第92話 刃が語る価値――“試す者”の来訪
蒼紋都市の中心広場。
ミナの試練が終わり、人々が去り始めた――その時。
空気が変わった。
鳥が飛び立ち、地面の魔導式が微かに震える。
リアが顔を上げ、息を呑む。
「……来る。」
次の瞬間――
黒い影が上空から降り立つ。
着地音すら静か。
しかし存在が空気を支配した。
漆黒の外套。
その背には、魔力ではなく圧。
男は無言のまま視線を横切らせる。
帝国、王国、教会――すら恐れて黙る。
やがて――ミナを見ず、カイルを見た。
そして宣告する。
「――貴様だ。」
カイルは瞬きもせず返す。
「理由は。」
男の答えは短い。
「“独立者”の護衛を名乗るなら――
その実力、証明せよ。」
広場全体がざわめく。
リアが小声で言う。
「……帝国暗部の戦闘判定官。
国家級戦力の価値判断を行う存在……!」
ラウルが肩をすくめる。
「要するに……“上からのチェック”ってわけか。」
男は剣を抜き――
告げた。
「死なせはしない。
だが――倒れた瞬間、お前は護衛資格を失う。」
ミナが叫ぶ。
「そんなの変だよ!
カイルは――!」
カイルは手を上げ、制した。
目は戦う者の目。
「いい。
これは必要な戦いだ。」
◆戦闘開始
無音。
次の瞬間――
ッ!!
男が消えた。
いや、“速すぎて見えない”。
リアが絶叫する。
「高速戦術――空間跳躍混合型!
視覚追跡不可能!」
ラウルが構えながら呟く。
「カイル……死ぬなよ。」
ミナの目が震える。
(来る――!!)
――刃がカイルの首へ向かう。
しかし。
キィィィィン!!!!
火花が散った。
カイルは――止めていた。
剣も構えもせず。
ただ腕一本で。
男が呟く。
「……受けたか。」
カイルが静かに返す。
「“反応”は稽古で十分だ。
問題は“次”だろう。」
男の目が鋭く光る。
◆本当の戦闘
今度は――音が消えた。
世界が止まったような空気。
男が地を蹴る。
「――第二式。」
影が幾重にも重なり、
刃が四方向から同時に襲う。
ミナが叫ぶ。
「やめ――!」
しかし。
空間が裂けるような音。
ガガガガッ!!!!
四方向への斬撃がすべて――受け止められていた。
カイルの剣一本で。
男の眉が僅かに動く。
「……型が違う。
騎士でも剣士でもない。」
カイルが答える。
「俺の剣は“守るため”だけで研いだ。
それ以外に意味はいらない。」
男は低く笑った。
「――なら、見せろ。」
◆最終衝突
男の刀身から圧縮魔力が走る。
リアが叫ぶ。
「最大戦闘出力……
反撃しないとカイルが――!!」
ミナの心が軋む。
(カイル――動いて!!)
男が最後の構えに入る。
「終式――断界。」
世界が割れるような感覚。
だが――
その瞬間。
風が、変わった。
カイルの足が一歩動いた。
その動きは――静かで、迷いがなく、必然。
男が振り下ろす――
――が。
剣が止まっていた。
刀身にカイルの刃が触れ、
音すら立てず止められている。
男は目を見開く。
カイルは静かに告げた。
「終わりだ。」
ほんの一瞬。
ただその一言だけで――
刃が弾かれる。
男は体勢を崩し、地面に片膝をついた。
観客席が震える。
◆結果
男はゆっくり立ち上がり、剣を収めた。
そして――深く頭を下げる。
「承認する。
貴様は“独立者守護者”として相応しい。」
ミナが駆け寄る。
「カイル! 大丈夫!?」
カイルは疲れた息を吐きながら微笑む。
「……問題ない。
俺は、生きてる。」
ミナは胸に手を当て、涙をこらえながら笑った。
「……よかった。」
男は帰り際に振り向く。
「覚えておけ。
世界はこれで安心しない。
次は――“奪いに来る敵”だ。」
風が吹き、彼の姿が消える。
ミナは空を見上げた。
戦いは終わっていない。
しかし――
守られる存在ではなく、
共に立つ存在として。
仲間は確かにそこにいた。
──第93話へ続く




