「遅刻しそうなので、ちょっと本気出します」
「おいケイ! 急がないとマジで遅刻するってば!」
春の陽気が降り注ぐ通学路。
桜並木を切り裂くようにして、俺の幼馴染――夏目リコが駆け抜けていく。
輝くような明るい茶髪のショートカット。制服のスカートを翻し、健康的な太ももを惜しげもなく晒して走る姿は、まさに『活発系美少女』の具現化だ。
「リコ、落ち着け。今のペースなら、試験開始の15分前には到着する。心拍数を無駄に上げるな」
「あんたが冷静すぎるのよ! 今日は『ギフテッド・ハイスクール』の入学試験だよ!? 人生かかってるんだから!」
俺、相馬ケイは、眼鏡の位置を指先で直しながら、ため息をついた。
俺たちの目標は、この国最高峰の能力者育成機関に入学し、最短でプロハンターのライセンスを取得すること。
そして、重病の母さんの治療費を稼ぐために、億単位の金を稼ぐことだ。
だが、俺たちの焦りは、凡人のそれとは少し違う。
「……ねえケイ。もし合格したらさ、約束通り焼肉奢ってよね?」
「ああ。特上のカルビを腹一杯食わせてやる」
「やった! ケイ大好き!」
無邪気に笑うリコ。
俺はこの笑顔を守るためなら、悪魔に魂を売ってもいいと思っている。
いや、実際には魂ではなく、もっと別のものをリコに捧げさせているわけだが。
その時だった。
ズゥゥゥゥゥゥン……!!
突如、空間が歪むような重低音が響き渡り、俺たちの目の前――学園へと続く大橋の中央で、アスファルトが爆散した。
噴き上がる黒煙。周囲の受験生たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
「な、なんだあれ……!?」
「『ゲート』の自然発生……いや、災害級か」
黒煙の中から姿を現したのは、全長10メートルを超える巨体。
全身が黒い金属質の鱗に覆われた、二足歩行の竜――『鉄甲竜』だ。
本来なら、プロのハンターが小隊を組んで挑むレベルの化け物である。
「うわ、マジかよ……試験前にこんなのと戦うの?」
リコが顔を引きつらせるが、その瞳に恐怖の色はない。あるのは「面倒くさい」という感情だけだ。
俺は腕時計を確認した。
現在時刻、8時45分。
迂回ルートを使えば30分のロス。試験には確実に遅刻する。
「……リコ」
「ん?」
「迂回は却下だ。突破するぞ」
「ええー……このまま行ったら制服ボロボロになるじゃん。私のギフト『身体強化』だけじゃ、あの鱗を殴ったら手が痛いし」
リコのギフトは単純な『身体強化』だ。
素の身体能力は高いが、鉄甲竜のような「物理耐性」の塊みたいな相手とは相性が悪い。普通の受験生なら、ここで詰んでいる。
だが、俺がいる。
「リコ。俺のギフトを使う」
「えっ、ここで!? 人目あるよ!?」
「背に腹は代えられない。それに、通常装備で戦っていたら時間がかかりすぎる。……『最速』で終わらせるぞ」
俺は眼鏡の奥の瞳を細め、リコの全身をスキャンした。
骨格、筋肉の張り、今のバイタル、そして恥じらいによる体温の上昇。
全てを理解する。
俺のギフトは『衣装付与』。
俺が深く理解した人間に、魔力で織り上げた「概念武装」を着せる能力。
理解度が深ければ深いほど、その衣装は強大な力を発揮する。そして俺は、リコの身体のホクロの数まで知っている。
「い、いいけど……! 今日はどんなやつ!? また変なコンセプトじゃないでしょうね!?」
「安心しろ。相手は硬い。だから『貫通力』と『瞬発力』に特化した。空気抵抗を極限まで減らし、魔力伝導率を最大化したデザインだ」
もっともらしい理屈を並べる。
嘘ではない。嘘ではないが――俺の趣味が9割だとは言わないでおこう。
「いくぞ、リコ」
「もうっ、ケイのえっち! 信じてるからね!」
俺は指を鳴らした。
「――展開」
カッ! とリコの身体が光に包まれる。
制服が魔力の粒子となって霧散し、瞬時に新たな衣装が再構築される。
光が収まった時、そこに立っていたのは、一人の『聖騎士』だった。
ただし。
白銀の甲冑は肩と腕、そして太ももの一部を守るのみ。
胴体部分は、肌にぴったりと吸い付くような白のハイレグ・レオタード。
その上から、腰のラインが丸わかりになるほど深いスリットが入った、半透明の聖布が揺らめいている。
防御力? 知らない。
重要なのは、リコの鍛え上げられた肢体美と、絶対領域の輝きだ。
そして、その背中には光の翼が生えている。
「ちょ、ちょっとケイ!? これ、お尻のラインですぎじゃない!? スースーするんだけど!!」
顔を真っ赤にして抗議するリコ。
だが、その身体からは、先ほどとは比較にならないほどの膨大な魔力が溢れ出している。
「『聖騎士・ヴァルキリーモード』だ。その布面積の少なさは、魔力放出の効率化のためだ。……似合ってるぞ、リコ」
「うぅ……ケイにそう言われると、断れないじゃん……バカ!」
リコが覚悟を決めたように前を向く。
その瞬間、彼女の雰囲気は「可愛い幼馴染」から「戦場の女神」へと変貌した。
鉄甲竜が咆哮と共に、丸太のような腕を振り下ろす。
だが。
「――遅い」
ドンッ!!
足元のコンクリートが踏み込みだけで陥没した。
次の瞬間、リコの姿は消えていた。いや、速すぎて目視できない。
すれ違いざま、リコの右脚が閃光のように跳ね上がる。
レオタード越しに引き締まった臀部の筋肉が躍動し、白銀のブーツが鉄甲竜の顎を捉えた。
ドゴォォォォォォン!!
たった一撃。
物理攻撃を弾くはずの鉄甲竜の首が、ありえない方向にねじ曲がり、巨体が宙を舞った。
そのまま橋の向こう側、川の中へと豪快に吹き飛んでいく。
轟音。そして静寂。
リコがふわりと着地する。
深いスリットから覗く白い美脚が、朝日に照らされて神々しいほどだ。
「……ふぅ。こんなもん?」
リコが振り返る。
周囲の受験生たちは、口をあんぐりと開けて固まっていた。
「解除」
俺はすぐに指を鳴らし、衣装を元の制服に戻す。
リコが慌ててスカートの裾を直しながら駆け寄ってきた。
「もー! あんなの皆に見られたじゃん!」
「一瞬だ。誰も認識できてない」
「そういう問題じゃないの! ……でも、強かったでしょ?」
「ああ。最高だった」
俺が頭をポンポンと撫でると、リコは「えへへ」と嬉しそうに目を細めた。
チョロい。そして可愛い。
俺たちは何食わぬ顔で、呆然とする群衆の中を歩き出した。
――だが。
俺たちは気づいていなかった。
その様子を、はるか頭上、校舎の屋上から見下ろしている人物がいることを。
「……面白い」
学園の絶対王者。
かつては無能と呼ばれ、今や伝説となった生徒会長――東雲葵だ。
彼女は長い黒髪を風になびかせ、手すりに肘をついて笑みを浮かべていた。
その瞳は、逃げ惑う生徒たちではなく、平然と歩く俺たち二人だけを捉えている。
「魔力を『衣装』という形で最適化する参謀に、それを躊躇なく受け入れて出力する筋肉。……あれは、相当な『信頼』がないと成立しない術式ね」
葵は楽しそうに目を細める。
「今年の1年は、退屈しなくて済みそう」
◇
「受験番号401番、相馬ケイ。402番、夏目リコ。……遅刻だぞ」
試験会場の受付。
強面の教師が俺たちを見下ろしていた。
到着時刻は9時01分。わずか1分の遅刻。
「すみません、途中で事故があって……」
「言い訳は無用だ。時間は絶対――」
「通してあげなさい」
凛とした声が響き渡る。
会場の空気が一変した。
教師たちが慌てて頭を下げるその先から、一人の女子生徒が歩いてくる。
東雲葵、その人だ。
「せ、生徒会長……しかし」
「橋での騒ぎ、報告は入っています。彼らは避難誘導に協力していて遅れた……そうね?」
葵が俺を見て、いたずらっぽくウインクをした。
……全部見られていたか。
俺は内心で舌打ちをしつつ、表面上は殊勝な態度で頭を下げる。
「はい。その通りです」
「よろしい。特例で入室を認めます。……ただし」
葵は俺とリコの横を通り過ぎざま、俺だけに聞こえる声で囁いた。
「(……次は、もっと可愛い服を見せてね? プロデューサーくん)」
俺は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
リコは何も気づかず、「やったねケイ! ラッキー!」と小声ではしゃいでいる。
「……ああ、そうだな」
どうやら俺たちの「実力を隠して平穏に稼ぐ」という計画は、入学初日から前途多難らしい。
だがまあ、いい。
リコが最強で最高に可愛いことだけは、俺が証明し続けてやる。
「行くぞリコ。実技試験、手加減して『Bランク』くらいを狙うぞ」
「りょーかい! ……でもさ、さっきの服、実はちょっと気に入ってたかも」
「……そうか。なら、次はバニーガール要素を入れてみるか」
「それは却下!!」
騒がしい俺たちの、最強の高校生活が幕を開ける。
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