第93話 夜襲――狙われるのではなく、狩られる側へ
夜。
蒼紋都市、宿の屋上。
ミナは夜風に当たりながら空を見ていた。
戦いは終わったはずなのに、胸の奥は静かに熱い。
(カイルが戦う姿、見た。
あれは……守るためじゃなく“共に進むため”の戦い。)
胸が、誇らしく、少し痛い。
足音。
振り向くと、カイルが隣に立っていた。
「眠れないか。」
「……うん。」
風が二人の間を通り抜ける。
言葉はなくても、それで十分だった。
――その瞬間。
空気が裂けた。
リアの叫びが響く。
「ミナ!! 敵襲!!」
闇の穴――転移陣が三つ、四つ、五つ……
次々と開く。
フードの影、武装兵、魔術暗殺者――数十。
そして全員が、ミナだけを見た。
ラウルが屋根を飛び越え叫ぶ。
「数おかしいだろ!?
何来てんだよこれ軍勢じゃねえか!!!」
カイルは剣を抜き――
声ではなく“殺気”で敵を止める。
◆戦闘開始――囲まれたのではなく“選ばれた”
敵兵が一斉に突撃。
だがカイルの剣が最前列を薙ぐ。
斬撃の軌跡は音を置き去りにし――
五人が同時に倒れる。
リアが詠唱。
「拘束呪文・四界結界――展開!」
地面から魔力の鎖が伸び、暗殺者十名をまとめて縛りあげる。
しかし――後方から別の術式が横から刺す。
「妨害術式――“静寂”」
リアの口から声が奪われる。
ラウルが地面を蹴り、拳を叩き込む。
「黙らせんじゃねぇよ!!」
地面ごと敵が吹き飛ぶ。
しかし――さらに増援。
闇の門が追加で開き、さらに十、二十。
完全に包囲。
ミナの心臓が跳ねる。
(……これは、“奪いに来た”戦い。)
◆ミナ、行動
敵の一人が叫ぶ。
「独立者を確保しろ! 死亡は不可!!」
その言葉が決定的だった。
――“殺しに来た”のではない。
“持ち帰るための戦い”だ。
ミナは一歩前へ出る。
リア(口が封じられながら)
「――!!!(止まって!!)」
カイル「前に出るな。」
しかしミナは答えた。
「前に出ないと守られるだけ。
戦うって決めたの。
自分の意思で生きるって決めたから。」
その瞬間、ミナの魔力が立ち昇る。
ただの共鳴ではない。
**“戦闘適応”**という形で。
敵兵が動いた瞬間――
世界がわずかに遅くなる。
ミナは息を吐き――囁く。
「……あなたたち、怖いんだね。」
敵の動きが崩れた。
恐怖・焦燥・義務・命令――
ミナが触れたのは“心理の根”だった。
敵の反応速度が半分以下に落ちる。
リアが目を見開く。
(……これは……干渉じゃない。
制御でも支配でもない……
共鳴による認知阻害……?)
カイルが前へ躍り出る。
「ミナ。
そのまま俺が斬る。」
◆カイル、第二形態
刃が唸る。
今までは守る剣。
だが今は――
“狙いを奪うための剣”。
斬撃は急所ではなく――
武器と戦意を削ぐ最適軌道で走る。
五撃。
七撃。
十撃。
敵は倒れない。
ただ――
戦えなくなる。
敵兵たちが恐怖で後退する。
◆戦闘終局――指揮官の出現
すべての敵が退いた――わけではない。
最後に残ったのは一人。
黒い仮面。
魔力が濁り、空気が歪む。
声は低く、機械のよう。
「確認完了。
能力値:想定以上。
――よって次段階へ移行。」
ミナが警戒する。
「次段階……?」
仮面の男が宣告する。
「――奪う対象を“交渉”から“捕獲”へ変更。」
刹那。
男の背から、
黒い翼のような魔力が広がった。
ラウルが叫ぶ。
「おい待て。
こいつ……ただの兵じゃねえ!」
リアが震えた声で断言する。
「違う……これは――
“英雄殺し(ブレイカー・ランク)”」
ミナの喉が鳴る。
(これが……次の敵……!)
仮面の男が刃を抜き――
「対象――ミナ・シュメール。
今より“強制回収”を開始する。」
カイルが前に立った。
剣を構え、静かに言う。
「来い。」
夜風が止まる。
世界が――闘いの音を待つ。
──第94話へ続く




