あたしはネコである
連載にするつもりが、間違って投稿してしまいました。
あまり満足していないので短編向きに手直しするつもりです。
あたしはネコである。
好きな食べ物は焼き魚、お刺身。嫌いな食べ物は酢豚のパイナップル。
そういえば昔言われたことがある。
お前は猫のようだ、と。気紛れな性格も、魚が好物なところも、ネコのようだ、と。
たしかあたしはこう答えただろう。本当は猫に、生まれたかった、と。
あたしはネコである。嘘は言っていない。
あたしの名前は音子
猫そっくりの、人間だ。
学校は動物園だと思う。毎日いろんな顔をした生き物が、教室や廊下で大騒ぎして何かしら問題を起こしている。
飼育委員は獰猛な動物たちを必死でなだめているのだが、都合が悪いときは見て見ぬフリをする。
怪我をしている動物がいるのに気づいていないフリをし、砂煙をあげて動物たちが喧嘩しているのに、見えていないフリをする。
あたしはいつも椅子に座って、鳴いたり吠えたりしている動物たちや、うろたえる飼育委員を観賞している。
平和で、和やかな光景。みんな仲の良いクラス、みんなで協力していく明るいクラス。
そのハリボテの裏で渦巻いている真っ黒な争いを、あたしは傍観する。
猫は群れない。媚びない。いつだってひとり、高い場所にいる。
ひとりで席に座っていると、誰かが聞いてきた。
いつも一人で、人間たちを傍観しているだけでいいのかと。それで寂しくないのかと。
そしてあたしは答えたのだ。別に寂しくないと。ひとりでいることはとても楽だと。
あたしはネコである。
あたしはネコである。
いざこざも、裏切りも、何にも縛られない自由で気ままなネコである。言い聞かせるようにそう唇を動かすと、涙がぽろぽろ零れてきた。
誰かが言った。
きみは人間なんだよと。
孤独は怖い。人間にとって、ひとりぼっちはとてもとても怖いことなんだよと。
違う。
あたしはネコである。
あたしはネコである。
そう言い続けた。ひたすらひたすら言い続けた。それでも涙は次々と溢れてきた。
わかっている。わかっている。まだあたしは人間が怖くて怖くてたまらない。臆病な動物が遠くから仲間をジッと見つめているのと同じだってことぐらい、わかっている。
あたしはネコである。
でもあたしは猫にはなれない。
猫が好きです。
ふらりとやってきてふらりと去っていくあいつらの気紛れなところが好きです。
肉球のぷにょぷにょ感が好きです。
ガラス細工のような綺麗な瞳が好きです。
でも見ていて楽しいのは……やっぱり人間ですかね。