表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
:『幼馴染の美少女を俺好みに着せ替えたら、学園最強になってしまった件について』  作者: Studio CoMind


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/5

 「200万イェンが一瞬で消える場所。――俺たちが戦う、本当の理由」


 高級焼肉店での祝勝会を終えたその足で、俺たちは学園都市の中央にそびえ立つ『国立魔法大学附属病院』へと向かった。

 夜の病院特有の、静謐で、どこか冷たい消毒液の匂い。

 さっきまでの肉の脂の匂いや、裏通りの鉄錆の匂いとは別世界だ。

「……お会計、210万イェンになります」

 夜間受付の窓口。

 事務的な声と共に提示された請求書を見て、俺は無言でアタッシュケースを開いた。

 裏社会で稼いだばかりの札束。

 そのほとんど全てを、トレイの上に置く。

「……はい、確かに。今月分の『魔力抑制剤』と入院費、これで足りますね」

 受付の女性は、高校生が大金を出したことに一瞬眉を動かしたが、何も聞かなかった。ここでは金が全てだ。

 手元に残ったのは、数枚の紙幣と小銭だけ。

 命懸けで稼いだ金が、電子データ上の数字を減らすためだけに、一瞬で溶けていく。

「……行こう、リコ」

「うん」

 リコは何も言わず、俺の袖をギュッと掴んだ。

 ◇

 病室は、最上階の個室だった。

 『魔力溶解症候群』。

 自身の魔力が体を内側から溶かしていく奇病。周囲への魔力汚染を防ぐため、患者は隔離結界の中で過ごさなければならない。

「母さん。入るよ」

 自動ドアが開き、俺たちは結界の中へと足を踏み入れる。

 ベッドの上、無数の管に繋がれて眠っている女性――相馬そうまサエ。

 かつてはふっくらとしていた頬はこけ、透き通るように白い肌には、病魔の証である紫色の紋様が浮かんでいる。

「……ん、ケイ? それに、リコちゃんも?」

 気配に気づいたのか、母さんがゆっくりと目を開けた。

 その瞳は白く濁りかけている。視力もだいぶ落ちているはずだ。

「おばさん! 起きてて平気なの?」

 さっきまでチンピラを蹴散らしていたリコが、慌てて駆け寄り、壊れ物を扱うような手つきで母さんの背中を支える。

 その表情は、慈愛に満ちた娘のそれだった。

「ふふ、平気よ。今日は調子がいいの。……二人とも、制服じゃないわね。どこかへ行ってきたの?」

 母さんが、リコの着ているチャイナドレス(流石に上から俺のジャケットを羽織らせているが)を見て微笑む。

「あー、これはその……ケイの趣味で……」

「もう、あの子ったら。リコちゃんが可愛いからって、いじめちゃだめよ?」

「いじめてないさ。必要な『検証』だ」

 俺はベッド脇の椅子に腰掛け、母さんの痩せ細った手を握った。

 冷たい。

 魔力が漏れ出し、生命力が削られている証拠だ。

「……ケイ。無理してない?」

 母さんが、見透かしたように言った。

 俺が稼いでいる治療費が、学生のアルバイト程度で賄える額じゃないことくらい、母さんは気づいている。

「私のために、あなたたちの未来を犠牲にしないで。私はもう十分生きたわ。だから……」

「やめてくれ」

 俺は少し強い口調で遮った。

 母さんの言葉が、優しさゆえの諦めであることが、痛いほど分かったからだ。

「俺は、俺のためにやってるんだ。俺が、母さんに生きててほしいんだ。……だから、諦めるなんて言わないでくれ」

「ケイ……」

「それにね、おばさん!」

 リコが明るい声で割り込む。母さんのもう片方の手を、両手で包み込みながら。

「私たちが稼いでるお金なんて、ほんの小遣い銭みたいなもんだから! 私とケイ、学園ですっごい優秀なんだよ? これからもっと稼いで、絶対におばさんを元通りにする薬を買ってくるから!」

 リコの笑顔。

 それは太陽のように、薄暗い病室を照らした。

 嘘でも虚勢でもない。彼女は本気で信じているのだ。俺たちの未来を。

「……そう。リコちゃんが言うなら、本当ね」

 母さんの表情が和らぐ。

「ありがとう。……二人がいてくれて、私は幸せ者ね」

 母さんはそのまま、薬の副作用か、すぐにまた眠りに落ちてしまった。

 寝息は浅く、儚い。

 ◇

 病院からの帰り道。

 星が見えない曇り空の下、俺たちは無言で歩いていた。

 200万イェン払っても、買えたのは「現状維持」の数週間分だけ。

 完治に必要な『聖霊薬エリクサー』は、市場価格で1億イェンを下らない。

 果てしない道のりだ。

「……ねえ、ケイ」

「ん?」

「私、もっと強くなるよ」

 隣を歩くリコが、夜空を見上げながら呟いた。

「もっと強い魔物を倒して、もっとすごいダンジョンに潜って……ケイの計算プランを、全部実現してみせる」

 リコが立ち止まり、俺の方を向く。

 街灯に照らされたその瞳は、昼間のどんな時よりも強く、真剣だった。

「だからさ。ケイは余計な心配しないで。……おばさんは、絶対に死なせないから」

 その言葉に、胸の奥に澱んでいた黒い不安が、少しだけ溶けていくのを感じた。

 俺一人じゃない。

 この最強で最高に優しい「共犯者」がいる限り、俺はどこまでだって足掻ける。

「……ああ。頼りにしてるぞ、リコ」

「任せなさい! ……あ、でも!」

 リコが急に表情を崩し、羽織っていたジャケットの裾をつまんだ。

「次の衣装は、もうちょっと露出控えめでお願いね!? おばさんに変な誤解されちゃうから!」

「善処する。……だが、次の場所は海だぞ? 

「ええーっ!?」

 俺たちは顔を見合わせ、久しぶりに年相応の笑い声を上げた。

 

 重たい現実(荷物)は、二人で持てば半分になる。

 俺たちの戦いは、まだ始まったばかりだ。


「シリアスな二人も良かった!」「リコが健気で可愛い!」

そう思っていただけましたら、

ページ下部(スマホ版)にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】へ、評価をお願いします!

ブックマーク登録もぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ