第88話 返答の儀――三国の前で立つ
翌日。
蒼紋都市中央議事堂――“蒼天の間”。
天井は魔導結晶でできた巨大なドーム。
空のように澄み、どこまでも高く広がっている。
会場には――
帝国代表 フェリクス
王国魔導評議会代表 クロード卿
教会“聖紋席” アリア
そして、各国の観察官、魔術師、研究者たちが座していた。
中央にはひとつだけ――白い台座。
ミナのための席。
リアが小声で言う。
「深呼吸を。
ここから先は、“あなたが選ぶ世界”です。」
ラウルが拳を軽く当ててくる。
「言いたいこと言やいい。噛んでも構わん。」
カイルはただ短く頷いた。
「行け。」
ミナは震える足で、ゆっくり歩き出す。
台座の前に立つと――世界が静まる。
◆宣言
議長が声を響かせた。
「ミナ・シュメール。
本日、世界はあなたの立場を正式に問う。」
重く、しかし儀礼的な声。
「三勢力はあなたにそれぞれの選択肢を示している。
帝国、王国、教会――いずれかに属するか。
あるいは――」
視線が集まる。
「いずれにも属さず、独立の立場を取るか。」
議場が息を飲む。
ミナは手を握り、前を向いた。
◆各勢力の宣言
まず――帝国。
フェリクスが立つ。
「帝国は、あなたを“魔術体系進化の鍵”と認める。
研究と保護、そして強固な後ろ盾を提供しよう。」
その目は静かだが鋭い。
「世界は変わる。
君が望む未来を共に作れる。」
次――王国。
クロード卿が立つ。
「王国は責務を問う。
あなたはかつて王国の保護下にあった。」
冷たいが筋の通った声。
「帰還し、守られた秩序の中で力を磨け。
危険な独立は許されない。」
そして――教会。
アリアが立つ。
ミナの視線と重なる。
その声は祈りのように柔らかかった。
「ミナ……
あなたは神に選ばれた存在。
迷うことはない。
戻ってきて。」
その優しさは――鎖のように重かった。
◆沈黙の時間
議長が言う。
「では――答えよ。」
ミナは深く息を吸う。
胸が苦しい。
足が震える。
喉が締まる。
けれど、逃げない。
(誰かのためじゃなく。
正しいふりをするためでもなく。
傷つかない世界を選ぶためでもなく。)
“わたし自身の答え。”
ミナはゆっくり顔を上げた。
声は震えていた。
でも、嘘がない声。
◆ミナの答え
「……わたしは、どこにも属さない。」
議場がざわめく。
ミナは続ける。
「帝国の未来も、王国の秩序も、教会の信仰も……
素晴らしいと思う。」
「でも――
わたしは誰かの枠に収まるために生きてるんじゃない。」
静けさが広がる。
「わたしは、選びたい。
世界を“どう見るか”だけじゃなく、
世界と“どう繋がるか”を。」
ミナの瞳に迷いはなかった。
「だから――わたしは独立する。
“ミナ・シュメール”として。」
◆反応
帝国代表フェリクスは静かに微笑む。
「……良い。
それこそ“自由意思保持者”だ。」
王国代表クロードは歯を食いしばるが、言葉に敬意が滲む。
「愚かであり、しかし誇り高い。
評価は……保留とする。」
そして――アリア。
その目は悲しみと怒りと、失望を混ぜたような複雑な色。
「ミナ……あなたはひとりになる。」
ミナは静かに首を振る。
「……違う。
ひとりじゃない。」
ミナの背後に、カイル・リア・ラウルが立つ。
アリアの目がかすかに揺れた。
◆世界が動く音
議長が静かに告げる。
「宣言は受理された。
本日より――
ミナ・シュメールは“独立個体”として世界に認定される。」
その瞬間。
議場の空気が変わった。
誰もが理解した。
今日を境に――
世界は前と同じ形では存在しない。
ミナは静かに呟く。
「……これが、わたしの答え。」
カイルが短く返す。
「よく言った。」
リアは満足げに微笑む。
ラウルは肩を叩きながら笑う。
「お前らしい。」
ミナは空を見上げた。
蒼い光がドームに反射し、広がる。
“自由”という言葉が、
初めて形になった瞬間だった。
──第89話へ続く




