第90話 試練開幕――世界が試す舞台
翌日。
蒼紋都市外縁――“断層闘技場”。
大地が裂けた巨大円形坑道。
周囲を魔導障壁が覆い、観測者・研究者・外交官が並ぶ。
頭上には三つの旗。
帝国
王国
教会
そして中央には――
白い無紋の旗。
それが“独立者”の証。
観客席では声が飛び交う。
「本当にやるのか?」
「失敗したら世界規模で終わるぞ……」
「いや、だからこそだ。これは前例になる。」
ミナはリング中央に立つ。
風が静かに衣を揺らす。
胸は高鳴っている。
だけど――逃げたい気持ちは、もうない。
カイル、リア、ラウルが背後に並ぶ。
ラウルが拳を鳴らす。
「よし、久々に体で会話する時間だ。」
リアは魔導式を準備しながら分析。
「試練は三段階。敵の質が毎回変わります。
ただしルールは――撤退不可」
カイルはただ短く言った。
「勝て。」
ミナは頷く。
◆第一戦:魔装傀儡
地響きが鳴り、岩壁が割れる。
そこから現れたのは――巨大な戦装甲人形。
全身が魔導金属で覆われ、
魔力炉心が不気味な光を漏らしている。
リアが警告。
「これは……軍事兵器級。
感情も魂もない。共感は通じません。」
ミナは一歩前に出る。
「……なら、倒す。」
傀儡が咆哮のような駆動音を響かせ突進。
地面が砕ける。
衝撃波が走る。
カイルが前へ。
「来い。」
金属拳が振り下ろされる――が。
ガキィィン!
カイルの剣が受け止めた。
だが重量が桁違い。
地面に亀裂が入る。
ラウルが横から突撃。
「おらぁッ!!」
拳が傀儡の肋部に直撃し、金属がへこむ。
が――傀儡は怯まない。
リアが魔術陣を構築しながら叫ぶ。
「弱点は後背部の炉心!
正面は囮、背後を取るしか――!」
ミナが叫ぶ。
「ラウル、押さえて!」
「任せろ!!」
ラウルが傀儡の腕を掴み、地面に叩きつける。
それでも暴れる。
カイルが刃を滑り込ませる。
「ミナ、今だ。」
ミナは息を吸い――走った。
傀儡の背へ跳び乗り、炉心へ掌を当てる。
魔力共鳴——発動。
機械には心がない。
けれど――流れはある。
ミナは魔力に触れ、囁いた。
「……止まって。」
振動が止まる。
光が消える。
そして――巨体がゆっくり倒れた。
観客席がざわめく。
「強制停止……?制御ではなく……干渉?」
「理論外だ、何をした……?」
リアは息を吐いた。
「……成功。
機械式のミナ適応反応確認。」
ラウルが笑う。
「よっしゃ一体目突破!」
カイルは静かに剣を収めた。
◆第二戦:黒雷獣
次の敵は、空を裂く稲光と共に現れた。
黒い雷を纏う巨大な獣。
怒り、絶望、獣性――感情が渦巻いている。
リアの声音が変わる。
「……これは危険。
下手をすれば……精神汚染されます。」
ミナは前に出た。
「……大丈夫。」
黒雷獣が唸り、雷が走る。
――ドォン!!
一瞬で距離を詰め、ミナに襲いかかる。
カイルが割り込み剣で雷撃を弾くが――
衝撃だけで足場が砕ける。
ラウルが吠える。
「バケモン火力だ!!」
ミナは拳を握り、進む。
黒雷獣が再び突進――
牙がミナへ迫る。
その瞬間。
ミナは叫ぶのではなく、
静かに触れた。
「……痛いね。」
黒雷獣の動きが止まる。
誰も理解できない静寂。
ミナは瞳を閉じ、言葉を紡ぐ。
「怒っていい。
叫んでいい。
でも――ひとりで抱え込まなくていい。」
雷が弱まる。
黒い毛皮が柔らぎ、目が透明になる。
獣は――泣くように身を伏せた。
観戦席が震える。
「魔物……従った……?」
「違う、あれは服従じゃない……
“救済”だ……」
リアは震えた声で呟く。
「第二段階……突破。」
◆そして第三戦――最後の相手
静寂。
風が止まる。
空気が重く変わる。
ミナが息を呑む。
カイルの表情が鋭く、ラウルが唾を飲む。
リアが震える声で告げた。
「……第三戦。
出てくるのは――人間。」
観客席が揺れる。
影が一歩、リングに降り立つ。
フードが外れる。
そこにいたのは――
アリア。
ミナの心臓が止まりかける。
アリアの声は、祈りのように静か。
「ミナ。
あなたが選んだ道を……
わたしは確かめに来た。」
ミナの拳が震える。
逃げられない。
これは――
“感情と思想の戦い”。
そしてアリアが宣言する。
「第三試練――
わたしと戦いなさい。」
──第91話へ続く




