ちけいだちゅ幼稚園
「あ~っ!」
「どちた、ちゅるの?」
ここは蝉っ子たちが集まる「ちけいだちゅ幼稚園」。
お昼のお弁当を食べ終えたちゅるのは食後に持参したジョアを飲もうとしたが、いつのまにかかばんの中から消えてしまっていたのだ。
「かちゅんど~っ!」
「ぼ、僕は取ってないよ!」
「じゃあ、ちぶけんか?」
「俺も違うぞ」
「じゃあ誰や、誰がワイの大事なジョアを取ったんじゃあっ!くっそ~、犯人見つけたら絶対に血ぃ吸うてやる!」
その様子を見ていたいでちんが三人に話しかけた。
「まあまあ、ここは状況を整理してみようじゃないか」
「そうだそうだ」
「さすがいでちん。インテリだなー」
いでちんはコホンと咳払いをひとつして話を進めた。
「まずちゅるの。ジョアは本当にかばんの中に入っていたのか?」
「もちろんや!オカンがワイの目の前で入れてくれたんやから」
「ふむ。で、今日最初にかばんを開けたのは?」
「さっきや。弁当を取り出してここにかばんを置いたんや」
ちゅるのが机の下の床を指差す。
「ワイが飯を食ってる間に二人のうちのどちらかがジョアを取ったんや」
「まって、僕はずっとちゅるのと一緒に食べてたよ。かばんに近づくなんてできないよ」
「じゃあやっぱり…」
「え?俺?」
「ちぶけん、お前がワイのジョアを飲んだんやろ!そやろ!」
「違うっ、誤解だよ!」
「うわ~ん、ワイのジョア返せ~!!」
「やめろ、やめろって!」
ちぶけんの大きな体がゆさゆさと揺れる。いでちんがちゅるのの肩をつかんでそれを制止した。
「まだ彼が犯人と決まったわけじゃない。第一物的証拠がないだろ?」
「ぶってきしょうこ?」
「つまり、ジョアを飲んだのならその容器が残っているはずってことさ」
「そ、そうだよ。俺そんなの持ってないぞ」
「ほな、ジョアの容器はどこに行ったんや?」
「それを見つけることが先決だな」
「よっしゃ」
ちゅるのがしゃがみこんであたりを見渡した。
「みちゅからんなぁ」
教室内をあちこち探し回るちゅるの。その目の前に小さな赤い上履きが姿を現した。
「ちゅるのくん、なにしてるの?」
「かずこちゅわん!」
クラスのマドンナ、かずこがちゅるのを見下ろしていた。彼女の手には今まさにちゅるのが探していたジョアの容器が握られている。
「かずこちゅわん、そのジョア…」
「ん?なんか落ちてたからもらっちゃった」
「落ちてたって、どこに?」
「そこ」
かずこが指差した先には放置されたままのちゅるののかばんがあった。
「もしかして…この中にあったとか…」
「うん」
がっくりと肩を落とすちゅるの。
「かずこちゅわん、それは…落ちてたとは…言わんのや」
「一件落着だな」
「ワイの…ワイのジョアが…」
「どちたの?なんでそんなに落ち込んでるの?」
かずこに罪の意識はまるでない。それがさらにちゅるのを悲しませる。
「かずこちゅわ~~ん…」
「どうした?犯人を見つけたら血ぃ吸うんじゃなかったのか?」
ニヤニヤしながらちぶけんがちゅるのの背中を叩いた。
「う…うぅっ…」
怒りの持って行き場をなくしたちゅるのはしばらくうつむいていたが突然かずこに飛びついてきた。
「きゃっ」
「かずこちゅわん、ワイの大事なジョアを飲むなんてっ。こうなったら血ぃよりエエもん吸うたる!覚悟せい!」
「いやっ、やめてぇちゅるのくぅん!」
「うわっ、お前!」
「俺たちのマドンナになんてことを!」
「うっさい!止めるなぁっ!」
「いや~ん!」
「こらあっ!」
ちゅるのの体が宙に浮いた。彼の首根っこをつかんだのは担任のみっちゃん先生だった。
「ちゅるの~、またお前か!」
「うわっ、なにすんねん!」
「女の子を襲うとはとんでもないやつだ。ほら、ちゃんと謝るんだ!」
「アホ!離せ!」
「まーだわからないのか」
みっちゃん先生がちゅるのの体を軽く左右に振る。
「わ~っ、わかった。ごめんなさい、ごめんなさい~っ!」
「んもうっ、ちゅるのくん嫌いっ」
「なんでこんな目に会わなならんのや!ワイのジョア返せ~っ!」
そのときお昼休み終了のチャイムが鳴った。しぶしぶ自分の席に帰るちゅるの。
「くっそ~、覚えとけ。オトナになったら浴びるほどジョアを飲んでやるからな!ふえ~ん」
めでたち、めでたち。