~第1話~沈んだ彼は気付かない
『ハァァァァァ~~~~~~………』
俺は机の上でため息をつきながらさっきのことを思い出していた。
そう、何を隠そうこの俺こと馬場恋士は昼休みに美少女の女の子に振られてしまったのだ。
そんなことを知らない俺の親友(?)が声をかけてきた。
『よー恋士何つっぷしてんだ』
『うん?…………誰だお前?』
『うん?、はねえだろそれに今の少しの間はなんだよ!?』
俺はさっきのことが相当堪えたのでこいつに嫌がらせをしてみた。
そうそう説明してなかったがこいつの名前は三条安彦俺の悪友で小学生の頃に知り合い意気投合して今の関係に至る。まあ、早く言ってしまえば腐れ縁だ。
『おいおい、誰だはないだろ誰だは。てかさっきから誰に説明してんだよ!!』
『う~んまあなんだ。俺は今とても気分が良くない。だからとっとと自分の席に座ってろ』
安彦の質問を無視して俺は命令口調でつっぷしたまま言った。
『おい何で命令口調なんだよ!!てか、俺の質問完全無視!ひどいせっかく心配して来てやったのに…』
そういってとぼとぼしながら自分の席に戻る安彦。心配して来てくれたのに悪いな。だが、今はお前の相手をする気力がない……ハァァ~…これからどうすっかな~~……』
俺はこれからのことをどうするか考えながら、次の授業を受けたのだった……。
・・・・・・
夕日が照らす放課後。
俺は学校から一番近い商店街に来て今日の晩御飯の買い出しに来ていた。
『あら♪恋士君今日も買い物?』
八百屋から出てきたおばさんが笑顔で近寄ってきた。
『こんにちは。実は今日も親達が帰ってくるのが遅いんですよ、だから今日も買い物にきたんですけど』
と、頭を少しかきながら説明しているとふと、目に留まるものがあった。
『おばさんこれってなんですか?』
俺が目に留まったのは男子高校生の頭一つ分位の小さな狸の置物だった。
『うん?ああ、これね。これはいつも家に買いに来てくれるお客さんにもらったのよ。』
そう言うと、おばさんは狸の頭を撫でながら苦笑していた。
『これをくれたお客さんが”これがあればこのお店も商売繁盛ですよ♪”なんて笑顔でいってたんだけど…』
するとおばさんは少し笑いながらいった。
『でも、普通商売繁盛の置物っていったら招き猫でしょ?』
そう、普通なら商売繁盛の置物といったら間違いなく招き猫の置物だ。
『でも、それをいったら”招き猫なんてただの置物です!”なんていって怒られちゃったのよ。』
うわ~~…どんだけ招き猫嫌いなんだよソイツは。狸だってそうは変わらないだろうに…どんな奴か顔がみてみたいな。
そう心の中でいっているとおばさんが、
『でもその子がこれをくれてから少しお客さんが増えたのよね♪』
ふ~んってマジか!!狸は猫より金運上がるのか!。
『それとその子、恋士君と同じ学校のはずよあと同級生よ確か』
『え、ほんとですか?』
学校一緒でしかも学年も同じ。そんな俺の学年でそんな狸の置物が好きな奴いたっけかな?
俺がう~んとない知恵を搾って考えていると、
『そういえばその子、恋士君のこと知ってたわね』
おうおう、俺のことを知っている?ますます誰だかわかんなくなってきたぞ。
『おばさん、その子の名前はなんて……。』
『ああ、言ってなかったわね。その子の名前は藤倉さん家の花怜ちゃんよ♪』
ちょっと待て。今のは聞き間違えか?藤倉花怜って俺が今日の昼休みに振られた娘……俺の心の悲しい思い出アルバムに新しく1ページを加えた張本人じゃないかっ!?
恋士は動揺してしまい、あの時の悲しい思い出アルバムの過去にあった1ページがフィードバックしてしまった……。
そう、あれは小学校六年生の卒業。俺は小学生最後の日に思い切って告白をした。その告白の相手は藤倉花怜その人だった。
だけど俺が告白したら、その子(藤倉花怜)は黙ったまま静かに佇んでいた。
て言うより固まっていた。
その時、俺は確信した。振られたのだと…。
俺がそう考えている最中もまだ藤倉花怜は固まったまま動こうとはしない。
その頃の俺は自分が振られたと思い背を向けて駆け出してしまっていた。
そんな過去を含めて2回。藤倉花怜に振られたんだ俺は……。
でも、過去と現在の思い出の女の子が俺のことを覚えていてくれていた。
嬉しい。
今まで学校と学年が一緒だったけど、〝告白〟の時しか顔をあわしたことがない。
てか、今思えば〝告白〟の時以外で喋ってなくないか?。そんなんじゃ告白しても振られるのは当たり前……か。
でも、それでも覚えてくれていると思うと素直に嬉しい。
そう思って悲しい思い出アルバムの過去と現在の2ページを染々と身に染みながらおばさんと世間話をしていると、可愛らしいミニポニーテールの髪型をした女の子が八百屋の店の奥からひょこっと顔を見せてきた。
『母ちゃん母ちゃん♪誰と話してるの~?』
『美咲、遊んでないで店の手伝いしなさいよ!!』
ミニポニーテールの女の子が出てきてそうそうおばさんが少し呆れた顔で言っていた。
『え~~そんなのめんどくさいよ~…それより母ちゃん今誰と話して───ってれ、恋士さんっ!?』
そこまで言ってミニポニーテールの女の子”美咲ちゃん”はこっちを見た瞬間顔を真っ赤にしていきなり口をパクパクしながら変な声を出していた。
『え、と美咲ちゃん大丈夫?』
『え……あ、はい!大丈夫です!』
いきなり来て硬直するなんて俺のことがそんなに苦手なのかな?
美咲ちゃんは俺に会うたびにいっつもこうなのだ。
口をパクパクさせるのはいつものことなのだが下手したら失神してしまうほどだ。
それを知っている俺は非常に対応しづらい。
俺から話そうとするとダメなのはわかっていても美咲ちゃんからは全然話しかけてくれない。
それどころか、目さえ合わせてくれない。目を合わせようとすると顔を赤くしていつも逸らされる。
う~~ん、ホントに困ったものだ。
俺が対処に困っていると美咲ちゃんがハッ、といきなり我に帰っておばさんを店の奥に引っ張っていきなにかを話しだした。
うん?どうしたんだろう?
少し気になったので耳をすます。
『母ちゃん!!恋士さんが来てるならなんで教えてくれないのよ!!』
美咲ちゃんの怒鳴り声。
う~ん全然聞き取れない。
『そんなの知らないわよ、あんたが店を手伝わないのが悪い』
ビシッとおばさんが美咲ちゃんにそう言う。
美咲ちゃんはう~~、と少し唸っていた。
『ほら美咲、う~う~唸ってないでさっさと店手伝いなさい』
おばさんがそう言うと美咲ちゃんはう~分かったよ~と、いいながらレジの隣に掛けていたー美咲専用のー少しフリルのついたエプロンをつけ始めた。
『美咲ちゃん店の手伝いするんだ偉いね』
そう俺が誉めると美咲ちゃんは
あ、ありがとうございます!と
手を腰の辺りにやりながらモジモジしていた。
そんなポーズをとっていた美咲ちゃんが可愛かったので、
『エプロン姿の美咲ちゃんって可愛いね』
と、もう一度誉めてみた。
すると今度はみるみる美咲ちゃんの顔がカァッとなっていきその場で力が抜けたみたいに下手りこんでしまった。
『み、美咲ちゃん大丈夫!?』
力の抜け切った美咲ちゃんに近付く。
『カ、カワイイなんてそんな…いきなり…。』
熟したリンゴみたいな顔の美咲ちゃんはどこを見ている(?)のか空を見上げながらこっちには聞こえない声でブツブツとその場に下手りこみながら呟いている。
すると、おばさんが、
『恋士君威力強すぎ…』
とおばさんが美咲ちゃんを見つめながら言った。
俺はその意味が全くわからないでいたのだった。
・・・・・・
八百屋で少し世間話をしたあと、食材がまだ足りなかったので他の所で買い物をした。
その時、見知らぬ人とぶつかった。
『……と、ご、ごめんなさい!』
『……いえ、こっちも前をみてなかったですから……』
その人は分厚いフードコートを着ていて顔が確認できない。
だが、多分声からして女性の人だろう。その瞬間彼女はそそくさと横を通りすぎた。でも、その時に彼女は小さな声で言った。
『……それじゃあ、また明日……』
『明日?』
そういうと彼女は振り返らずに走っていってしまった。
『明日…って、どう言うことだろ?』
ぶつかった人に言われたことが気になった。
『……まあ、気にしないでいっか…』
少し考えたけど、きっと気のせいだろうと思いぶつかったことを思い出す。
『…ちゃんと前をみて、歩かなくちゃな…』
俺は少し反省した後、今日の晩御飯のメニューを思い浮かべていた。
ちなみに、今日の晩御飯はカレーライスならぬライスカレーだ。
何故だか我が家ではライスカレーが一般的なのだ。
俺の母さんが言うには、カレーライスはご飯が少なすぎる、だそうなのだ。
俺はどっちも変わらないとは思うのだが母さんが言うので仕方ない。
そんなことを考えながらさっき商店街で買った食材達をビニール袋の中で踊らせながら帰路に着く。
『ただいま~……て言っても誰も居ないか────』
『あら♪お帰りなさい恋士君♪』
台所からひょこっと見知った顔の美人のお姉さんが顔を出してきた。
『みや姉きてたんだ』
『うん、今日は部活ないからね♪』
するとみや姉はトテトテと近寄ってきていきなり俺を抱き締めてきた。
『ちょ、ちょっとみや姉…ワフッ!?』
『あ~~~~やっぱりいいわ~~♪』
ギュ~~~~と抱き締めながらみや姉が嬉しそうに言う。
『今日は朝が早かったから一緒に学校もいけなかったし、恋士君と一緒にお昼食べようと思って教室に行ってもいないし…物凄く寂しかったんだからね』
『……!?』
胸の奥深くに思い出したくもない昼休みの事が頭の中でフィードバックする。
忘れたいはずなのに昼休みの事が頭から離れない。だからと言ってその事を知っているのはコクった俺…降った彼女(藤倉花怜)しか知らない。なのでみや姉はこっちが考えてる事なんかお構い無しにみや姉はだから…と切り出した頃には既に遅かった。みや姉はさっきよりも強く強く抱き締めながら嬉しそうに言った。
『だから今日は私が恋士君のご飯を作りにきたの♪』
『わ、分かったから早く離してよ!!』
俺はこのままじゃ口から出てはいけないものが出てしまうことを悟りみや姉に言った。
『う~~~~恋士君が冷たい…ぐすっ…良いじゃない今日ぐらいは…』
抱き締めるの力を緩めながらみや姉が目に涙をためながら言う。
『今日ぐらいは…て、いっつも俺を抱き締めて来るじゃないか!!』
『テヘ☆』
ペロッと下を出しながら自分の頭に手を置いて言う。
ため息をついている俺にみや姉がニコニコしながら手を合わせながら言った。
『スキンシップはこのぐらいにして、早く恋士君は着替えて来てね。もう料理は用意してるから』
ご飯はみや姉が作っているらしく俺のお腹が悲鳴をあげているので急々と着替えを済ませることにした。
・・・・・・
買い物袋を台所に置き、制服から部屋着に着替えるために部屋に戻った。
『フゥゥゥゥ~~……』
学校鞄をベットの上に投げ、制服のブレザーを脱いでから次にカッターシャツのボタンをはずしていく。
カッターシャツを脱いだらネクタイ、ズボンと順番に脱ぎ、ベットの上に散乱している部屋着を手に取り着ていく。
『あ、そういえばみや姉ご飯もう作ってるんだったな』
今日買ってきた食材達を思い出す。ま、今日買ってきた食材達は明日の晩飯にでも使えばいいか。
それよりもさっきみや姉がいっていたことを再度確認する。
『みや姉なに作ったのかな?』
そういえばお腹が減っていたので聞きそびれていた。
『ま、みや姉の料理だから何でも美味しいからいいんだけど』
みや姉こと椎名雅は俺も在籍している紅葉種付属学園の三年生。料研に所属し、そして料研の現部長。
料研とは、料理研究部の略称で学校の皆がそう呼ぶ。
ちなみに、みや姉の腕は料研の中でもずば抜けており、数々の料理の大会に出場し、優勝するほどだ。
でも、みや姉はまだ私なんてまだまだと自分の料理の腕を過小評価するほどの努力家だ。
そんな性格のためか人脈は多く部員にも慕われていて俺も幼馴染みとしては誇らしいこと限りない訳だ。
『でも、困ることはあるんだよなやっぱり……ハァァ~…』
みや姉は男女問わず人脈が多い。それにファンクラブー主に男子だけどーまでできるほどの人気の高さ。
そんなみや姉の近くにいてしかも手料理まで食べさせてもらっている俺はファンクラブー主に男子だけどーの人達に敵視されている訳だ。
いやね、皆誤解してるみたいだけど俺から料理を作りにきてとは神に誓って一度も言ってないからね!ほんとのホントに…
『みや姉俺が作りに来なくていいって言ってもそれでも作りにくるんだよな…』
一度だけだが、少し前にみや姉に言ったことがある。自分で料理は作れるから大丈夫だと…確かに俺はそう言った。しかし、みや姉はおばさまから恋士君のことを頼まれてるんだから、気にしなくていいの!っとみや姉にダメ出しをくらった。
おばさまとは勿論、俺の母親のことだ。
俺は幼い頃に父親を亡くしている。だから今は母親と二人暮らしなんだけど、うちの母親は今海外のどこかにいる。その理由はうちの母親はCAだからだ。CAはキャビンアテンダントの略称。なのでいつも飛行機での仕事のため、海外などに仕事でしょっちゅう行っていて、今現在も仕事に行っていて留守なのだ。いつ帰ってくるかは分からない。
ま、今も元気にしてるみたいだし心配することはないから、今の一人暮らしには何一つ不便なことはない。
話が脱線気味なので話を戻すと、うちの母親に頼まれたからやっていると言うこと。
ホント、正直な所みや姉がやりたいでやっている、と言っているのでこれ以上は何も言わないことにした。
だって、一人暮らしには何一つ不便なことはないが、一人で飯を食べるのは寂しい。だから、みや姉が家でご飯を作りに来るのは嬉しいことだ。
やっぱり、人間テーブル囲んで飯を一緒に食べた方がいいに決まってる。
そんなことを考えてる内に部屋着に着替えるのが終わった。
『さていくか』
と、自分の部屋の戸を閉め、階段を下りていくのだった…。
・・・・・・
『『いただきます』』
俺とみや姉はほぼ同時に合唱し、飯を食べ始める。
みや姉が作ってくれたのは肉じゃが、鯖の味噌煮、サラダ、豆ご飯、ワカメの味噌汁の五品。
『どう?口にあうかな?』
みや姉が心配そうにこっちを見つめる。
心配しなくても、十分過ぎるほど美味しいのに…と思うが口にはしない。こういうところがみや姉の長所でもあり、短所でもあるからだ。
俺もみや姉のそういうところは嫌いじゃない。
自分を上に見ずに下に見て努力を惜しまない努力家。それが椎名雅ことみや姉なのだ。
俺がそんなことを考えてるとは知りもしないみや姉は俺が返事をしないのが不安なのか今度は弱々しげに聞いてくる。
『やっぱり……美味しくなかったんだ…』
涙ぐむみや姉。
そんなみや姉をみて、俺は返事をしてないことに気付いて直ぐに答える。
『うん、みや姉が作った料理は全然美味しいよ!特にこの肉じゃが…あむ…うん、このお肉とじゃがいもがいい具合に煮込めてて凄くうまいよ!!』
必死に答える恋士。
そんな俺を見たみや姉はさっきの弱々しい表情から一変。ニッコリとヒマワリが咲き誇ったような笑顔をこっちに向けてくる。
『ふふ、よかった、恋士君に誉めてもらえて♪』
『そうかな?』
『うん、恋士君に誉めてもらえるのが一番嬉しいから』
少し赤みがかった頬を両手で押さえながらみや姉が言う。
『まあ、そんなに言ってもらえるならこっちもその…嬉しいよ』
恋士も少し頬をかきながら答える。
『ホントによかった~~とそうだこっちはどうかな?結構自信作なんだよ~~♪』
みや姉は次に鯖の味噌煮がのった皿を手渡しながら聞いてくる。
みや姉が作ったこの鯖の味噌煮は鯖に味噌がよく染み込んでいて凄くうまい。なのでそうみや姉に説明すると今度はありにありすぎる胸を張ってえっへんとみや姉の隣に吹き出しが付きそうなぐらいにみや姉が自信に満ちた様子で口を開く。
『フフン、この鯖の味噌煮はね、今日直ぐにでも恋士君に食べてもらいたくって学校終わってから直ぐにお買い物済ませて、したくしたんだよ』
他のもだけどね♪…と付けたしたみや姉は嬉しそうに自分の作った手料理を美味しそうに口に運んでいく。
『はは、ホントに嬉しいんだね…でもホントこれもこれも全部美味しいよ』
少し恥ずかしかったけど嘘ではないのではっきりと言った。
『これなら、みや姉はどこにでもお嫁に行けるね』
『……!?』
さっきまで自分の作った手料理を美味しそうに口に運んでいたみや姉の箸が止まる。
それに、みるみる内にみや姉の顔が赤みを増しているのがこっちでも確認ができるほどにみや姉は真っ赤になっている。
『れれ、恋士君…いい、今…今なんて言ったの!?』
ガバッとこちらに身を乗り出しながら、みや姉が顔を赤面させながら俺に再度確認をとる。
『み、みや姉いきなりどうしたの?』
『い、いいからさっきなんて言ったかもう一度教えて!!』
さらに追求してくるみや姉。
『わ、分かったから落ち着いて、ね?』
『…うん…分かった…』
ひとまずみや姉を落ち着かせる。
ふぅぅ、と深呼吸をするみや姉。
深呼吸をして落ち着いたところで、もう一度みや姉が俺に問う。
『ねえ、恋士君…さっき…なんて言ったの?』
みや姉が俺の目をまっすぐに見て聞いてくる。
『その…さっき…て、みや姉はお嫁にいつでも行けるって話?』
プシュゥゥゥッとせっかく深呼吸までして落ち着いたみや姉だったが、こっちを見つめ、顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。
『れ、恋士君が…わ、私なら…いつでもおおおお嫁に行ける、だなんて…………』
みや姉は、一人でブツブツと呟き始め、一人の世界に入ってしまった。
『お~~い、みや姉~~?』
みや姉の顔の前で手をブンブンと振る。
それでもみや姉は一人の世界に入ったままで帰ってくる気配がない。
『ダメだこりゃ…』
俺はそう思い、みや姉がせっかく作ってくれた手料理を無げにすることなく、完食した。
『ごちそうさまでした』
手を合わせ合唱。
でも、みや姉は一人の世界から戻ってくる気配が一行にない。
こうなったみや姉は俺にもどうしようもない。
なので、残りのみや姉が作ってくれた手料理を食べることにした。
『フゥゥゥゥ…おいしかった…』
満足と言った顔で恋士は食べ終えた自分の皿をみて、みや姉が戻ってくるのを待つのだった…………。
・・・・・・
二階の角にあるひとつの部屋。
そこにかけてあるプレートには〝れいじ〟とひらがなで書いてある。
そこが、俺の部屋だ。
ドアを開けて、中に入りゆっくりと締める。
『今日も、もう終わりか~~…』
俺は今日ももう終わることを考えながらベットの上にダイブした。
『今日は朝っぱらから、ろくでもないことばっかりだったな…』
朝のことー本日二回目ーを思い出す。
ごめんなさい、そう藤倉花怜に俺の一斉一代の告白を断られた。今日という日のために1ヶ月前から準備した。告白する場所、告白の台詞、告白する時間帯、このすべてを準備したのだ。でも…それも今日キレイさっぱり意味をなくしてしまった。
『…………』
今もまだあのときのことを思い出すと頭の中が真っ白になる。
誰だってそうだろう?
たかが、1日2日で好きになってから告白するのと、一年以上も好きだった人に降られたのでは天と地ほどの差だと俺は思う。
『これから、どうやって学園生活を過ごしていこう…』
俺はこれからのことを悩んだ。
降られても、俺は学園でも彼女を見ることがある。
もし、仮に彼女と鉢合わせしてみろ。お互いに気まず過ぎて会話すらできないだろう。
『これは今後の難問だな……』
と、これからのことを思い悩んでいたその時。
でんでんでんで~ででんでーででん
自分の携帯が壮大なメロディを奏でて着信を知らせる。
『うん?……誰だろ…』
壮大なメロディを奏でている自分の携帯画面を確認せずに出話ボタンを押し、携帯を耳にあてる。
『れいじくぅんこんばんわっちゃ☆』
台詞は可愛いのに声が完全に男声。てか、どう聞いても安彦の声だ。
『………お掛けになった電話は電波の届かないところにあるか電源が入っていないため、掛かりません。ピーとなった発信音の後にメッセージをお入れください…』
俺はふざけた台詞を吐いたこいつに留守録で答えた。
『て、おいおいおいおい、俺だよ!!俺!!』
『……おれおれ詐欺はご遠慮ください』
冷めた声で答える。
俺はそんな安彦が面白かったので、ピーと声を続けて発してみた。
『え…えと、あの恋士君の友達…いや、親友の三条安彦です、はい…て、何言わすんだよお前は』
『…ぷっくく…悪い悪い、でもお前もさっきのはないぞ。正直キモい…』
あるふざけをお互いしていたが、ホントのことは一様言っておく。こいつの為にも…。
『なん、だと…!?』
告げるやいなや、本気で安彦はショックを受けていた。
『…上手くできたと思ったのにな…ぐす…』
『いや、出来てねえよ全然』
即座にツッコミを入れておく。
『で…こんな時間に何のようだ安彦?』
これ以上この話題を続けているとツッコミの乱舞をしなければならなくなるので安彦に電話を掛けてきた理由を聞いてみることにした。時刻はもう9時にさしかろうとしている。いったいこんな時間に何のようがあるのか。恋士はそんな疑問を抱えつつ安彦が答えるのを待った。
『うん?ああ、そうだったそうだった、ショックのあまり忘れてたぜ!!』
がッはッはッは、と笑い声をあげながら言葉を続ける。
『なあ、恋士…今暇か?』
安彦が聞いてくる。
『…まあ、暇っちゃ暇だが…』
正直な話、明日からのことを考えていてもはっきりとした答えがでない。なので、他のことをして気分転換しようと思ったところだ。
『なら、外出てこないか?』
『外?』
ああ、と返事をした安彦が外を見てみな、と言うので外を見てみる。
すると、そこにはさっきからこっちに手を振っている安彦がそこにいた。
『お前そこから電話してたのか…』
窓を開けて、二階から安彦に問いかける。
『そうだ。いいから恋士も早く来いよ!!』
『………しゃあねえな、そこでちょっと待っとけよ』
おう!、と安彦が答えるのを確認してから窓を閉め部屋着から外出着に着替えて、安彦のところにむかうのだった。
・・・・・・
家の近くには公園が一つだけある。
俺たちはどこにいくとも言わずにその公園に来ていた。
公園の名前は枯葉公園。近くには公園がなく、この周辺の子供たちは皆あそんでる。
でも、もう時間は夜の9時を回っているので子供達の姿はどこにもない。あるのは、手を繋いで歩いているカップルとかフォーキングしている人達ぐらいしか見当たらない。
『んじゃとりあえずどっかに座るか』
一歩先に進みだした安彦が辺りをキョロキョロと見つめて、座る場所を探す。
『どっか座るとこねえかなー…と、あったあった』
安彦が座るとこを見つけたらしい。
『お~~い恋士~~ここに座ろうぜ~~』
安彦が指を指す。
『うん?ああ、分かった』
安彦が指を指した場所みる。
そこは公園のはしっこにあるブランコ付きのアスレチックだった。
俺と安彦は何も言わずブランコにこしかけた。
『で、ここまで来てなんのようで俺を呼んだんだ?』
俺は少し不思議に聞いてみる。
『うん?ああ、そうだな…その…お前誰かに振られたろ?』
ブフゥッ!?、と俺は盛大に吹いてしまった。
『かは、かは…何でお前がそれをしってんだよ!!』
『あのな、お前を見てりゃ分かるっての』
安彦は少し自信満々に答えた。
そんな安彦に俺は驚きを隠せなかった。
だってそうだろう?もし俺が分かりやすいんだとしたら、少し不安だ。
『…俺ってそんなに分かりやすいか?』
俺は少し不安気味に聞いてみた。
『いや、大丈夫だと思うぞ、多分俺しか気づいてないと思うし…』
ほっと、胸を撫で下ろす。
『でも…そしたら、何でお前はしってんだよ!!』
俺はなぜこいつが気づいたのかを聞いた。
『たく、だからさっきも言っただろ?お前を見たら分かるって、これでも一様俺はお前の親友だぜ?』
安彦が呆れたように言う。
『…で、恋士さ…このままで良いのか?』
安彦が唐突に少し真剣な眼差しで聞いてくる。
『いや、良いのかって言われても向こうが振った訳だし…俺はどうしようも……』
俺は一言一言言葉を発していくたびにあの悲しみがまた蒸し返していくのに気付く。
『あのな、恋士…これだけは言わせてくれ』
今度は俺の目をみ、一度深呼吸してから真剣に続きを口にする。
『たかが一回振られただけでもう諦めるのか?お前の気持ちはそんなモノだったのかよ』
安彦の言葉は続く。
『もし…もし諦めて新しい恋を見つける…そういう選択肢も良いのかもしれない…だがな、俺はそうは思わない…お前の為にも…それに彼女の為にも…』
安彦が最後に言った言葉はよくわからなかった
けど、前半部分は理解できる…理解はできるんだけど……。
『どうしてお前はそこまで言ってくれるんだ?』
ここまでしてくれる安彦は今までみたことがない。
そのことを安彦に聞いてみた。
すると、安彦は少し戸惑っていたが、口を開く。
『…たく、こういうのは気付くのに…ホント面倒な奴だなお前は……ホントどうしてこんな奴の』
安彦が少しイライラしながら言葉を続ける。
『…とにかくさ、恋士…今の気持ちを諦めないで頑張ってみろよ、な』
安彦はブランコから立ち、俺の前に来て、肩を掴みながら語り続ける。
『でもさ…その…諦めないで頑張った方が良いのかな?』
『当たり前だろう…それともなにか、お前もう他の子に目移りしたのか?』
安彦が笑いながら聞いてくる。
『な!?…バ、バカか!そんなことあるはずねーだろーが!!』
俺は今も残っているこの気持ちにようやく気付いた。
『ふん、ならいいじゃねーか…恋士…お前にもう一度聞くぞ…お前はまだその子のこと…今でも好きか?』
『俺は……─────』
to.be.continued……