「Fランクの『着せ替え係』と笑われたので、幼馴染を暗殺者(アサシン)にしてみた」
「おいおい、嘘だろ? こいつらが『特待生』扱いだって?」
学園の初日。
配属された1年Sクラス(特進科)の教室は、俺たちが入室した瞬間、嘲笑の空気に包まれた。
原因は単純だ。
俺とリコが、入学試験のスコアを意図的に調整したからだ。
生徒会長・東雲葵の計らいでSクラス入りしたが、表向きの数値は平凡そのもの。
「『身体強化』しか能がない筋肉女に、『衣装付与』とかいう家庭科レベルの男……。なんで俺たち名門の席に、こんなゴミが混ざってるんだ?」
机に足を乗せて絡んできたのは、西園寺レオ。
大手魔導具メーカーの御曹司で、炎属性の上級ギフト持ちだ。取り巻きたちが追従してゲラゲラと笑う。
「……ねえケイ。私、ちょっと殴っていい?」
隣でリコが拳を震わせている。
だが、俺は冷静に彼女の肩を掴んだ。
「待て。ここで暴れたら退学だ。俺たちの『目的』を忘れたか?」
その言葉に、リコが唇を噛んで俯く。
そうだ。俺たちは、感情任せに動くわけにはいかない。
俺たちには、這いつくばってでも金を稼がなければならない理由がある。
◇
――2年前の、あの冬の日。
俺の世界は一度、崩れ落ちた。
女手一つで俺を育ててくれた母さんが、突如として倒れたのだ。
病名は『魔力溶解症候群』。
体内の魔力回路が自身を蝕む難病で、治療には希少なエリクサーが必要だった。
その額、一億円。
高校生に払える額じゃない。絶望で目の前が真っ暗になった俺の手を、強く握りしめたのがリコだった。
『私が稼ぐよ』
病院の白い廊下で、リコは泣きそうな顔の俺に、力強く告げた。
『私は頭悪いし、難しいことは分かんない。でも、体は丈夫だから。ハンターになって、魔物をいっぱい倒して、絶対におばさんを助ける』
『リコ……お前には関係ないだろ。命を懸けることになるんだぞ』
『関係あるよ! ケイのお母さんは、私のお母さんみたいなもんだもん! ……それに』
リコは少し顔を赤らめて、俺の目をまっすぐに見た。
『ケイが悲しむ顔、見たくない。ケイにはずっと、私の隣で冷静ぶってカッコつけててほしいの』
その時、俺は誓ったのだ。
俺の全ての知略とギフトを使って、彼女を世界最強のハンターにすると。
これは俺たちの、命を懸けた共犯関係だ。
◇
「おい無視すんなよ、貧乏人」
回想から引き戻されたのは、西園寺の放った炎弾が、俺の頬をかすめたからだった。
ジュッ、と髪が焦げる匂いがする。
「ケイ!」
リコが叫ぶ。
「……あーあ。つまんねえ反応。おい筋肉女、俺の靴を舐めたら許してやるよ。お似合いだろ?」
教室が静まり返る。
リコが悔しさに涙目になりながら、それでも俺のために耐えようと膝を屈しかけた――その瞬間。
俺の中で、何かが切れた。
「……リコ。立て」
「え? でも……」
「退学にはならないさ。正当防衛だ」
俺は眼鏡を外し、胸ポケットにしまう。
俺の母を侮辱されるより、俺のために耐えようとするリコの姿を見る方が、一億倍腹が立つ。
「西園寺、だったか。模擬戦だ。負けた方が相手の言いなりになる。それでどうだ?」
「ハッ! 雑魚が吠えやがって。いいぜ、その女諸共消し炭にしてやる!」
実習室、結界が働いている中向き合っている。
西園寺が全身に紅蓮の炎を纏い、Sランク級の魔力を練り上げる。
対するリコは、制服姿のままおろおろしている。
「ケ、ケイ! どうするの!? あんな高火力、私の『身体強化』じゃ近づく前に燃え尽きちゃうよ!」
「問題ない。……リコ、俺を信じろ」
俺はリコの背中に手を当てた。
今回は「変身」のエフェクトを見せるわけにはいかない。
だから――『インナー』を変える。
「展開――『影縫いのレオタード』」
魔力は制服の下、リコの肌に直接作用した。
今、彼女の下着は魔力構成された漆黒のボンテージ・スーツに置換されている。
機能は『気配遮断』と『超加速』。
「ひゃうっ!? な、なんか制服の下がすごい締め付けられて……スースーする!?」
「我慢しろ。そのスーツは摩擦係数をゼロにする。今のリコは、炎の揺らぎよりも速い」
「死ねオラァ!!」
西園寺が極大の火球を放つ。教室を焼き尽くすほどの熱量。
だが。
「行け」
俺が囁いた瞬間。
ヒュン。
風すら起きなかった。
「は?」
西園寺が間の抜けた声を出す。
目の前にいたはずのリコが消え、放った火球は何もない空間を通り過ぎて壁に衝突した。
「ここだよ」
冷ややかな声は、西園寺の背後から聞こえた。
リコが、西園寺の首筋に手刀を突きつけていた。
制服のスカートがふわりと遅れて揺れる。それほどの神速。
「な、いつの間に……!?」
「ケイが言った通りだもん。『炎の揺らぎより速い』って」
リコは、俺に向けられた信頼と同じ強さで、西園寺を見下ろした。
「あんたがどんなにすごくても関係ない。ケイが私をデザイン(プロデュース)する限り、私は誰にも負けないから」
ドンッ!
軽いデコピン一発。それだけで西園寺は吹き飛び、黒板にめり込んで気絶した。
静寂。そして、クラス中から湧き上がる驚愕と畏怖の視線。
「……はぁ。やりすぎだ、リコ」
「だって! ケイのこと馬鹿にするから!」
◇
放課後。
夕焼けに染まる屋上で、俺とリコは二人並んでフェンスにもたれていた。
騒ぎは生徒会長の一言で不問となった。
「……ごめんね、ケイ。初日から目立っちゃった」
「まあ、必要なデモンストレーションだったと思おう。これで変な虫もつかない」
俺が苦笑すると、リコがもじもじと制服の胸元を抑えた。
「で、でもさ……この『影縫いのレオタード』いつ消してくれるの? ずっと着てるの恥ずかしいんだけど……」
「あー、忘れてた」
嘘だ。
実は、制服の下で恥じらうリコの表情が可愛すぎて、解除するのを惜しんでいただけだ。
「……リコ」
「ん?」
「ありがとうな。あの時、俺のために怒ってくれて」
俺の言葉に、リコはきょとんとした後、夕陽よりも赤く頬を染めて、ふわりと笑った。
「当たり前でしょ。私たちは『共犯者』なんだから」
リコの手が、そっと俺の手に重なる。
柔らかくて、でも剣ダコのある、戦う少女の手。
「絶対に、おばさんを助けようね。……それと、」
「それと?」
「私のこと、世界一可愛くて強いお嫁さんにしてくれなきゃ、許さないんだからね」
最後の方は蚊の鳴くような声だったが、俺の耳には痛いほどはっきりと届いた。
心臓が早鐘を打つ。
分析するまでもない。俺の心拍数は、完全に許容範囲を超えていた。
「……善処する」
「もう! そこは『はい』でしょ!」
夕陽の中、俺たちは笑い合った。
1億まで遥か遠い目標。
だが、この最強で可愛いパートナーがいれば、不可能なことなど何一つない気がした。
俺たちの「カネ」と「恋」をかけた戦いは、まだ始まったばかりだ。
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