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1.令嬢、空手始めますわ

5歳のヘレナが前世を思い出したのは、一番上の姉の葬儀でのことだった。

棺に花を入れた時、長姉アリシアの死に顔を見て――――”自分の死に顔のスチル“を、思い出したのである。

 そのスチルは、前世でプレイした乙女ゲームの―――主人公の母親が亡くなる場面のものだった。

 「わたしが…ヒロインのお母さんってこと!?」


 ヘレナは、前世は「ニホン」という国で「カイシャイン」をする女性だった。名前はシホ。

シホは子どもの頃から運動が苦手で、運動会のかけっこはいつもビリ、一輪車も乗れないままだったし、鉄棒の逆上がりはついに1回もできなかった。

思春期の趣味はアニメ、マンガ、ゲームのインドア派。

少年漫画系のアニメが多く放映されていたこともあり、バトル系の少年漫画、そして青年雑誌で武術ウンチク漫画を読んだりするようになった。人気男性アイドルが司会を務める武術のTV番組を見たこともある。

成人してからふと、通勤途中にある「初心者歓迎」「女性歓迎」の看板を掲げた空手教室が目に留まり、通い始めた。

その教室は健康体操が売りのゆるい雰囲気で、部活の体育会系のノリはなく、週1回というゆるゆるペースで続けることができた。

 そんな“ゆる空手”を続けて1年たった頃、自分の身体の変化に気がついた。

 「肩こりが……治ってる………!!!」

 生来の運動オンチ&運動嫌いが災いしてか、シホは中学生の頃からガンコな肩こりに悩まされていたのだ。

 「週に1回1時間、へたくそな型をやってるだけなのに……!!!」

 空手が楽しくなってきて、数年かけて昇級。黒帯を取った日―――――

不慮の事故で、シホは死んだ。


 「ヘレナ?」

自分を呼ぶ声で、はっと我に返る。

振り返ると、すぐ上の姉のグロリアが心配そうに見ていた。

「あ…なんでも、ないの。アリシア姉さまは優しかったなあって、悲しくなっちゃって」

8歳のグロリアは、泣きはらした目をふたたび潤ませて言う。

「そうね…アリシア姉さまは元々身体が弱かったのに…お産だなんてムリだったのよ」

「そう…だったわね」

ヘレナは伯爵家の、8人姉妹の末っ子である。

長姉アリシアは隣領の貴族に嫁いだが、初めての出産が難産となり、このたび帰らぬ人となったのだ。

それほど遠くなかったため、こうしてヘレナたち姉妹も葬儀にかけつけることができた。

といっても次姉、三姉まではすでに他家に嫁いでおり、家にいるのは四姉以下の5名である。また、長姉から四姉までと、五姉からヘレナまでは母親が違う。先妻は四姉を産んだ際に亡くなった。跡継ぎの男子を諦められなかった父伯爵が後妻を取ったのだ。

八女のヘレナが生まれた5年前、ようやく諦めて、娘の誰かに婿を取らせて跡継ぎとすることにしたようである。

ヘレナと同じ茶色の髪を前に傾け、声をひそめて、小声でグロリアが言う。

「私やヘレナもいつかは結婚して、こどもを産まないといけないのよね…」

 

ヘレナは、ヒロインの母親だ。

おそらくこれから15年程度のうちに、自分はヒロインを産むことになり、そのお産で死ぬ。

(あの…ふつうに…

死にたくないんですけど………!!!!)


どうにか、その未来を回避できないだろうか?

まず思いつくのは、結婚そのものの回避である。

貴族の女性に生まれたならば、かならず結婚し、世継ぎを産むことが義務付けられる。

その運命から逃げるには、娼婦か修道女しか道がない。

逃亡して平民になるという手もあるかもしれないが、農業医療治安その他の生活水準が低いため、現世令嬢育ち、前世ゲンダイジンにとっては、平民の生活もなかなか厳しいかもしれない。

さらに、

(結婚や出産から逃げられたとして……)

ヘレナが産む娘―――ヒロインは、ストーリー上で魔物の侵攻から人間世界を救う。

つまり、ヒロインを産まなかった場合、さらに十数年後には世界のほうが滅びるのである。

(回避や世界滅亡については地道に調べていくとして、今からできること……)

それは――――


体を丈夫にすることである!!!


お産をすることになっても、修道院生活や平民逃亡するにしても、まず丈夫な体が必要なのではないだろうか。

黄緑色の瞳をきらめかせ、ヘレナは決意した。


(空手をやろう!!!!!!!)


かくして、5歳の空手令嬢が爆誕した。


初投稿です。まだ勝手がわからず…

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