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第97話 出発――刻印の砂海へ

蒼紋都市の朝は、昨夜の戦闘の影響で荒れていた。


崩れた建物、焦げた石畳、散乱する破片。

けれどその中で――


人々の視線はミナたちを追っていた。


恐れではなく。

ざわめきでもなく。


覚悟と期待の目で。


ギルドの門前に立つと、職員が深く頭を下げる。


「ミナ・シュメール様……

あなた方の旅路に“都市承認”が下りました。」


ラウルが顎を上げる。


「都市承認? なんだそりゃ。」


職員は震えながら答える。


「――この街は、あなた方を“脅威ではなく、守る者”と認めたという証です。」


リアが小さく微笑む。


「……そう。

これで背中を撃たれる危険性は少し減りました。」


ミナは胸に手を当てる。


(守るって……こういうことなんだ。)


カイルは短く言った。


「行くぞ。」


四人は門を越え、荒野へ踏み出す。


◆道中――風と砂の知らせ


乾いた道を歩き、砂色の地平線が広がる。


遠くには――砂嵐。

その向こうに、黒い塔のような影。


リアが地図を確認する。


「刻印の砂海――

古代文明が滅びた後、文明の残骸と呪いが残った場所。

普通の冒険者は近づかない。」


ラウルが鼻を鳴らす。


「普通じゃねぇから問題ない。」


ミナが小さく笑うと――

カイルが横目で見て问う。


「……怖くないのか。」


ミナは少しだけ考えて、答えた。


「怖いよ。

でもね――

“逃げなかった自分”を嫌いになりたくない。」


カイルの瞳が微かに柔らぐ。


「なら、俺が支える。」


ミナは微笑む。


「――ありがとう。」


その瞬間、砂が揺れる。


リアが即座に杖を構える。


「来る……!」


◆奇襲戦① ――砂蛇魔サンド・ヴァイパー


砂の中から巨大な影。


――ガァァアアアッ!!!!


毒牙、耐熱鱗、速度は矢のごとく。


ラウルが拳を鳴らし吠える。


「今度は最初から全力!!!

かかってこい砂トカゲ!!!」


拳と牙が衝突――


ドゴォォォン!!!!


ラウルの拳が蛇の顎をへし折り、砂煙が舞い上がる。


ミナが意識を伸ばす。


(まだ……他にもいる……!)


カイルが剣を抜き、振るう。


「斬り捨てる。」


砂から現れる二体目、三体目――

しかしそのすべてがカイルの軌跡に触れる前に分断されて落ちる。


リアは広域魔法陣を展開。


「結界・封呪――《鎮砂シール・サンド》!」


砂が静まり、生き物の気配が消える。


ミナが息を吐く。


「……終わった?」


リアは首を振る。


「いいえ。

これは“警告”。

本番はまだ先。」


◆砂海へ入る前夜――焚き火の時間


日が暮れ、空が深紅に染まる。


四人は小さな焚き火を囲む。


肉とパンと、香りの強い野草スープ。

いつもより静かな食事。


ラウルが火ばさみを回しながらぼそりと言った。


「なあカイル。

お前、昨日の戦い――“まだ余裕”あったろ。」


ミナが驚き、リアはただ黙って聞く。


カイルは少し考え、答えた。


「……あいつは“試す者”。

“殺す者”ではなかった。」


リアが続ける。


「でも次は違う。

砂海の奥にいるのは――

“奪う者”。」


ミナの指先が震える。


(奪う……

また……。)


だが次の瞬間、

カイルの手がミナの手に重ねられる。


温かい。

静かで、確かな力。


「奪わせない。

世界が敵になっても。」


ラウルが笑う。


「当たり前だろ。

俺らは選んで一緒にいる仲間だ。」


リアも優しく言う。


「ミナ。

あなたは守られる存在じゃなく、

選ばれる存在なんですよ。」


ミナの胸が熱くなる。


火がぱちりと弾けた。


◆夜――視線


みんなが眠りについたころ。


ミナだけが目を開けていた。


風が吹く。

砂が揺れる。


――気配。


遠く、砂丘の上。

黒い影が立っていた。


仮面。

冷たい瞳。


ミナが見ていることに気づくと、その影はゆっくり右手を上げた。


拒絶でも、脅しでもない。


――招待の仕草。


そして砂煙のように消えた。


ミナは静かに呟く。


「……行くよ。

この先に――わたしの答えがある。」


砂海の向こう。

運命が待つ場所へ。


──第98話へ続く

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