「裏社会の挨拶(カンフー)は、スリットの深さで決まる」
学園都市『アカデミア』。
表向きは未来ある若者たちが切磋琢磨する輝かしい学び舎だが、光があれば影もある。
正規のルートを通せば、魔石の換金には学園税20%と所得税が引かれる。だが、この『裏通り(ブラックマーケット)』ならば、即金かつ非課税だ。
ただし、治安は最悪だが。
「……ねえケイ。本当にこれで合ってるの?」
ネオンサインがチカチカと明滅する薄暗い路地裏。
隣を歩くリコが、自分のスカートの裾を必死に引っ張りながら抗議の声を上げる。
彼女が着ているのは、鮮烈な深紅のチャイナドレスだ。
絹のように滑らかな生地が、リコの鍛え上げられたボディライン――豊かな胸の隆起からくびれた腰までを、扇情的に描き出している。
だが最大の問題は、そこではない。
「歩くたびに太ももが出るんだけど!? これ、スリット深すぎない!? パンツ見えそうだよ!?」
「安心しろ。計算上、普通に歩いている限りは見えない。走ったり蹴ったりすれば別だが」
「蹴ったら見えちゃうじゃん!」
俺はアタッシュケースを持ち直し、眼鏡を光らせて周囲を一瞥した。
路地の暗がりから、下卑た視線がいくつも突き刺さっている。
「リコ、このエリアを牛耳る裏組織は東方系だ。『郷に入っては郷に従え』。舐められないための正装だと思え」
「絶対ウソだ! ケイが着せたいだけでしょ!?」
「……さあ、買取屋に着いたぞ」
「無視しないでよ!」
◇
換金はスムーズに終わった。
魔境で回収したアンデッドの魔石は質が良く、店主は目を丸くして札束を積んだ。
総額、200万イェン。
高校生が持つには大金すぎる額だ。
「よし。これで当面の活動資金と、今夜の焼肉代は確保できたな」
店を出て、札束の入ったアタッシュケースを軽く叩く。
時刻は19時。予約した高級焼肉店まであと30分。
「んじゃ、さっさと行こうよ! お腹空いて背中とくっつきそう!」
「ああ。だがその前に――」
俺が足を止めると同時に、路地の前後からゾロゾロと男たちが湧いて出た。
柄の悪い半グレ集団。手には鉄パイプやバタフライナイフ。
典型的な、カモを狙うハイエナたちだ。
「よう、兄ちゃん。景気良さそうじゃねえか」
リーダー格らしき、ピアスまみれの男がニヤニヤしながら近づいてくる。
その視線は、俺のアタッシュケースと、リコの太ももを往復していた。
「この辺じゃ見かけない顔だな。通行料、払ってもらおうか? その鞄の中身、全部な」
「……」
「おっと、そっちの姉ちゃんは『現物支給』でもいいぜ? すっげえイイ足してんねえ。俺たちと遊ぼうぜ、ヒャハハ!」
下卑た笑い声が路地に響く。
リコが「うわぁ……」と露骨に嫌そうな顔をする。
俺は懐中時計を取り出し、時間を確認した。
「……やれやれ。焼肉の予約時間に遅れるな」
「あ? 何言ってんだテメェ、状況分かって――」
「リコ」
俺が短く名を呼ぶと、リコはため息をついて一歩前に出た。
「あのさぁ。私たち、今から特上カルビ食べに行くの。邪魔しないでくれる?」
「ハッ! 女が粋がってんじゃねえぞ! 教育してやるよ!」
ピアス男がナイフを構え、リコに襲いかかる。
距離はわずか2メートル。
だが。
「――遅い」
ヒュンッ!!
風を切る音が鋭く鳴った。
次の瞬間、ピアス男の体が「くの字」に折れ曲がり、後方のゴミ箱まで弾丸のように吹き飛んだ。
ガシャアァァン!!
「あ?」
残りの男たちが目を点にする。
リコの右脚は、頭上の高さまで美しく振り上げられていた。
深紅のチャイナドレスのスリットが大胆に割れ、白磁のような太ももと、黒いレースの下着(俺の趣味だ)が一瞬だけ露わになる。
「な、なんだ今の蹴り!? 早すぎて見えなかっ――」
「次!」
リコが地面を蹴る。
脚の可動域を一切阻害しないチャイナドレスのそのスリットこそが、リコの『身体強化』と噛み合い、最強の殺傷力を生む。
ドゴッ! バキッ! ズドン!
「ぐあぁっ!?」
「あ、足がァァッ!?」
旋風脚。回し蹴り。踵落とし。
リコが舞うたびに、チャイナドレスの裾が翻り、男たちがピンボールのように壁に叩きつけられていく。
それは暴力というより、一つの演舞だった。
エロティックで、かつ圧倒的に強い。
「あー、1、2、3……うん、足りてるな」
俺は戦闘など我関せず、アタッシュケースの中身を確認していた。
数秒後。
路地には、呻き声を上げて転がる男たちの山が出来上がっていた。
「ふぅ。こんなもん?」
リコが乱れた前髪をかき上げ、チャイナドレスの裾をパンパンと払う。
その姿に、唯一意識のあったチンピラの一人が、震えながら後ずさる。
「ば、化け物……! お前ら一体何なんだよ……!」
「ただの通りすがりの学生ですよ」
俺は男の前にしゃがみ込み、彼の懐から財布を抜き取った。
「これは『迷惑料』として頂きますね。服が汚れるリスクを負わせた罪は重いですよ?」
「ひぃぃぃ! す、すいませんでしたぁぁ!」
男は額を地面に擦り付けて土下座した。
俺は満足気に頷き、リコの方へ向き直る。
「行くぞリコ。予約時間の5分前だ。完璧なタイムスケジュールだ」
「もー! 結局私が全部やったじゃん! お肉、5人前追加ね!」
◇
数十分後。
学園都市でも指折りの高級焼肉店『牛王』の個室。
「ん~っ! おいし~っ!!」
リコが極上の霜降り肉を頬張り、幸せそうに身をよじる。
その格好は、相変わらず深紅のチャイナドレスだ。
個室とはいえ、店員が料理を運んでくるたびに、リコの胸元や太ももを二度見して赤面していくのが面白い。
「でもさケイ。やっぱり着替えてくればよかったよ。油跳ねたらどうすんのこれ」
「問題ない」
俺は真顔で、店備え付けの紙エプロンをリコの首に巻いてやった。
セクシーなチャイナドレスに、安っぽい『牛王』ロゴ入り紙エプロン。
このアンバランスさが、またいい。
「それに、そのドレスには『防汚加工』の付与もしてある。タレがこぼれても弾く仕様だ」
「無駄に高機能!? ……あ、はい、あーん」
リコが焼けた肉をサンチュに包み、俺の口元に差し出してくる。
俺はため息をつきつつ、それを口に含んだ。
美味い。肉もだが、状況が美味い。
「……次は、もう少し動きやすい服がいいな」
「そうか。じゃあ次は『忍装束』あたりを検討しよう。網タイツのな」
「また趣味全開じゃん!!」
騒がしい夜は更けていく。
この時の俺たちはまだ知らなかった。
「チャイナドレスのリコ最高!」「ざまぁスカッとした!」「続きが読みたい!」
少しでもそう思っていただけましたら、
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