するうちのクラスの出し物を決めたいと思います』
放課後のホームルームを使って俺達は聖夜祭でする出し物を決めていた。
『はーい♪喫茶店がいいでーす♪』
『はいはい♪私はお化け屋敷がいい♪』
みんなそれぞれ聖夜祭でする出し物の提案出してくる。
『え~と、喫茶店とお化け屋敷よね…』
皆が出す提案を堺さんが黒板に書いていく。
『チョークなのに字が綺麗だなー…っと、感心してる場合じゃなかった……他に誰か提案はありませんかー?』
『ハイ!!』
安彦が勢いよく手をあげる。
『うん?安彦なんか案があるのか?』
おうよ!っと、安彦は自信満々に胸を張った。
『クックック……聞いて驚くなよ?』
『別に驚かねえから、さっさと用件を言え』
俺は勿体ぶらせる安彦に内心イラつきながら聞く。
『わかったわかった…それはな、メイド喫───』
『……誰か提案ありますかー?』
『オイ!誰がスルーしていいっていったよ!!』
『俺だが?』
『そんなのわかってるよ!!…たく…っと、そうだ!こうなったら!!………』
すると、安彦がなにかを考えたあと、黒板に提案を書いていた堺さんに話を振る。
『ねぇ、堺さんはどう思う?』
『……と、これでよしっと…何かしら三条くん?』
『堺さんはメイド服に興味無い?』
『え?メイド服?』
『そう!金持ちの家とかにいるメイドさんの服!!』
安彦が妄想しながら熱く説明する。
『そうね~…別に着たいとは思わないわね』
顎に指をそえながら正直に言う堺さん。
そんな境さんの返答にガーンッと、安彦が絶望するように膝を床につけた。
『そ、そんな馬鹿な…俺のメイドさん補完計画が……』
『なにが、メイドさん補完計画だよ!!』
『う、うるさいやいこの色男が!!……と、そうだ!これなら……ねぇ堺さん!!』
『…今度は何かしら、三条くん?』
『え~とね、ちょっと……』
『うん?』
安彦は堺さんを手招きすると、耳元で何かを堺さんに話していた。
『……堺さんは知らないと思うけど、恋士ってメイドさんがめちゃくちゃ好きなんだよ』
『え?それホントなの?』
堺さんは一度話を止め、俺を見る。
『……ホントホント、アイツ口では言わないけどメイドさんが好きなんだよ……』
だからさ、っと安彦は続ける。
『堺さん、メイドにならない?』
『え!私!!』
『他に誰がいるの…でどうする?』
『わ、私がメイドなんて恥ずかしすぎるわよ!!』
『でもな~、堺さんがやってくれたら恋士、絶対飛び跳ねて喜ぶのにな~…』
『……ホントに?』
『当ったり前じゃん!!堺さんのメイド服姿を見て、興奮しない男なんているはずないじゃないか!!』
『それなら、レイジも?』
『それは、堺さんの返答次第だけどね』
『……やるわ…』
堺さんが小さな声で返事をする。
『え?今なんて?』
『だから、メイドさんやるって言ってるの!!』
『ホント!』
『ホントよ、こんなのに嘘ついても仕方ないでしょ』
『よっっっしゃぁぁぁぁーーー!!』
安彦は堺さんの返事を聞くと大声を出して勢いよくその場で飛び跳ねた。
『な、何だよいきなり飛び跳ねて…』
『はん、俺の勝ちだぜ親友!!』
『は?何が?』
ふふん、と鼻を伸ばす安彦は機嫌良く説明してきた。
『堺さんも俺の提案にのってくれたぜ!!』
『は?堺さん、ホントなの?』
俺はホントに堺さんがあんな馬鹿げた提案にのったのか、直接境さんに聞いて確認する。
『えぇ、少し興味が湧いたわ』
『なぜ!?』
『べ、別にどうだって良いでしょ!!』
もうホントに鈍感なんだから……、っと恋士に聞こえない声でため息を吐く。
『とにかく、だ…これで堺さんの同意も得られた事だし、メイド喫茶で決定で良いよな!!』
安彦はクラスメイト全員に熱く説明する。
『…まあ、メイド喫茶ってとこはおいといて、メイド服は確かに着てみたいかも♪』
『はいはーい♪私もメイド服着てみたーい♪
』
クラスメイトの女子が次々に安彦の提案に同意していく。
それを見てからか、今まで黙っていた男子達が大きな歓声をあげていた。
『『よっっっしゃぁぁぁぁーーー!!』』
『どうだ!!俺が先人を切ったかいがあっただろ!!』
男達の歓声を聞いた安彦は調子に乗って、腕を組んで仁王立ちをした。
『ああ!!三条が先人を切ってくれたおかげで、俺の……いや、俺達の夢を現実のものにしてくれた!!』
クラスメイトの男子が安彦に握手を交わし、腕をクロスする。
『お前は…俺の……いや、俺達の英雄だ!!』
『ありがとう!だが、俺達の夢はまだ始まったばかりだ!!』
安彦はクラスメイト男子全員に熱く熱弁した。
その安彦の熱弁に男達はかんだかく一斉に返事をした。
『『オーーー!!』』
その時の安彦は、クラスメイトの男子逹─俺以外─に英雄として称えられ、時の人となったのだった。
・・・・・・
『堺さん準備できた?』
『ええ』
俺達聖夜祭実行委員はホームルームが終わったので、さっきクラスで決めた出し物の申請を生徒会室に届けることにした。
別に家に帰って、みや姉に俺が渡せば良いのだが、それを堺さんに提案したらダメ!!、と怒られた。
『やっぱり俺が夜にでも、みや姉に渡した方が早く堺さんが帰れて楽じゃない?』
『ダ、ダメよ!!そんなのダメに決まってるでしょ!!』
堺さんは俺の提案をまたしても断る。
『もし、夜に雅さんの家をレイジが訪ねたりしたら、絶対雅さんはレイジを家に入れようとするでしょ!!』
『た、多分そうだろうけど……どうして?』
『べ、別に良いでしょ!!……ホント、鈍感なんだから…』
『え?何かいった?』
最後が聞き取りずらかったので、境さんに聞き返した……のだが。
『な・ん・で・も・な・い・わ・よ!』
ペチンッ、と俺のデコにデコピンをかます。
『イテッ…いきなり何すんのさ』
デコピンで少し赤くなったデコをさすりながら聞く。
『レイジが鈍感だからよ』
『堺さんも安彦と同じこと言って、俺はこれでも敏感な方だと思うけどな』
俺は自信ありげに胸を張る。そんな俺を見た境さんはため息を吐いていた。
『ハァー……三条くんが言ってることがあってるのに……』
『ええ!?なんで!?』
すると堺さんに自分で考えなさい!!、とまた怒られてしまう俺なのであった。
・・・・・・
『……失礼しまーす…』
『失礼します』
コンッコンッ、と生徒会室のドアを軽くノックしてから、生徒会室に入る。
『あ♪恋士君に堺さん♪どうしたの?二人で生徒会室まで来て…』
生徒会室の椅子に座っていたみや姉がテクテクと俺逹の前までやってきて、笑顔で迎えてくれた。
『あら♪弟くんじゃない、久しぶり♪何、今日は彼女と一緒?』
『『か、彼女!?』』
なぜかみや姉と堺さんが驚いていた。
『もう、香澄さん!!何いってるんですか!!』
『あら?違ったの?ふふ♪ごめんなさいね♪』
クス、クスと笑う香澄さん。
『もう、ビックリさせないでください……ちょっと期待しちゃいましたよ』
『本当にごめんなさいね…それより貴方は……』
『あ、そういえば香澄さんに堺さんを紹介してなかったですね、堺さんにも』
『えぇ、レイジこの人は?』
堺さんも俺に訊ねてくる。
『この人は、みや姉の親友の神野香澄さん』
『どうも、初めまして♪神野香澄よ♪気軽にカスミン♪でも良いわよ』
『いや、さすがにそれは無理です…普通に神野先輩で…』
『う~ん、やっぱりちょっと堅苦しいわね。なら、香澄さんで良いわよ』
『いえ、会ったばかりなのにそれは……』
『〝香澄さん〟ハイ♪復唱♪』
『……香澄さん…』
『ハイ♪良くできました♪』
香澄さんはにっこりと笑いながら、次の境さんの自己紹介を聴いた。
『次は私ですね…コホン…』
境さんさんは一度咳払いをして話始める。
『レイジと同じクラスの堺アリシアです♪どうぞよろしくお願いします♪』
『こちらこそよろしくね♪アリシアちゃん♪』
『あの……』
『何?〝アリシアちゃん〟♪』
『……いえ…なんでもないです…』
堺さんは何か言おうとしたが、香澄さんの笑顔に何も言えないみたいで、苦笑いをしていた。
『ああ!香澄だけズルいよ~、私も堺さんのこと昔見たいに〝アリシアちゃん〟って呼びたいのに~…』
みや姉は羨ましそうに香澄を見る。
『雅さん!覚えていてくれたんですか!!』
その言葉を聞いた堺さんは驚いたように声をあげた。
『うん♪もちろんだよ♪忘れるわけないじゃない♪ねぇ、恋士君?』
みや姉がいきなり俺に話を振ってきた。
『え!?お、俺!?』
『そうだよ?だから、いつも二人で一緒にいるんでしょ?』
『そ、それはその……』
言えない。俺が昔、堺さんに会っていることを忘れているなんて…口が避けても自分の口からは言えない。
そんな俺の様子を見た香澄さんが半信半疑で訊ねる。
『まさか弟くん…忘れてる(・・・・)ってわけじゃないわよね?』
『ギクッ!?』
『……ハァッ…古臭いボケありがとう弟くん…』
『いえそれほどでも♪』
俺は頭の上に手を置いて笑う。
その様子を見ていたみや姉が俺の前までやってきて……一言。
『ホントなの?恋士君?』
『え~…と…その…』
俺はどういうか迷っていると、不意に堺さんが口を開いた。
『雅さん、その辺にしてあげてください…』
『でも……いいの?』
『…良くはありませんけど…いつか必ず思い出させてやりますから♪』
堺さんはガッツポーズでみや姉と香澄さんに言った。
『フフフ♪それは頼もしいわね♪』
『ホントだよ♪私だったら泣いちゃうのに』
香澄さんとみや姉が堺さんの心意気に胸を打たれていた。
『ホントスゴいよ!!俺も堺さんを見直しちゃうな~♪』
カチンッ…あれ?今の音って何?
『……レイジ…今なんて?』
『え?だから堺さんのこと見直しちゃうって───ヒィ!?』
いつの間にか堺さんの背中に濃いオーラみたいなのが浮かび上がっていた。
そんな俺の言葉にみや姉と香澄さんも少し怒っていた。
『今のは、恋士君が悪い』
『そうね…さすがにフォローの使用もないわね』
『そ、そんな~…って、ちょ、ちょっと堺さん!?その手は何!?』
堺さんは大きく手を振り上げていた。
『……自分の心に聞きなさい!!』
バシンッ!!、と堺さんの手が俺の頬を強く弾いた。
『『自業自得』』
その時の女子三人は同じことを言って…まさにシンクロしていたのだった……。
to.be.continued……