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ちけいだちゅひみちゅ基地

爽やかな五月の空、お昼ご飯前のひととき。

ちけいだちゅ幼稚園ではちびっ子蝉たちが先生と一緒におゆうぎをしていた。

「はーいみんな集まってー」

みっちゃん先生の号令に合わせて園児たちが集合する。

「次はこのお歌だよー、って、あ、あれ?なんか少ないぞぉ!」


「諸君、ようこそ我がひみちゅ基地へ」

幼稚園の片隅にある薄暗い体育倉庫。天井近くの小窓から差し込む光が五つの影を照らす。

「我々セミ組の決戦の時がやってきた!」

ふんぞり返って叫ぶのはご存知セミ組の問題児、ちゅるのである。

「にっくきウナギ組のアキを今度こそコテンパンにしてやるんや!」

来るべき戦いに興奮を抑えられず、未発達な複眼がチカチカと赤い光を放つ。


「決戦はいいけどさ」

「なんや、ちぶけん?」

「なんで俺たちまで巻き込むんだよ」

当然の疑問を口にするちぶけん。それに賛同するかのように不安げな表情のかちゅんどがコクコクと頷く。


「あの卑怯なワカメ野郎に対抗するにはお前らの助けが必要なんや」

「でもさー」

「それでは、作戦を説明する!」

「話聞けよ!」


ーーー


まず、かちゅんどがアキをこの基地に誘い込む。

そこにかずこちゃんがやってきてアキに近づく。

アイツはアホやからかずこちゃんのお色気にメロメロになるやろ。

そしたら、ちぶけんが出てきて「俺のオンナになにすんじゃー!」って脅かすんや。

ビビったアキの隙をついてワイが後ろからアキのパンツを下ろす。

ヘッポコワカメ頭のアキはかずこちゃんの目の前でおケツ丸出し。大恥をかくっちゅーわけや。


ーーー


「カーッ、我ながら完璧すぎる作戦や!」

「あのな、ちゅるの。そういう恐喝方法は昔から『美人局』と言ってだな…」

「見てろよアキのヤツ、絶対に泣かせたるからな!」

いでちんの冷静なツッコミをちゅるのは華麗にスルーした。

「まったくー」


「ちょっとぉ」

舌っ足らずの甘い声が二人の話を遮る。

「ちゅるのくん、思いっきり私達の人権無視してない?」

ふくれっ面のかずこの顔を見た途端、ちゅるのの顔がデレっと緩んだ。

「デヘヘ、かずこちゃんは怒った顔もカワイイなぁ☆」

「もう知らない。私、おゆうぎに戻る!」

「落ち着いて、かずこちゃん。せっかくの美人が台無しだよ」

「うふふっ、いでくんったら、こんなところでぇ…」


「こらこらこら、作戦会議中にイチャイチャすんな!」

「ふーんだ、ちゅるのくんなんてキライだもーん」

「ガーン」

肩を落とすちゅるのを放置して四人がおしゃべりを始めた。

「じゃあさ、ここでおゆうぎしちゃおうよ!」

「さんせーい」

「私あの曲が好きー」

「じゃあ僕がリズムをとるね。せーの!」


お・お・きーな・声だしーてー


「出すなーっ!歌うな踊るな騒ぐな!会議中や!静かにせーーーい!」

「ちゅるのくんが一番うるさい」

「なー、もう諦めようよ」

「イヤや!ぜーったいにイヤや!みんなワイの言うこときけーーー!」

バタバタと手足を動かして駄々をこねるちゅるの。

その様子を見ていたいでちんがふっと表情を和らげた。

「まあ、今日のところはちゅるの作戦に付き合うか」

「あ、そうか。今日は…うん、そうだね」

「えーなんでー」

状況が把握できないかずこにかちゅんどがそっと耳打ちする。

「あっ。うーん、しょうがないわね。ちゅるのくん、今日だけだよ」

「おっ、やっとその気になったか!だーっはっは、こうなったら勝利は目前や!アキの野郎、覚悟せーや!」


「ところでちゅるの、アキはいいけどアイツはどうするの?」

「アイツって誰や、ちぶけん」

「カズトだよ」

「ああ、あのブサイクなオッサンか」

「オッサンて…五歳児なんだけど」

アキのそばには必ずカズトがいる。頭脳も喧嘩の強さもちゅるのたちが束になっても敵わない。

さらに彼を強化させているのが取り巻き女子たちの援護だ。

非力ではあるが大人数で一斉に攻撃を仕掛けてくる。まさに数の暴力だ。

「あれは…ちょっと勘弁してほしいな」

彼女たちの恐ろしさを知るかちゅんどが困った顔をする。

「なんであんなヤツがモテるんや。ワイの方が百億万倍カッチョエエわ!」

「ちゅるのくん、ひがんでるー」

「そ、そんなんちゃうわ!」


「で、どうするんだよ」

「ヘヘッ、バッチリ対策は練ってある」

「おーすげー!」

「あの女の子たちはな…」

「うんうん」「早く教えろよ」


「いでちんに、どうにかしてもらう」


「…………はぁ?」

「それだけ?」

「ワイほどやないけどいでちんも結構イケメンや。これで女の子たちをメロメロにさせて…」

「僕にまで色仕掛けをさせるのか!」

「まあそう怒るな。昔から言うやろ『敵を欺くにはまず味方から』って」

「その例え、明らかに間違っているぞ」

「まあまあ、ジョアやるから、な」

「いらないよ!」

いでちんの知性溢れるツッコミは今回もスルーされていく。

「まったくー、ん?」


お昼休みを告げるチャイムが聞こえてきた。

「よっしゃ、まずはお弁当や。それが終わったら作戦開始じゃ!」

「まだ色々ツッコミたいことはあるけど…」

「やっと外に出られるわ。早く行きましょ」

「そうだね」

「お腹へったー」


ちゅるのが勢いよく倉庫の扉を開ける。

「メシやメシ!って、あれっ?こんな高い木、生えとったかいな?」

ちゅるのの全身が大きな影に覆われる。

「あっ」「わっ」「きゃっ」「うぇっ」

「みーつーけーたーぞーーー」

「うわあああっ!」

「みっちゃん先生!」


ちゅるのの首根っこを掴んで顔の高さまで持ってくる。

「ひえっ、高いっ、高いっ!」

「おゆうぎをサボって何をやってたんだ!」

「な、な、な、なんでもないわい!」

「なんでもない、だとぉ?」

みっちゃん先生の視線が降りてきた。

「あ、これは…」「ち、ちがうんです」「えっと…」

うろたえる三人を押しのけてかずこが前に出てきた。

「かずこちゃん、助けてくれー!」

相変わらず先生に持ち上げられてジタバタするちゅるのには目もくれず、かずこはこう言った。


「先生、ちゅるのくん、年長さんとケンカしようとしていまーす」

「うえええっ!」

「私達、ムリヤリ連れて来られただけなんでーす」

「ほう…」


「こ、これはひどい」「流石は小悪魔と呼ばれた三歳児…」

かずこの変わり身の速さにかちゅんどとちぶけんは恐れおののくばかりだ。

「でも…ここは、話を合わせた方がいいかも」

いでちんの言葉に二人が顔を見合わせる。

「そう言われれば」「確かに」


「ちょっ、お前ら!なんか言うてくれー!」

「私達悪くないもんねー、みんな」

「う、うん…」「そう、かな…」

「うわーっ、裏切り者ー!」


「お前らなぁ、全部聞こえてるぞ」

呆れ顔のみっちゃん先生はちゅるのを地面に降ろし、彼らを連れて教室に向かった。

「センセ、違うんや。ワイは、ワイはっ!」

「ちゅるの、お前は大事なことに気がついていない」

「え?」

「ウナギ組のみんなは、今日はいないぞ。ジャイ先生と一緒に音楽会に出るからしばらくお休みだ」

「うゅぇーーっ!?」

「どう発音するんだ、それ」

「くっそー、またしてもアキのヤツに騙された!かちゅんど、ちぶけん、着いてこい!」

突然ちゅるのが走り出す。

「おい、待てよちゅるの!」「それ、騙してないよー」

「もういっぺん作戦を練り直しや。今度こそアイツをおケツ丸出しの刑にしたる!うおおおっ!」


大騒ぎしながら三人は教室に帰って行った。

「ま、今日は未遂に終わったしお説教は無しにしてやるか」

残されたいでちんとかずこが先生に囁く。

「ねぇ、先生」「今朝お願いした件は…」

「ははは、心配するな。ちゃあんと隠しておいたぞ」


「どわああっ!弁当箱の下に変なカードか入っとる!!」


「あら、もう見つけたみたいね」


「は、はっぷばてだーい?よ、読めん!なにが書いてあるんじゃー!」


「ホント、手間のかかるヤツ」

「先生、私達も行ってくるね」

「ああ、ちゃんと祝ってあげるんだぞー」

「はーい」


一人残ったみっちゃん先生もゆっくりと教室に向かう。

「つーかそろそろ仲直りしてくれないかなー。俺だって怖いんだよ、ジャイ先生…」


♪ はっぴーばーすでぃ、でぃあ、ちゅるのくーん

♪ はっぴーばーすでぃ、とぅ、ゆー☆

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