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2.オビをしめますわ

たぶん、歴史上のどこの国の貴族もそうなのだろうが、

貴族の女性は、運動不足になりがちである。


前世であるニホンの――シホより1000年前の平安時代の貴族女性も、家族以外の男性に顔を見せないという風習があり、屋敷から出ず、運動不足だったと聞いた…ような気がする。中学の古典の授業で。

洋の東西を問わず、貴族の娘は家庭外から隠されがちだ。貞淑な姿勢は、婚家の正当な血縁を守るために必要であり、政略結婚に際してミステリアスな存在として評判を上げるためでもあるのだろう。

 そのため、貴族令嬢の運動と言ったら、屋敷内か庭の散歩ぐらいになるのである。


先日の長姉アリシアも、初めての出産に体が耐えられず亡くなった。

この世界は医療が遅れているので、妊娠・出産は命がけである。身体がつよい女性は数人産むこともあるが、命を落とすこともよくある。

 それでも結婚と出産しかマトモに生きる道がないのだ。

女性にも人権や選挙権がもたされ、結婚せずとも働いて自分を養っていけた前世のシホの感覚からすると非常にバカバカしいことだとは思うが、かといって、平民の生活はさらに大変なはずだ。

貴族育ちのヘレナはもちろんのこと、食材はスーパーで買い、栄養状態がよく、安価な薬をすぐ買うことができ、高度な医療が存在し、家電で家のことをしていた「ゲンダイジン」の生活しか知らないシホも、この世界の平民生活は厳しそうな気がする。


ともかく、まずはこの貴族女性ナイズされてしまっている身体を丈夫にすることが急務である。葬儀から領地の城にもどったヘレナはつぶやいた。

「帯を作らなくちゃ」


空手には、まず帯が必要だ。

形から入るとかいう意味ではない。帯や着物の紐は、体を動かすうえで非常に理にかなった仕組みということを、シホは武術ウンチク番組で学んだ。


乳母に頼み、古くなったリネンシーツを分けてもらうことができた。

それを数センチ幅になるまで細くたたんで糸で縫い合わせ、簡易的な帯を作る。

縫うには非常に力が要った。

本物の帯に比べるとペラペラだが、とりあえずはこれで良いだろう。

巻いて締めることが重要なのである。

「帯の巻き方は……」

帯の中心をヘソに当て、胴回りを2周させる。

ヘソの前で交差させ、2周まとめてくくって一度、固結びをする。

それをもう一度、固結びをしたら―――

「完成!」


子ども部屋にそなえつけられた姿見をのぞいてみる。

貴族の子ども用ドレスの上から、つたない手作り帯を巻いた姿は、

子どもがしょうもない遊びをしているようにしか見えない。

でも、とりあえずこれでいい。


「基本のうごきを確認してみましょう」

まず、正座をする。

「な、なつかしい……」

思わず、じ~んと来る。


座礼も取ってみる。

空手には多くの流派がある。基本動作も流派によっていろいろなのだが―――

片手ずつ出して両手を前につき、相手を見たまま礼をする。

ついで片膝ずつ順を追って立ち上がり、

十字を切ってみた。

「押忍!!!」

空手をほぼ知らない人でもなんとなく知っている、有名な挨拶のポーズである。


「そして、結び立ち」

結び立ちは、型を始める前の立ち方である。

両足を閉じてそろえてまっすぐに立ち、両手は体の前でむすぶ。

左手で右手をつかめば、完成である。

「うーん、この静謐なかんじ…落ち着くわ…」

ただの棒立ちかと思いきや、これだけで体の「軸」を整える効果があるらしい。

TVの武術番組で、武道未経験の女性アイドルが結び立ちをし、男性タレントに肩を押されても倒れない――というのを見て感激したシホである。


「あと、四股しこ立ち…できるかしら」

結び立ちから、右足をすすっと開き、腰を落とす。

日本人なら誰もが相撲の「四股」を見たことがあるだろう。

大きな力士がゆったりと四股を踏んでいて、のんきに見えなくもないのだが――

実はとてもキツい動作なのである。

上体を前に倒さないように、背筋をのばして四股を踏んでみてほしい。まあまあプルプルするはずだ。

「それをあの体重でやるんだから、力士は格闘エリートよね」

腰を落としてみた。

まだ幼児の身体なのでサマになっているかは疑問だが、まあ一応、できた。

でも股関節が固い。あぐらを組んだこともないのだ、これから鍛えないと。


「おまえ……なにしてるんだ?」

不意に声をかけられ、ヘレナはぎょっとした。


「えっ!?」

いつのまにか子供部屋の入口に、同じぐらいの年頃の―――見知らぬ男児が立っていた。


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