表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/231

第85話 蒼紋都市、揺れる秩序――最初の衝突

昼下がり。

学院前広場は、いつもより人が多かった。


魔術研究者、学生、行政官、ギルド員――

そして一般の市民までもが集まっている。


ミナは遠くからその光景を見て、胸がざわついた。


(……あれ、わたしのこと……?)


リアが短く頷く。


「そうです。あなたに関する討議が始まったようです。」


ラウルが肩をすくめる。


「早いな。世界はミナが答え出すより、先に結論欲しがってる。」


カイルは静かに言った。


「行くか。

逃げる必要はない。」


ミナはゆっくり歩き出す。


◆意見のぶつかる場所


中心では、二人の人物が議論していた。


一人は昨日の講義で質問した理論派の青年研究者。

もう一人は、魔術学院の権威ある中年教授。


青年研究者は言う。


「彼女は危険ではありません。

むしろ、人と魔物の境界線を新しく描き直す存在です。」


教授は鋭く返す。


「理想論だ。

力というものは、本質的に制御されるべきだ。」


周囲がざわめく。


青年は反論する。


「彼女は支配していない。

恐怖ではなく、理解で接触した。」


教授は鼻で笑う。


「理解など幻想だ。

共感は最も不安定で、最も危険な魔術だ。」


その言葉に、ミナの胸が刺された。


(共感は……危険……?)


青年研究者は声を強める。


「あなたは昨日の試験を見ていない!」


教授はゆっくり青年に近づき、低く言う。


「私は“被験者の目”を見た。

あれは救いではない。

依存だ。」


青年が息を呑む。


周囲が騒然とする。


そして教授は群衆に向かって言い放った。


「あの少女は危険だ。

理由はひとつ。

――“誰にも傷をつけないと思い込ませる力”を持つからだ。」


まるで刃だった。


ミナは言葉を失う。


胸の奥がざわりと揺れる。


(……間違ってる……

でも……わたし、どう言えば……?)


その時――


青年研究者がミナの前に立った。


学生や研究者たちも、彼の背後へ集まる。


「彼女は傷つけなかった。

それが、証拠だ。」


教授は吐き捨てるように言う。


「それが一番危険だと言っている。」


青年が反論しようとした瞬間。


教授の視線が――ミナを刺した。


「少女。

答えろ。」


広場の空気が止まる。


カイルが動こうとするが、ミナが手で制した。


(言わなきゃ。

逃げたら、わたしが決めた“歩く”に嘘になる。)


ミナは一歩前に出る。


教授の目は試す者の目。

否定と期待の境界。


ミナは震える声で問い返す。


「……わたしが、危険かどうか。

その答え、どうしてわたしじゃなくあなたが決めるの?」


広場が息を飲む。


教授の表情が初めて揺れた。


ミナは続ける。


「あなたはわたしを怖がってる。

でもわたしも怖いんだよ。」


教授「……何にだ。」


ミナの声は震えていない。


「“正しいふりをしたまま、何も選ばない人間になること。”」


沈黙――そのまま落ちる。


教授の目が見開かれる。


ミナは最後に言った。


「間違えるのが怖いから選ばないんじゃない。

選ばないことこそ、いちばんの危険だよ。」


広場に、静かで深いざわめきが広がった。


◆反応と変化


支持派の学生が小さく呟く。


「……そうだ。

間違えてもいい。

選ばないのは……止まることだ。」


別の研究者が腕を組む。


「……評価を急ぎすぎていたのはこちら側かもしれない。」


市民の一人が囁く。


「……あれは子どもの声じゃない。

答えを探す者の声だ。」


青年研究者の目に温かい光が宿った。


◆教授の返答


教授は長い沈黙のあと、ゆっくり口を開く。


「……まだ答えではない。」


ミナは頷く。


「うん。

でも、始まりにはなる。」


教授は背を向けた。


しかしその声は柔らかかった。


「ならば、歩け。

君の答えを――見せてみろ。」


◆その夜


宿に戻ったミナは窓辺で息を吐く。


今日、彼女は初めて


“世界と対等に話した”。


それが怖くて、苦しくて――

でも確かに誇らしかった。


ミナは小さく呟く。


「……わたしは、ただ救いたいんじゃない。

ちゃんと選べる自分でいたい。」


扉の向こうからカイルの声。


「なら、歩こう。

迷いながらでいい。」


ミナは微笑む。


「うん。

迷いながら、ちゃんと前へ。」


カーテンが揺れ、夜風がそっと背中を押した。


──第86話へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ