表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/71

第9話 三人で進む道

朝の光が森の入口を照らしていた。


巡礼者ラウルを守りながら街道を進む。

風は柔らかく、昨日までの不安が嘘のように穏やかな空気が流れていた。


ミナはローブの裾を揺らしながら、少し照れくさそうに言う。


「……こんなふうに、誰かと旅するのって……実は初めてなんです」


リアが驚いたように振り返る。


「学院の実習で多人数の遠征はなかったんですか?」


「通常はあるんですけど……わたし、魔法が得意すぎて……

 他の子の魔法に干渉しちゃうから、危ないって言われて……」


リアはきょとんとしたが、俺だけは理解した。


高すぎる魔力を雑に抑え込もうとすると、

周囲の魔法陣や魔力構造に干渉して乱すことがある。


――つまり、“魔力がありすぎる子”だった。


リアは優しく言う。


「得意すぎるのも悩みになるんですね」


ミナは俯き、枯れ草を小さく踏む。


「……だから、嬉しいんです。

 こうして誰かと一緒に歩けるの……」


言葉は小さいのに、しっかりと心がこもっていた。


少し照れくさくなったのか、ミナは慌てて話題を変える。


「そ、その! リアさんって……剣、すごく上手ですよね!

 どうやって強くなったんですか?」


リアは少し悩んだあと、まっすぐ答えた。


「守りたい人がいたからです。

 その人に追いつきたかったし、支えたかった。

 結局、追い抜けないままになってしまいましたけどね」


その横顔はどこか寂しげだったが、

次の瞬間、ミナがパッと顔を輝かせた。


「じゃあ今は、カイルさんを守るために強くなってるんですね!」


リア「えっ」


俺「いや違うだろ」


ミナ「あ、違ったんですか……?」


リア「い、いやカイルさんは守りたいですけど!

 そ、そういう意味ではなくて――!」


ミナ「じゃあ、カイルさんのこと好きなんですか?」


リア「す、好き嫌いで言えば好きですけど!!」


俺「そういう意味じゃないだろう」


ミナ「えっ違うんですか!? あれっ!? 混乱してきました……!」


リアは真っ赤になって両手を振り、ミナは混乱して涙目。

俺は困っている。


この三人らしい空気だと思った。


ラウルは楽しそうに微笑んでいる。


「仲の良いパーティで安心しました」


そんな穏やかな雰囲気のまま森道を進んでいたが――


リアが足を止めた。


「カイルさん。前方」


「分かってる」


風が変わった。

空気が静かになり、森の奥の影がうごめく。


狼型魔物ダークウルフが数体、草影から姿を現す。


通常の狼より速く、牙に闇属性を帯びている厄介な相手だ。


ラウルを守るため、俺たちは前に出る。


リアが構える。


「私が前で受け止めます。カイルさんは――」


「いや、今回は三人でやる」


驚いたようにリアとミナが振り向いた。


「戦いは“慣れる”ことが大事だ。

 ミナ、援護を頼む。近接補助系の軽い魔法がいい」


ミナは息を呑み、だけどはっきり答えた。


「……やります。やりたいです!」


その声は、昨日よりずっと強かった。


ダークウルフたちが一斉に駆ける。


リアは剣を構え、吼えるように踏み込む。


「はぁっ!!」


剣撃が正確に一体の前脚を捉え、動きを止める。


その瞬間を逃さず、ミナが詠唱する。


「《加速付与ブースト》リアさん!」


リアの身体に光が走り、動きが一段跳ね上がる。


「助かります!」


そのままリアは残り二体の懐へ切り込み、進路を塞いだ。


だが後方から三体がラウルへ回り込もうとする――


そこで、俺が前に出た。


「ほら、こっちだ」


魔物たちが敵意をこちらに向けた瞬間――


「《魔力殴打マナブロー》」


拳で殴った。

ただ殴っただけなのに、魔物の巨体が地面に叩きつけられ、悲鳴も出せず気絶する。


戦闘は一瞬で終わり――


最後にリアが三体まとめて吹き飛ばし、戦闘終了。


ミナは肩で息をしながらも、ぱっと花が咲いたように笑った。


「わ、わたし……できた!

 リアさんに、ちゃんと魔法を届けられた……!」


リアもミナの肩を軽く叩き、誇らしげに言う。


「素晴らしい援護でした。攻撃よりも難しいのに」


ミナの目には涙が浮かんでいたが、

今日はもう“悲しい涙”ではなかった。


「わたし……一緒に戦えたんだ……!」


その言葉は、森道にまっすぐ広がった。


ラウルも静かに頷く。


「あなたは立派な冒険者です。ミナさん」


ミナは照れくさくローブを握り、ゆっくりと息を吐いた。


この旅で、初めて自信を持てた瞬間だった。


戦いが終わり、三人の会話は自然と弾む。


リア「ミナの魔法、すごく正確でしたね」


ミナ「えへ……褒められるの、慣れなくて……」


俺「慣れればいい」


ミナ「えっ……慣れていいんですか……?」


リア「もちろんです。いくらでも褒めますよ」


ミナ「う、嬉しくて泣きそうです……!」


俺「泣くなら嬉し涙にしとけ」


ミナ「じゃあ泣きます……!」


リア「泣かなくていいですよミナさん!」


そんな会話が続き、森道は笑い声で満たされた。


——守りたいと思った。


戦力としてではなく、仲間として。


そして、この穏やかな旅が続けばいいと願った――


だが、願いはいつだって簡単には叶わない。


森の奥から別の殺気がこちらを探っている。

ミナの魔法の痕跡を追うように。


護衛依頼はまだ始まったばかり。

穏やかな旅路は、再び試される。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ